理想の死に方
毎日投稿します!と言った翌日に風邪をひきました。
良かったら最後まで見てください!
俺はヘンリを背負いながら、何とか層の間までやってこれた。
ダンジョンの構造変化が起きたにもかかわらず静かだったのは、変化量が小さいからだとヘンリは考察している。
だから普段層間のあった場所の近くに、変わらず層間の入り口があった。
「俺には難しいことは分からん!」
彼女の夢中で考える顔は嫌いじゃないが、不安を巡らせる顔は好きじゃない。
実際、専門的な話は分からない。
「俺には難しいことは分からない。だけど、今大切なのは2人で生き残る事だろ?ならもっと有意義な、ほら!食糧の備蓄について考えようぜ。」
この判断はおおよそ間違えでは無いのだろう。
兄が死に、友人が死に、その原因を考察したくなる。それは考察したところで結果の変わらない事。
ならば食糧の備蓄。生存できる日数を考えて行動に移す。
通常ならばこれが絶対的に優先されるテンプレートの対応。
確定していることは諦めて、出来ることを考える。それが冒険者としての普通のマインドセットだ。
よくある普通の緊急事態における、よくある普通の対応。
ヘンリは「そうだね」と言ってはにかみ笑う。
そしてこの普通に囚われたことを、今後ライトは強く後悔する事になる。
「あ?なんかもう暗くなってきた……」
ダンジョンに生えている時間を教えてくれる鉱石、時光石が日が暮れたことを教えてくれる。
「今日はいろいろあったもんね。代わりばんこで眠っちゃお!ライト」
ヘンリの提案に「そうだな。」と軽く返事をして、ヘンリが深く考え込む前に仮眠させることにした。
層間はらせん状の幅の大きな階段があるだけで、自分はその階段を転げ落ちないように寝ている彼女の横に座って背中で壁を作った。
「ねぇライト……?」
「んあ?なんだよ。速く寝ろよ、時間になったら代わりばんこなんだろ?」
真っ暗で夜を知らせるように鉱石だけが弱弱しく、そして青黒く輝いてあたりを照らす。
自分はそんな鉱石に目もくれず、目をつぶった彼女の顔を見てしまう。
彼女を意識し始めたのが何年前かなんてわからない。けれど嫌いな人の嫌いなところが嫌でも湧いて出てくるように、意識した幾年前から毎日彼女の好きな所をひとつずつ見つけてしまう。
小さい顔、触りたくなる頬、髪の隙間から垣間見える額。
――兄ちゃんが死んだってのに何を考えてんだ俺……。
兄が亡くなったことが、ショックじゃないわけではない。
むしろ、わからない。
現実味がわかない。
また時間を知らせる鉱石が光り始めればきっと、兄は自分の横で寝ているのではないだろうか。
そうでなくても家族の待つ家まで帰られればきっと、兄は俺に「おかえり」といってくれるのではないだろうか。
きっと兄はまだ死んでいない。
そうどこかで思っている。
だからヘンリの横顔を見て、今癒されることが出来るのだろう。
「ねぇライト……。」
「まだ起きてたのかよ。こんな夜中まで起きてたら、兄ちゃんにまた怒られるぞ?」
まるでいつかまた会えるかのように言った。
「ンフ、そうだね……。お休みライト」
そう言うとそっとヘンリは俺の服の裾を握った。
「ああ、おやすめ……。ヘンリ」
今のようにダンジョンが静まり返る瞬間が俺は好きだった。
「また、皆で夜を越したいな。」
ヘンリに聞こえないように俺はつぶやいた。
朝を知らせるように鉱石が白く輝きだす。
光の明るさに照らされて目を覚ますと、交代して見張りをしていたはずの彼女が俺のお腹を枕にして眠っていた。
「見張ってないじゃん」
兄がこれをしているのであれば腹をへこませて虐めていたが、ヘンリとなれば話は別だ。
「いや、今が合法的に頬を触れるチャンスなんじゃ……。」
俺はそう思いたつと彼女の顔を凝視する。
すっかり疲れ切って眠っている彼女の、柔らかそうな頬。
触っても良いのだろうか。どちらかと言えば良いはずは無い。
起きた時に引かれたら泣くし。
それでも据え膳食わぬは男の恥と言うものだ。
人差し指のスタンバイOK。
いざ、出陣。
「へー、ふーん。あ、こんな感じね」
彼女が寝ているため「不本意だが起こすためにやっている風」を演技する必要はないのだが、それでもやってしまうのは自分への言い訳なのだろう。
――なんだか罪悪感がでてきた。
生死が関わる環境でタガが外れたせいだろうか。ほぼ指一本触れることのなかったヘンリについに触れてしまった。
据え膳食わぬは男の恥とさっきは言ったが、ダイエッターを名乗る男にとっては食べる事の方が恥な様に、兄の事を慕っていたヘンリに触れないと決意していた俺が触れてしまうのは、きっと恥だったんだろう。
「あー、ごめん兄ちゃん。あー、これが兄ちゃんの言ってた賢者タイムって奴なんだな……。」
賢者タイム……欲望の果てにある虚無という風に言っていたが、これがそいつであるならば納得だ。
据え膳なんて関係ない。俺は心のすべきに従って行動するべきだったんだ。
「ん……んん、」
彼女が目を覚ます。
大きく伸びをして大きな胸と反った腰へ、目線が行かないように寝たふりをする。
「ライトー。起きて―」
そう言って俺の頬を人差し指で突っついてくる。
多分起きてたな、この子。
そうして二人で朝を迎えた今、バックパックの中に入っていた干し肉を食べながら俺たちの作戦会議が始まる。
「ところで俺たちの食料は何日分くらいあるんだ?」
朝ご飯を食べる前に考えるべきだったかもしれないが、今いる二層と三層の間から地上まではどんなに時間がかかっても二日もあれば出られると思う。
「2日分かな。」
「おっと……?」
思わず2つ目の干し肉に伸ばす手を止める。
既に口の中に入っている干し肉すら飲み込むのが惜しくって延々と噛み始めてしまう。
「それまでに助けが来るといいけど……」
彼女はそうやって言うが、
「まぁ来ないだろ。ダンジョンの変異が起きたら王都の騎士団が来るまで立ち入りは禁止になるし、王都もここから1週間はかかる。」
申し訳ないが希望的観測だけを口にしても仕方ない。
口先だけで夢が叶わないように、行動しなければ死だ。
「だから俺たちは選ばなきゃいけないんだ。
飢えて死ぬか、
戦って死ぬか。」
決まった……。これは主人公的な名言の予感。
言いながらそう思った。
「ライト……。私は……、」
ヘンリが口を開いたが、戦って死ぬ以外の選択なんてあるわけが無い。
戦ったら死なない可能性はあるが、餓死はほぼ決定だ。
俺なら死んでも戦いを選ぶ。
だから戦うか?と言うこの質問に対する回答は理論的には「はい」or「YES」の2つしか存在しない。
「私は餓死が良いな。」
「そうだろう、そうだ……、え!?」
なんで!?
百パー死ぬか、五十パー生きるかならみんな後者を選ぶもんだろ!?
「人生の最後くらい、恐れもなく、緩やかに死にたいなって……、ずっと一緒に育ってきた皆と死ねるなら、それはそれで良いエンディングでしょ?」
「あ、あら……、そんな考え方もあるのね……?」
ライトくんったらびっくりしちゃった。
でも、納得はできた気がする。
「いや、でもライトが挑戦したいって言うなら私も頑張るよ。私の命の重さは、どんな死に方をしたって変わらないんだから……」
何この子。すげードライだな!?
でも俺は違う。
「俺は、みんなと違って才能なんてないから。何となく生きてたし、いつ死んでもいいって思ってた。でも今は!才能がないからとか言って死にたくねぇ!死ぬなら最後まで足掻いて、最果てまで苦しんで、前のめりに死んでやる。」
立ち上がって腰に手を当てて、俺は拳を握る。
いつ死んでもいい人生だった。死が身近になって怖気づいたって言われようと仕方がない。
なぜなら今、俺史上最高に生きたいのだから。
「あはは!ならなんで最初っからそんなこと聞いたのよ?」
「き、聞くなよ!か、格好つけたかったんだよ!うるさいなぁ……」
ヘンリは何がツボに入ったのかわからないが、貴重な食料を吐き出しそうになりながらもずっと笑っていた。
そうだ。俺が聴きたいのはどうやって死ぬかなんかじゃなくって、どうやって生き残るかだ。
「地上を目指そう!」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今後のモチベーションのためにもブックマーク、評価など、いろいろくださいな!
今回の内容は風邪をひいて満身創痍だからこそかけた内容なのでは!?と思ったり思わなかったり笑
今後ともよろしくお願いいたします。