ガキ大将みたいなカノン
お久しぶりです!
はじめましての方は初めまして!
よければ最後まで読んでください!
夕方も終わりが差し掛かり、空が紫から青黒く変わる頃。
俺達は街の人たちを巻いて、また街の出入口まで来ていた。
ルタは改めてダンジョンへ向かい攻略を続けるようだ。
短い黒髪を一纏めにしポニーテールを作る。
いつの間にかまた青い髪の男性がやって来ていて、二人は馬に乗るとルタが「じゃ」と一言ならぬ一音ほど発して出発してしまった。
夜が始まる頃、俺は一人になる。
「逃げてたって仕方ない……。帰るかー……。」
帰りたくないという気持ちを抱えながら重たい足で帰路に着く。
なんとも残酷なことに家は街の門から遠くはないため、あっという間に家の前へと着いてしまう。
扉に手をかける。
扉が重い。
物理的にではなく精神的にだ。
「はぁぁぁぁあ……。」
この扉の向こうではきっと、噂を聞いた両親が俺を憎んでいるのではないだろうか。
そしたら家を出ていかなければならないんだろうか。
そう思うと扉はどんな大剣よりも重く感じた。
「あああ!もう!心を殺せ!俺!ドアノブ捻って入るだけだろ!?」
そうは思ったが、それじゃ駄目だ。
これは兄を残して生き残ってしまった俺への罰だ。
心そのままで俺は傷つく必要がある。
「……クソ。」
俺は体重を乗せながらも扉をそろりと開く。
きっと怒鳴られるだろう。
きっと貶されるだろう。
扉がゆっくりと開かれたとき、扉の開けてすぐにあるリビングよりも迫ってくる母が目に入った。
「やべっ……」
俺は一瞬剣に手が伸びたが、すぐに両手を広げて迫る母を受け入れることにした。
ナイフで一刺しされることだって厭わないつもりだった。
「……ライト!」
ボスッ……!
迫ってきた母は刺しも殴りもせず、俺のことを強く抱きしめた。
「母……さん……」
抱きしめる母に俺は広げた両手をどうすればいいかわからなくなった。
「お帰り、ライト。」
「父さんも……」
片目を失って眼帯姿の父が、いつものように新聞を開いて座っている。
「父さん、母さん……ただいま!」
そうだ、二人はこういう人間だ。
どうして疑っていたんだろう。
いや、違う。
俺は貶してほしかったし、怒鳴られたかったんだきっと。
なんでかはわからないけど。そうあるのが正しいと思ったんだ。
「ライト。お腹空いたでしょう?それとももう疲れた?」
ほのかに好物のシチューの匂いがする。
パンの焼けた香りもする。
「ご飯!」
俺はそう言って家の戸を閉めた。
その日の夕飯は、まるで兄がいないだけのいつもの夕食だった。
だから余計に実感が湧かなかった。
食事を済ませお風呂に入った俺は、両親に「もう寝なさい」と促されて自室へ向かう。
久しぶりの自室。
ベットへ腰を下ろし、そのまま横になる。
一段落着いてしまった。
一息ついてしまった。
あんなに忙しなく、激しく、命懸けだった3日間が終わったのだ。
兄とプランが死んだその瞬間、頭が真っ白になりはしたが悲しくはなれなかった。
実感がわかなかった。
あの時はそれどころじゃなかったから、きっと一息つける時間が来たら泣けると思っていた。
けれど泣けない。
「なんて冷徹なヤツだ、俺ってやつは」
兄が死に、友人のプランが死に、一日だけ両思いだったヘンリも死んだ。
何とかエリアボスまでたどりつけたが、俺だけが生きていても良いのだろうか。
心の中に穴が空いたような。とまでは言わないが、なんだかずっと落ち着かない。
心はまだダンジョンにいるような感覚だ。
あの一連がまだ終わっておらず、ダンジョンへ向かえばまた兄と会える気さえする。
ダンジョンでの出来事を思い出しながら、窓へ立て掛けた剣へ目をやる。
「……。あれ……?忘れてたけど……、コイツ光ってなかった……!?」
そうだ。光ってた。
なんなら声が聞こえた。
「……ありがとうな!お前がいなかったら死んでたよ!剣!」
鞘をノックしながら俺は礼を言ってみる。
剣とはなんて無機質な名前だ。
だが、それでも助けられたのは本当だから、礼は言うべきだと思った。
返事なんか来るはずないのだが。
するとそれに応えるかのように剣は光りだす。
「あーハッハッハ!礼には及ばねぇ!」
あの時の女の子の声が聞こえる。
やっぱりこの剣が声の主だったのだ。
光りだした剣は徐々に形を変えて、人の形へと変形する。
「え……え!?」
ただ困惑する俺。
「なんて顔してんだライト!あー!ようやく出られた!いつぶりの外だろ……!なんッッて清々しいッ!」
「えぇ、え?」
困惑。何もかもに困惑。
長くて白い髪は毛先が淡いピンク色で、瞳と同じ色をしている。
同い年くらいの少女だ。いや、2つ上くらいか?
剣が喋るのも人型になるのもそうだが、
「そんな喋り方だったんだ……!?」
こんな男勝りな喋り方だとは思っていなかった。
思わず俺は唇が力んでつぐんでしまう。
「ま、まぁ何がともあれ、俺が助かったのはアンタのお陰だよ。ありがとな!アンタ!」
「アンタじゃない!私の名前はカノン!今後はカノン様と呼ぶがいい!」
なんだコイツ、ちょっとウザイな。
両手を腰に置いて威張り散らかしている彼女へ俺はそう思った。
それがカノンに対する第一印象であった。
「あ!そうだ!両親に紹介するぞ!お前が命の恩人だって……!」
俺はそう言って彼女の手を握り、自室のある二階から階段を駆け下りて両親のもとへ向かう。
廊下を駆け抜けてリビングの扉をバン!と勢いよく開ける。
「父さん!母さん!聞いてくれ!俺の事助けてくれた命の恩人だ!カノンって言うんだ!」
勢いよく開かれた扉へ驚いた様子の父と母は、口を軽く開いて唖然としている。
「父さん……?母さん……?」
父はゴホンと、沈黙に終止符を打つように咳き込んだ。
「あー、ライト。その剣が助けてくれたってことか?」
け、剣……?
俺は恐る恐るカノンの手を握っていた右手を確認する。
そこには彼女の姿は無く、その代わりに一本の剣だけがあった。
やったなカノンのヤツ……。
「あー、うん。そう、そうなんだ……。部屋にー、戻るね……」
「ライト……、明日病院へ行こう。正午から時間を空けといてくれ」
「…………はい。」
完全に変なやつ認定されてしまった。
二人に。
恥ずかしさのあまり、俺は走って自室へ戻る。
「カノン……!どうして剣に戻ったんだ!?」
「いや、だって恥ずかしいじゃんか……。」
照れ臭そうにそういう彼女。
「俺の方が恥ずかしいわ!」
「というか、そもそもお前以外に私は見えないぞ?」
「それをもっと先に言ってくれ……!」
この一瞬で彼女という人間が少しだけわかった気がした。
そう思いベットへ俺が座り、もう一度彼女の方へ振り返る。
彼女は窓の外を見て遠くのどこかを眺めていた。寂しそうな顔をしている。
「それに……、私はお前を助けてない。助かる力を与えただけだ。」
なんだか難しいことを言い始めた。
「そんなもんだろ。助かろうとする奴を手伝う。それが手助けってもんだろ?だから俺は助けて貰ったんだよ……カノンがなんて言ってもな!」
「手助け……確かにそーだな。これは手助けだ」
彼女がそうやって微笑むのを見ると、年齢がそんなに離れていないはずなのに大人のように見えた。
ガキ大将みたいなカノンの、大人な一面だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ようやくカノンさん登場!
あらすじを読んだ方の中には、「全然出てこーへんやん!?」と困惑した方もいるのではないでしょうか!?
これから金曜、日曜での配信を行いますので、良ければこれまでの内容も読んでみてください!




