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また君に会いたい

初めまして!

こんにちはの方はこんにちは!よかったら最後まで読んでいってください!

 いよいよ五層まで行く。


 そう決まったが、すぐには行かず俺たちは翌日まで層間で待つことにした。


 時間が中途半端(ちゅうとはんぱ)だったからだ。


 最近自身の体内時計が正確でないため、今日はゆっくり休むことで明日をより安全に過ごすことが出来るようになると考えた。


「ライト、明日ダメだったらもう、助けを待つしかないんだね」


 今日段階(だんかい)で助けが来てないので、もう来るとは思えないと思ったが言わないでおいた。


「そうだな。ヘンリは、外へ出られたら何がしたいんだ?」


「そうだなー。推薦(すいせん)で学校行けることになってたし、しばらくダンジョンには行かず勉強したいかも」


「そういえば、推薦(すいせん)の話とかあったな~、ヘンリが学校通ってる間、何したらいいだ俺」


「何言ってるのよ。ライトも推薦(すいせん)もらえばいいじゃない。」


「んな無茶(むちゃ)な……、」


 ヘンリは思わず吹き出して笑ってしまう。


「あーあ、ご飯食べきっちゃったよ……」


「大丈夫だってヘンリ。また明日になればきっと家に帰れてご飯が食べられるさ」


「そうだよね。あー、昨日はそんなにお腹()いてなかったのに今日はお腹が()くのはなんでだろ?」


「わかる~俺ももっと計画的にお腹が空いてほしいって思うよ」


 彼女は魔法で水を生成(せいせい)すると、持っていたコップに(そそ)ぎグビグビと飲み干す。

「俺にもちょーだい」


 その日は水でお腹を()たして眠りにつくことにした。


 鉱石の色が変わってすぐ、明日で冒険が終わると理由をつけて沢山寝ることにした。


 今日は一つの(だん)に二人で肩をくっつけ合いながら横になる。


 すぐ横を見れば彼女との顔の距離は三十センチもないだろう。


 手を(つな)いで見つめ合えば、自然と顔の距離が近くなる。


 お互いに少しずつ首を伸ばしキスをした。


 その時、どんな学校のどんな推薦(すいせん)だって簡単に取れるほどの、何でもできるような感覚に(おちい)った。





 

 翌日の朝。


 寝すぎたという感覚だけが頼りだが、起きた時には鉱石が白く輝いていた。


 鉱石の色が変わるタイミングで寝たため、ざっくり半日以上は寝ていたのだろう。


 それぞれが第四層に向かうために準備を始める。


 とはいってもおおよその準備は昨日の内にやっていたから着替(きが)えるだけだった。


「よし!それじゃあ、腹も減ったし五層まで行くか!」


「そうだね。家族も心配してるだろうし、こういう時は優しいから何でも作ってくれそう!」


「そういうところ、良い性格してるよな、ヘンリって……」


 第四層。五層へ(つな)がる層間の前。


 前回同様(どうよう)に同じ場所にモンスター五体が集まっている。


 この筋肉のモンスターだってもう怖くない。


「五体の四肢(しし)を引き裂いて、倒す。そして引き裂いたのは道の端に寄せるから、そしたら渡ろう。」


 俺がそう言うと、ヘンリは頷いて俺に身体強化と隠密(おんみつ)の魔法をかける。


 まずは気が付かれる前に二体を倒す。そこで隠密(おんみつ)がばれて、残り三体と戦闘(せんとう)が始まる。


 一体一体の動きが遅いため、()けては引き()き、片腕(かたうで)ずつ、片足(かたあし)ずつ、確実に切り(きざ)んでいく。


「これで最後ぉ!」


 おおよそ十五分ほどで五体を全部討伐(とうばつ)し終えた。


 死んだモンスターたちは灰のように(くず)れ落ち、再生することのないことが確認できる。


「……。案外あっけない敵だったんだね。」


 ヘンリがそう言った。


 プランと兄を殺し、ダンジョンの一層で絶望させられたこのモンスターも


「知らないだけで、やっぱ低階層(ていかいそう)のモンスターだったんだな」


 と納得できた。


 ようやく終わった。


 五層にはエリアボスがいるが、気が付かれる前に隠密(おんみつ)を使ってテレポートが出来るだろうし、もうこの先恐怖(きょうふ)となりえることは無い。


 あとは文字通(もじどお)り家に帰るだけだ。


 俺は彼女と手を(つな)ごうと、剣を持っていない左手を彼女の方へと伸ばす。


 彼女は走ってこちらへやってくる。


 その顔は少し笑っていた。喜んでいたのだろうか。


 彼女も手を伸ばし、俺と彼女の手が触れ合う瞬間だった。


 あたり一面(いちめん)が白く(かがや)きだす。


 そして彼女と俺の間に見慣(みな)れたモンスターが出現する。


 俺たちを(さえぎ)り、そして(かこ)むように出現した五体のあのモンスター。


「…………。」


 事態(じたい)()()めず、モンスターが手を振り上げたときにようやく体が動き出した。


 幸か不幸か俺はモンスターに触れていない。


 つまり彼女は間に入ってきたモンスターに触れられているのだ。


「ああああああああああああ!」


 間のモンスターから切り()く。


 そしてヘンリを()きかかえて一度距離(きょり)を開ける。


 ヘンリの腕にはピチピチと音を立てるいつかの神経の管のようなものが見られた。


「ああ、あああ、あああああ!?」


 全体切り(きざ)めば、全体(ぜんたい)殺せば兄の様にはならないのだろうか?


 そう考える前に俺は残りの四体を切り(きざ)んでいた。


 もう一度全モンスターを(ほうむ)ったあと、ヘンリの(もと)()けつける。


 モンスターが体を侵食(しんしょく)していってる。


 さっきまで腕で終わっていたのが、肩らへんまで侵食(しんしょく)が進んでいた。


「そうだ!層間!層間はモンスターが嫌がる!」


 彼女を(かか)えて五層への層間の扉をひらく。


「あ、あああ、」


 駄目だ。


 層間には入ったが、モンスターの侵食(しんしょく)は止まらない。


 そして彼女は顔を苦痛(くつう)(ゆが)めるだけで、何もしゃべらない。


「ヘンリ……ヘンリ……!」


「を……って……。」


 彼女が何かを言っている。


「え……?よく聞こえないよ。ヘンリ」


 顔を彼女の顔まで持っていき、声を聴くのに注力(ちゅうりょく)する。


「腕を、切って……ライト」


「ダメだ!、そんなこと、したら、ヘンリ死んじゃうじゃんか!」


「大丈夫……、ヒールできる。」


「嘘だ!」


 魔法は体のバランスが重要だと聞いた。


 昔ヘンリが魔法を覚えたての頃にそう教えてくれた。


 だから今腕を切り離したら、彼女は魔法が使えなくなるだろう。


 それくらいは俺でもわかっている。


「……い。」


 また彼女の声がか細くなる。


「人間として、死にたい……!」


 きっと兄の事をいっているのだろう。


 少しずつ体を侵食(しんしょく)されて、(くだ)だけがピチピチとなる残酷(ざんこく)な姿。


 俺は決心して剣を引き抜いた。


 彼女の口元には持っていた布切(ぬのき)れを()ませて、出来るだけ一瞬で、肩から下を切り落とす。


 同じように片足も切り落とす。


 彼女の悲鳴に、俺は大粒の涙を(こぼ)しながら骨まで切り裂いた。


「んん~~~~~!んんん~~……!」


 布越(ぬのご)しの悲鳴。


 止血(しけつ)を試みるも血が止まらないから、肩は手で、ひざ下は脚で抑え込み止血を(こころ)みる。


「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!」


 アドレナリンのせいか彼女の悲鳴は止み、まるで長距離を走った後のような過呼吸になっていた。


「ねぇ……、ライト……。」


 きっと彼女の遺言(ゆいごん)だ。


 そう俺は察知(さっち)して顔を上げる。


 彼女との顔の距離が近い今、最期の言葉は絶対に聞き逃さない。


「ねぇ、好きって言って……。まだ、一度も言われてない。」


 その一言でハッとする。確かに今まで行っていなかった。恥ずかしがって言えていなかった。


 こんなことならずっと、もっと早くから言っておくんだった。


「好きだよ!好きさ、大好きさ!当たり前だろ!何年一緒にいると思ってんだ!何年好きでいると思ってんだ。なんで『ありがとう』も言えなかったんだ俺……」


 涙が止まらない。本当に泣きたいのは、死んでしまうヘンリだというのに。


「大好きだよ。ヘンリ……。いつもありがとう」


 死が近いのか呼吸のペースが(ゆる)やかになる。


「私も……、大好きだよ……次の人生も……ライトに会いたいな。」


 言い切ると彼女から呼吸が感じられなくなった。


 まるで人形のように、絵画(かいが)のように(やす)らかな顔をしている。


 俺は一度彼女から離れるが、再び彼女に近寄って胴体(どうたい)を起こしてみる。


 首がグネグネということの()かない彼女。


 俺はそのままハグをした。


「俺もまた、お前に会いたい。」







 彼女が死んでから数分ほどして、俺は立ち上がり五層への扉を開いた。


 心も体もフラフラで体重を乗せて開いた扉の奥には、エリアボスが待ち受ける。


 七色の翼に、炎の鶏冠(とさか)


 (おそ)らく(かな)わないのだろう。


 それでもいいと思えた。


 死にたいとはまた違った感情、どちらかと言えば「いつ死んでもいい」といった感じだ。


 いつでもいい。今だっていい。そして今じゃなくてもいい。


「だから、きっと無理(むり)だけど、どうせ無茶(むちゃ)だけど、ダメで上等(じょうとう)……!格上相手(かくうえあいて)八つ当(やつあ)たりだ!」


 だから俺は剣を抜く。


 だから俺は立ち向かう。


 だから俺は中指を立てる。


 敵意に気がついた大きな鳥のモンスターはその場で口から炎を吹き出す。


 走ってそれを避けながら近づくが、鳥が威嚇(いかく)のように上げた咆哮(ほうこう)と同時に俺は周りの音が聞こえなくなった。


 耳からは液体が流れ出る感覚。


 鼓膜(こまく)(やぶ)れたのだろうか。


 けれど俺は走るのを()めない。


 なんでこんな辛い思いをしながら戦うのだろう。


 別に友達とか兄弟とか好きな人とか関係がない。今俺を止める理由なんてどこにもない。


 同時に止まらない理由だってない。


 今、俺は誰よりも自由だ。


 いつでも死ねるからこそ今じゃなくていいと、あと一歩を踏み出せる。


 ()てなく強さを求める俺に、(おう)じるようにして両手で(かま)えた剣が光り出す。


 白い光に(みちび)かれて俺は剣を強く振るい、それと同時に俺の意識は無くなった。






 記憶があやふやだ。


 結局あの鳥のモンスターは倒せたのだろうか?


 俺はまだ五層にいるのだろうか?


 何も覚えていない。


 ただ俺が生きていることだけは分かる。


 真っ白な視界の中「見つけた。」と少女の声が聞こえた。


 きっと声の主が助けてくれたのだろう。

ようやくダンジョンの中での出来事が終わりました。

長かった~。

駆け足気味で書いてしまいましたが、ここからが「なろう」です。

次回をお楽しみに!


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