表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

斬るための剣

見つけてくれてありがとう!


良かったら最後まで読んでね!

「ああもう!難しい話は()()りだ!そんなことより、カノンのこともっと教えてよ!」


「嗚呼いいだろう!何でも聞いてみなさい!」


 (はかな)げだった彼女の表情は一変して、またガキ大将のように威張(いば)りだす。


「何歳なんだ?どうして剣になれるんだ?ってかどうやって俺のこと助けたんだ?」


「多いな!?いっぺんに聞くな!」


「え~いいじゃんか……!それならー、カノンは何歳なんだ?」


 カノンは手を腰に当てたままズイッと顔を近づけて満面(まんめん)の笑みを浮かべる。


「何歳だと思う?」


 満面(まんめん)の笑みと言ったがあれは嘘だ!

 目の奥が全然笑っていない……!


「え、えーと剣の精霊(せいれい)だから千年とか……?」


「……。」


 彼女の反応は無い。まさか、あっていたのだろうか?それは気まずい……。


 彼女はまた(はかな)い顔をする。


「……ぶん……さい」


「……え?聞こえないぞ?」


 カノンの(ひか)えめな顔はみるみる(いか)りに変わっていく。


「二百年を過ぎたあたりからちゃんと数えるのは辞めた!でも肉体年齢はピチピチの15歳だぞ!?」


 そう言って彼女は俺の隣へ座る。


「なんだ。それなら俺よりも二年はピチピチじゃないじゃんか。ッイテ……!」


 ベットで隣に座るカノンに強く(たた)かれた。


「うるさいぞクソガキ!というか、まずお前は『え!?二百年超えてるの!?』ってところで驚くべきなんだ!そして『え!?ウソー!?全然そんな風に見えな~い!』とお世辞(せじ)でも言うべきなんだ!」


 誰のモノマネかはわからなかったが、確かに中身はおばさんのようだ。


 二百歳は確実に超えているのだろうな。


「二百歳で驚けっていうけどさ?剣がしゃべったりする時点でもう規格外(きかくがい)だし、現実味が湧かないんだよな。」


「規格外……規格外か……そうだ私は規格外……!私こそがザ・ゴッッッデス オブ リバティ!なんてったって自由の剣だからな!」


 何がスイッチかは分からないが、また腰に手を当てて威張(いば)()らかし始める彼女に、俺は思わずため息をついてしまった。


「自由の剣って、カノンは何か特別な剣なのか?」


「はーっはは!聞いて驚け!私はあの四大剣のうちの一つ、自由の剣なのだよ!あーっはっはっはっは!さすがのお前でも知ってるだろ?」


「いや、ごめん知らない。」


「えぇ……自信なくすぅ……」


「まるで常識みたいに言わないでほしい。俺は自慢(じまん)じゃないけど、絵本すらまともに読んだことがない人間だから!」


 彼女を見習って俺も胸を()って威張(いば)ってみる。


 実際知らないのだから仕方ない。


「えぇーそっかぁ。これがジェネレーションギャップってやつかぁ。二百年前はみんな知っていたんだぞ?」


 どうやら本格的に落ち込んでいる様子を見せる彼女は肩と(ひたい)を落として、あからさまにがっかりした様子を見せる。


「まぁ、俺は強くなるためにずっとダンジョンに(こも)ってたからなー。勉強とか全くしてこなかった。」


 この発言が、間違えだった。


 彼女の地雷(じらい)を踏みぬいてしまったようで、俺はカノンからすごい勢いで(まく)し立てられることになるとは思わなかった。


「だぁぁぁあから!あの五層のニワトリなんぞに負けそうになるんだ!知識とは……!考え方のレパートリーだ!知識の数だけ強くなる方法があって、勝つための道がある!お前は勉強ができないから弱いんだ!このばーーーーか!」


「は?またむ……」


 ダンジョンでより深い階層へ行くのに、ダンジョンへ(こも)って何が悪いのだろうか。


 また難しい事。と言おうとしたが、このオトコ女に負けたような気がして唇を無理やり閉じた。


「まぁ?ライトの事だから?『マタ、ムズカシイコト、ワカンナイー』とか言って逃げるのかもしれんが……!」


「はぁ!?言ってませんー!そんなこと俺言ってないからな!?」


「まぁ最後まで聞け!……私に言わせればな、お前は弱者だ……!強くなれても強くならない歯痒(はがゆ)いヤツなんだよ!」


「……!」


 俺は息を飲んだ。


 まだ強くなれる。その言葉がなんとも魅力的(みりょくてき)で、俺は彼女に尋ねる。


「……俺に…………、どうしろってんだよ……?」


 俺は強くなりたい。


 何故強くなりたいのか、そう聞かれれば単純な話だ。


 浪漫(ロマン)だから。


 強さこそ漢の浪漫(おとこのロマン)なのだ。


「なんだ。お前、強くなりたいのか?」


「嗚呼、教えてくれ……!」


「かーーー!それならな!?お前はまず『ワカラナイ〜』じゃなくて調べろ……!ひたすら本を読んでひたすら剣を振れ!」


 勉強の意味なんて、した事ないから納得出来ない。


 だけど強くなる方法がある。強さに固執(こしつ)する大した理由なんてないけれど、方法があるなら俺は(すが)ってみる。


「分かった、カノン……。今日は図書館閉まってるから、明日から頑張ってみる……!」


「明日じゃない……!今日からだ……!私が教えたんだ、妥協(だきょう)は一切許さない……!素振(すぶ)りぐらいなら今すぐ行けるだろ!」


 カノンは俺の胸ぐらを(つか)んでそう言った。


「いや、下の階にはまだ父さんも母さんもいるし……」


「ちがーう!それならこの部屋の窓から出ればいい……!」


「……。」


「……いけぇぇぇ!今!すぐだ!」


 俺は力強く「はい!」と「ひぃ!」の間の、悲鳴のような返事をして、窓から家を飛び出したのだった。







 真夜中の公園。


 辺りには誰もいない。


 剣に(かた)りかけているヤツなんてなんだか恥ずかしいから、いなくて助かった。


「なぁカノン。ここじゃあ素振りくらいしか出来ないけど、いったい素振りして何になるんだよ?」


「つべこべ言わずやる!」


「……はい。」


 (さや)に入ったカノンを両手で構える。


 きっといつもみたいに何も考えず我武者羅(がむしゃら)にやってもダメなんだ。


 だからこの素振りで何が手に入るのかを考え、俺は剣を振らなければならない。


 それはきっととてつもなく面倒なことなんだけれど、難しいからと逃げてきたツケなのだろう。


 俺は大きく息を吸い、時間をかけて息を吐く。


 葉っぱ同士が風で(こす)れる音がする。


 俺はゆっくりと剣を振り上げようとする。


「ハイッ!ダメェ……!」


 彼女が大きな声でそう言った。


 目の前には両手でバッテンを作って煽るカノン。


(かま)えから何も出来ていません〜!ハイッダメー。」


「うっぜぇ〜……、何が『ハイッ!ダメェー!』なんだよ!」


「まず意識がダメだ!お前、いつも何を考えて剣を振っている?」


 どこから取り出したかも分からない眼鏡(めがね)をかけて講義(こうぎ)を始めるカノン。


 その手にはハリセンを持っていた。


 きっと間違えたら後頭部を叩かれるのだろう。


 俺は恐る恐る答える。


「相手に……当てること……?」


「ハイッ!ダメ〜!」


 バチン!と頭を叩かれる。


「いったいな〜!?んじゃ考えて振ればいいんだよ!?」


「お前が考えているそれ以外だ!強いて言うなら当てるんじゃなくって斬ることを意識しろ!お前の剣はハンマーじゃないんだ」


 煽る彼女に腹が立ち、俺は反論する。


「でも当たらなきゃ意味無いじゃんか、」


 言い終わる瞬間。ばちん!とまたハリセンで頭を叩かれた。


「お前は当たらないところで剣を振んのかぁ?」


 いちいち煽り性能の高い喋り方に腹が立つ。


「……クッソ〜!」


「ほらほら、目を潰れ!剣を構えろ……!」


 俺はカノンに言われた通りに剣を構えた。


「イメージするだライト。今、目の前にモンスターがいる……。お前は剣の当たる場所にいて、あとは首を切り落とすだけ……。」


 イメージする。首を……斬り落とす。


「当てるんじゃなくて、斬るんだ。」


 試行錯誤(しこうさくご)のうえ、不思議と左手に力が入ることに気がついた。


 ゆっくりと俺は目を開く。


 確かにさっきとは違い、へそから真っ直ぐに伸びる剣先。


 右寄りになっていた時に比べると綺麗な構えになっていた。


「うぉ、うぉぉぉお!うぉぉぉお!!!カノン!剣が……!」


 嬉しくなって剣を振り上げてみようと思ったが、普段使わない筋肉に慣れない持ち上げ方。


 慣れるためにも素振りが必要だと気がついた。


「うぉぉぉお!師匠〜〜〜!」


 喜びのあまりカノンに抱きつく。


「こ、こら!……誰が師匠だ…………!?」


 俺は斬るための剣を手に入れた。こうして俺たちは師弟になった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

良かったらブックマーク、高評価よろしく!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ