斬るための剣
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「ああもう!難しい話は懲り懲りだ!そんなことより、カノンのこともっと教えてよ!」
「嗚呼いいだろう!何でも聞いてみなさい!」
儚げだった彼女の表情は一変して、またガキ大将のように威張りだす。
「何歳なんだ?どうして剣になれるんだ?ってかどうやって俺のこと助けたんだ?」
「多いな!?いっぺんに聞くな!」
「え~いいじゃんか……!それならー、カノンは何歳なんだ?」
カノンは手を腰に当てたままズイッと顔を近づけて満面の笑みを浮かべる。
「何歳だと思う?」
満面の笑みと言ったがあれは嘘だ!
目の奥が全然笑っていない……!
「え、えーと剣の精霊だから千年とか……?」
「……。」
彼女の反応は無い。まさか、あっていたのだろうか?それは気まずい……。
彼女はまた儚い顔をする。
「……ぶん……さい」
「……え?聞こえないぞ?」
カノンの控えめな顔はみるみる怒りに変わっていく。
「二百年を過ぎたあたりからちゃんと数えるのは辞めた!でも肉体年齢はピチピチの15歳だぞ!?」
そう言って彼女は俺の隣へ座る。
「なんだ。それなら俺よりも二年はピチピチじゃないじゃんか。ッイテ……!」
ベットで隣に座るカノンに強く叩かれた。
「うるさいぞクソガキ!というか、まずお前は『え!?二百年超えてるの!?』ってところで驚くべきなんだ!そして『え!?ウソー!?全然そんな風に見えな~い!』とお世辞でも言うべきなんだ!」
誰のモノマネかはわからなかったが、確かに中身はおばさんのようだ。
二百歳は確実に超えているのだろうな。
「二百歳で驚けっていうけどさ?剣がしゃべったりする時点でもう規格外だし、現実味が湧かないんだよな。」
「規格外……規格外か……そうだ私は規格外……!私こそがザ・ゴッッッデス オブ リバティ!なんてったって自由の剣だからな!」
何がスイッチかは分からないが、また腰に手を当てて威張り散らかし始める彼女に、俺は思わずため息をついてしまった。
「自由の剣って、カノンは何か特別な剣なのか?」
「はーっはは!聞いて驚け!私はあの四大剣のうちの一つ、自由の剣なのだよ!あーっはっはっはっは!さすがのお前でも知ってるだろ?」
「いや、ごめん知らない。」
「えぇ……自信なくすぅ……」
「まるで常識みたいに言わないでほしい。俺は自慢じゃないけど、絵本すらまともに読んだことがない人間だから!」
彼女を見習って俺も胸を張って威張ってみる。
実際知らないのだから仕方ない。
「えぇーそっかぁ。これがジェネレーションギャップってやつかぁ。二百年前はみんな知っていたんだぞ?」
どうやら本格的に落ち込んでいる様子を見せる彼女は肩と額を落として、あからさまにがっかりした様子を見せる。
「まぁ、俺は強くなるためにずっとダンジョンに籠ってたからなー。勉強とか全くしてこなかった。」
この発言が、間違えだった。
彼女の地雷を踏みぬいてしまったようで、俺はカノンからすごい勢いで捲し立てられることになるとは思わなかった。
「だぁぁぁあから!あの五層のニワトリなんぞに負けそうになるんだ!知識とは……!考え方のレパートリーだ!知識の数だけ強くなる方法があって、勝つための道がある!お前は勉強ができないから弱いんだ!このばーーーーか!」
「は?またむ……」
ダンジョンでより深い階層へ行くのに、ダンジョンへ籠って何が悪いのだろうか。
また難しい事。と言おうとしたが、このオトコ女に負けたような気がして唇を無理やり閉じた。
「まぁ?ライトの事だから?『マタ、ムズカシイコト、ワカンナイー』とか言って逃げるのかもしれんが……!」
「はぁ!?言ってませんー!そんなこと俺言ってないからな!?」
「まぁ最後まで聞け!……私に言わせればな、お前は弱者だ……!強くなれても強くならない歯痒いヤツなんだよ!」
「……!」
俺は息を飲んだ。
まだ強くなれる。その言葉がなんとも魅力的で、俺は彼女に尋ねる。
「……俺に…………、どうしろってんだよ……?」
俺は強くなりたい。
何故強くなりたいのか、そう聞かれれば単純な話だ。
浪漫だから。
強さこそ漢の浪漫なのだ。
「なんだ。お前、強くなりたいのか?」
「嗚呼、教えてくれ……!」
「かーーー!それならな!?お前はまず『ワカラナイ〜』じゃなくて調べろ……!ひたすら本を読んでひたすら剣を振れ!」
勉強の意味なんて、した事ないから納得出来ない。
だけど強くなる方法がある。強さに固執する大した理由なんてないけれど、方法があるなら俺は縋ってみる。
「分かった、カノン……。今日は図書館閉まってるから、明日から頑張ってみる……!」
「明日じゃない……!今日からだ……!私が教えたんだ、妥協は一切許さない……!素振りぐらいなら今すぐ行けるだろ!」
カノンは俺の胸ぐらを掴んでそう言った。
「いや、下の階にはまだ父さんも母さんもいるし……」
「ちがーう!それならこの部屋の窓から出ればいい……!」
「……。」
「……いけぇぇぇ!今!すぐだ!」
俺は力強く「はい!」と「ひぃ!」の間の、悲鳴のような返事をして、窓から家を飛び出したのだった。
真夜中の公園。
辺りには誰もいない。
剣に語りかけているヤツなんてなんだか恥ずかしいから、いなくて助かった。
「なぁカノン。ここじゃあ素振りくらいしか出来ないけど、いったい素振りして何になるんだよ?」
「つべこべ言わずやる!」
「……はい。」
鞘に入ったカノンを両手で構える。
きっといつもみたいに何も考えず我武者羅にやってもダメなんだ。
だからこの素振りで何が手に入るのかを考え、俺は剣を振らなければならない。
それはきっととてつもなく面倒なことなんだけれど、難しいからと逃げてきたツケなのだろう。
俺は大きく息を吸い、時間をかけて息を吐く。
葉っぱ同士が風で擦れる音がする。
俺はゆっくりと剣を振り上げようとする。
「ハイッ!ダメェ……!」
彼女が大きな声でそう言った。
目の前には両手でバッテンを作って煽るカノン。
「構えから何も出来ていません〜!ハイッダメー。」
「うっぜぇ〜……、何が『ハイッ!ダメェー!』なんだよ!」
「まず意識がダメだ!お前、いつも何を考えて剣を振っている?」
どこから取り出したかも分からない眼鏡をかけて講義を始めるカノン。
その手にはハリセンを持っていた。
きっと間違えたら後頭部を叩かれるのだろう。
俺は恐る恐る答える。
「相手に……当てること……?」
「ハイッ!ダメ〜!」
バチン!と頭を叩かれる。
「いったいな〜!?んじゃ考えて振ればいいんだよ!?」
「お前が考えているそれ以外だ!強いて言うなら当てるんじゃなくって斬ることを意識しろ!お前の剣はハンマーじゃないんだ」
煽る彼女に腹が立ち、俺は反論する。
「でも当たらなきゃ意味無いじゃんか、」
言い終わる瞬間。ばちん!とまたハリセンで頭を叩かれた。
「お前は当たらないところで剣を振んのかぁ?」
いちいち煽り性能の高い喋り方に腹が立つ。
「……クッソ〜!」
「ほらほら、目を潰れ!剣を構えろ……!」
俺はカノンに言われた通りに剣を構えた。
「イメージするだライト。今、目の前にモンスターがいる……。お前は剣の当たる場所にいて、あとは首を切り落とすだけ……。」
イメージする。首を……斬り落とす。
「当てるんじゃなくて、斬るんだ。」
試行錯誤のうえ、不思議と左手に力が入ることに気がついた。
ゆっくりと俺は目を開く。
確かにさっきとは違い、へそから真っ直ぐに伸びる剣先。
右寄りになっていた時に比べると綺麗な構えになっていた。
「うぉ、うぉぉぉお!うぉぉぉお!!!カノン!剣が……!」
嬉しくなって剣を振り上げてみようと思ったが、普段使わない筋肉に慣れない持ち上げ方。
慣れるためにも素振りが必要だと気がついた。
「うぉぉぉお!師匠〜〜〜!」
喜びのあまりカノンに抱きつく。
「こ、こら!……誰が師匠だ…………!?」
俺は斬るための剣を手に入れた。こうして俺たちは師弟になった。
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