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太陽の巫女、しかし彼女は人間だった

『一話・少女の涙、走り出す少年』


 太陽の祝福なき地、台の国は民に希望を与える為、鏡光の儀式を執り行う。僅かな光が雲の狭間から零れ落ちた時、現人神は台に呼ばれた。

 雨も無く、日の光も無い。曇り空のどうにもならない日々に打ちのめされ、それでも懸命に日々を生きる彼らの姿が映る。彼等は神の降臨に熱狂した。少女は辺りを見回す度に知る事となる――人の間に、私の居場所は、無い。

 逃げてしまえば、楽になれるだろうか――服の重みが責務を果たせと囁いた。

 私はこんな立場を望んではいない、と叫びたくなる――それでも少女が頑張る民を見捨てる事は出来無かった。

「太陽を背負う巫女よ。この国の滅びに付き合え」

「……はい。我が光、台の為に照らしましょう」

 少女は覚悟を滲ませて見据えた、声は不思議と澄んでいる。

 器を口にした時、その選択と運命を少女は飲み込んだ。

 だけど、裏の廊下が姿を隠した時、――私は震えた。

――私は神様なんかじゃない。

 彼我に隔たる距離は断絶していて。

――誰も、私を見てくれない。

 恐ろしい運命に涙を溢す――彼女の小さい身体を苛んでいて。

 苦しい程の孤独に嗚咽する。――覚悟を吐き戻さぬよう勤め上げた。

……誰か、私を、助けてよ。



 国を外れて風に草木が揺れる所、一人の少年が剣を構えた。

 認められなくとも良い。ただ、捧げる相手が居ないことには、一抹の寂しさを感じる。

 俺に守りたい人は出来るのかな。

 今は居なくとも、いつか、誰かに伝わると信じ。

 俺は虚空に構え、踏み込み、打ち込んだ。


 俺は国の中心に向かう。太陽の巫女が降りるという話を聞き、一目見ようと歩いて行く。

――そして光が落ちた。それは一瞬の出会いだが、少年はその時を掴む為に剣を磨いて来た。彼は光を見つけたのだ。

――あの儚い祈りに呼ばれた気がしたんだ。

 光を目掛け、まだ何者でもない少年は駆け出した。




 少女はその時、自分の声が届いたことを知った。

 運命を視る瞳は少年の走る姿を映している。

 応えてくれる人がいる――私はもっと我儘になって良いんだ。

 重い衣をしゅるりと脱ぎ捨て、少女は神殿を抜け出した。

 

『二話・君は咲いた様に、笑った』


 現人神として招かれた巫女に、剣の在り方すら定かでない少年が会いに行く。


――誰か、私を、助けてよ。

 それは小さな願いだった。

 話がしたい。たったそれだけの願い。

 

 少年は駆ける――風に押されて、丘を越える。

 少年は進む――草むら掻き分け、光が差した。


 彼は祈りに応え――そして彼女が降りてきた。


 少年の草むらの匂い、少女の香の薫り。


 彼女の雰囲気は柔らかい仕草と、侵し難い程に清らかな服装が織りなしている。

 高貴な者の象徴の輝ける金の耳飾り。

 素朴な人柄の少女は明るい陽だまりを歩くように。

 彼女の腕にミサンガが揺れる。

 運命を見る綺麗な瞳――その瞳は俺を惹きつけていた。


 誰かを優しく包み込む、儚い光。

 彼女の眼に炎が揺らいだ。

「君は(太陽か)」

 だけど、彼女は人間だと主張していた。

 泣くこともあり、笑うこともあり。

 少女は確かに息づいている。

――走ってきたのだ、彼女も。


 俺が彼女を人間として見た時――彼女は咲いた様に笑った。

「私、ユズリハ。ユズリハって呼んでくれる?」

「頑張ってる人を見ると……私ね、応援したくなっちゃうよ」

 人から元気を貰い、健気に生きる。

 ただ、その在り方が、尊い。

 彼女の応援する声に――思わず心臓が高鳴った。

「ユズリハ、君の腕に付けてるそれ、可愛いな……」

 彼はその言葉を投げ掛けた後、目を逸らす。

 彼女への想いを心に秘めたくて。

「これはミサンガ、願いを叶えた時に切れるんだ」


 夕日の差す時、少年は尋ねる――彼女の深みに踏み込んだ。

「君の願いって?」

 ユズリハは手首の編み紐に想いを籠める様、撫でる――その姿が影と重なった。

「……人として、誰かを好きになって、誰かを信じて――"ありがとう"で死ねたらいいな、って」

「そんなこと言わないで……」

 彼女の死期を悟る綺麗な眼が、怖い。

 彼女を止めてくれ――思わず、自分の手を見た。

「私、ちゃんと生きて、誰かに看取られたいの」

 俺は期待してた、君が笑ってくれると、君の笑う姿を守りたいと――その想いが砕けていく。

 彼女は後ろ手に組み、沈黙する彼に微笑みかける。


「君の名前も教えてよ」

「……シリウス。守りたい物を守りたくて、俺は剣を掴んだ」

 その時、彼女は憂慮に沈む――沈みゆく夕日に想いを馳せる。

――剣を置いて、私の隣に居て。

(そんな事は言えないよ。この人はきっと強くなる)

 ユズリハはぽつりと呟く。締め付けられる様な選択の片方を、漏らさずにはいられなかった。

「ヒトとして、生きたいよ……」

 彼女は思いを断ち切り、彼を振り返らずに告げる。

「さようなら、臆病な君。私はその剣、続けて欲しいな」

「……また、会いに行くよ、俺は」

 夕日に消える寂しげな背中。彼女を笑わせる事が出来ない、不器用な自分。後には涙だけを残していった。

 

『三話・彼女の覚悟』


 曇の隙間に、陽の光が差し込む中、巫女達の白い衣が翻る。水に濡れることなく、泥に汚れることなく。彼女達が進む度に水溜りに波紋が広がっていく。


 鈴の音が鳴り響き、皆、祈る様に跪く。

 黄金色に輝き、地上に降りる――美しき、神が。

 アマネ様、と輝きを讃える声。


 ユズリハ――彼女は、人間だ。


 少女は太陽の代わりを求められていた。

 それでも、その背中は余りに細く――光を背負うには儚すぎた。

 なのに少女は。

 運命を映す瞳に炎が揺れて、己の燃え尽きる未来が視えても、その道を進む覚悟を抱いていた。


 彼女の腕の中でミサンガが悲しそうに揺れる。

(ユズリハ)

 呼び掛けたかった。だが、呼べなかった。

 彼女は巫女の顔をしていた。

 たった一度の一瞥。

 その短い視線の交錯に、俺は痛感する――俺達の遠さを。

 俺が彼女に声を掛けていたら、何か変わっただろうか。

 遣り場も無く、声がぽとりと落ちた。


 彼女は人間だ。なのに、俺はただ跪いて見ていることしか、しない、出来ない。

 泥を握りしめる。怒りと屈辱とが綯い交ぜになって、身体が震える。

 否応にも、思い知る。身分の違い。俺は何を伝えれば良い?


 小さく無垢な子供だけが、身分の壁を越えていく。

 その子はトテトテと歩いて来て――水溜りで転んだ。

 ユズリハは前に進み出て、小さな子供に手を差し伸べる。

 彼女の差し出した手が泥に濡れても。

 小さな子のキャッキャと笑い――ざわめきが起こる。

――もしや、彼女は人間なのか。そのように言葉が広がっていく。


 彼女はふ、と微笑んだ気がした。

 きっと彼女はこの先、少しずつ人間として受け入れられて行くのだろう。

 君が我儘になっていいって教えてくれたからだよ――そんな声が聞こえた。


 彼女達は太陽に向かって進んでいく。

 その横顔には巫女としての覚悟に、人の生き様が乗る。


――君は掴めたんだな、少しだけでも、自分の居場所を。

――そして、行くんだな。その道を。

 シリウスはその光景を眼に焼き付ける。


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