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プロローグ〜優しい先生〜
雨。
誰の心にも残らないような、静かだが、とても冷たい雨だった。
放課後の校舎。
誰もいない廊下を一人の少女が歩いていた。
歩く音は、ほとんど聞こえない。
何か浮いているような感じさえ見受けられる。
「三枝 霞」ーー1年C組。
目立たず、声も小さく、ノートの隅にだけ本当の言葉を書いていた少女。
そのノートを抱きしめている。ノートにはこう書かれていた。
>「先生は優しい。でも優しいだけじゃ、私は守られない。」
彼女は屋上にある錆びついた扉をゆっくりと開ける。
風が湿った制服を揺らした。
「どうして誰も止めてくれなかったのだろう・・・・・。」
「どうして先生は ”見てるだけ" だったのだろう・・・・。」
音無き足音が止まった。
鉄柵の前に立ち、彼女はゆっくりと目を閉じた。
雨が顔に当たっているが、もはや冷たさは感じなかった。
そして・・・・飛んだ。