カノンの力(いち)
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ダンジョンへ入る準備は、それこそ一週間前には出来ていた。
もちろん一層で群がっているであろう、あの筋肉のモンスターの事だって想定済みだ。
あのモンスターは筋肉の筋が見えているのが特徴であり、つまるところ皮膚が無いというのが弱点でもある。
人間は皮膚がないと乾燥する速度が著しく、このモンスターも同じ様で、氷魔法と火魔法の耐性がないらしい。
「って図鑑には書いてあるんだ。」
ダンジョンへの入口がある洞窟の中。
俺はカノンにそう言って説明する。
「でもライト、お前は魔法使えないだろ?」
そうだ。俺は魔力量が極端に少ない。
「だから今回はこれで代用する!」
そう言って俺が取りだしたのは松明だった。
「あー、ナルホド」
「魔法大全には『魔術は奇跡を生み出す力や方法の事で、結果は魔術の関与するところではない』って書いてあった。つまり、魔術で出た火も、松明の炎も、同じ火だってこと」
これなら魔法の使えない俺にだって、あのモンスターを攻略できる。
魔法と魔術の違いはよく分からん。
自信満々の俺を訝しげな半目で見つめてカノンがイチャモンをつけてこようとする。
「酸素問題はどうするんだ。それにダンジョン深くまで松明の火が続くとも限らないだろ」
「松明を使うのは一層だけ。一層と地上の間は層間が無いから二酸化炭素も貯まらない!はい論破ァ!」
「腹立つわぁぁぁ」
大きな溜息を着くように彼女は毒を吐いた。
俺はダンジョンへはいるために、松明へ火をつける。
ダンジョンは約二週間ぶりだ。
二週間ダンジョンへ行かないことは良くあった。だから今のこの「帰りたい!」と叫ぶ心臓は、きっと久しぶりだからなんてものじゃない。
実感が湧かないとか言っておきながら、心の奥底では知らないうちにトラウマになっていたのだろう。
それでも俺は前に進む。
だって帰りたい以上に進みたいと思うから。
俺はダンジョンへ足を踏み入れた。
第一層を鉱石が照らす。時間を教えてくれる鉱石は前回の教訓からあてにしないことにした。
代わりに太陽石と言う太陽の位置を教えてくれる鉱石をバングル型のブレスレットにして身につけることで、時間をしっかり把握することにした。
今の時刻は14時頃だろうか。
そうやってお気に入りになったバングルを見つめていると、遠くから物音がした。
あのモンスターだ。
心臓が飛び跳ねて、鼓動が速くなるのを感じる。
「いた……。」
俺は松明を掲げながらモンスターのもとへ歩み寄る。
するとモンスターは少しずつ後退し、数十体居たモンスターは皆して俺へ道を譲った。
「はは!っハハハ……!おい!ざまぁみろ……!お前らなんかな!お前らの事なんかな!最初から知ってたら!こんなことにはなってないんだよ!お前らなんか、虫と同じさ!火が怖いのか!?おい!おい!!!」
俺は松明をモンスターへと振り回す。
情けない。
本当に情けない。
悲しいって気持ちが無いわけでは無い。改めて実感も湧かなければ、今でそうな涙はアイツらのためのものじゃない。
この感情は、悲しさと言うより不甲斐なさだ。
俺は走って二層への層間へ向かった。
いつか見た風景と同じだ。
けれどあの時はヘンリが居た。
「おい……カノン……。」
「……なんだ」
どうしてもっと早く助けてくれなかったんだ?なんて聞こうとしたが、それは見当違いだ。
ならモンスターへの知識がなかった俺が悪いのだろうか。
「知らないって罪なんだな……。図書館へ通うようになって、俺は何も知らないってことを知ったよ……。」
パコン!とカノンに項垂れて隙だらけの後頭部を叩かれた。
「なら、知ろうとしている今は正義だな」
「……?意味わかんない」
次はガチで叩かれた。
本当に意味がわからなかったが、とりあえず慰めようとしてくれていたことは伝わってきた。
「よし……!それじゃ走って三層まで行くか……!目指せ今日は五層前!」
メソメソしても仕方がない!と気持ちを割り切ることは出来なかったが、せめて割り切ったように見せる事にした。
今は今の俺の事を見てくれる人がいる。
精霊だけど、せめてそいつの為にも強い俺でいたい。
俺は階段を駆け下りて二層へと向かった。
四層へはあっという間に辿り着き、気がつくと時刻は19時半。
モンスターが活性化する時間ではあるが鉱石はまだ明るく、やはり太陽石のバングルを持ってきて正解だった。
「……ちょっとまて、四層って確かあのモンスター五体いたよな……。今日は三層までにしとくか……」
そう思い留まって俺は三層と四層の間の層間へ引き返した。
層間で俺は横になり、魔道具で水分を摂取してから眠りにつくことにした。
そして人間、リラックスした時に重要なことを思い出す。
計画も万全、準備も抜かりないと思っていたが、肝心な五層のボスを倒した方法が分からなかった。
カノンのおかげ、であったのは確かなはずだが……。
「おい!カノンさんカノンさん!……俺ってどうやってあの鳥のモンスターに勝ったんだ!?」
「は!?何を今更!?」
カノンは驚いていたが俺は覚えていないのだ。仕方がないのは仕方がない。
本当に今更だ。
だって今何話目だよ……。
「カノンに出来ること教えてくれよ!」
はぁ、と大きな溜め息をついて、腕を組み頭が項垂れる彼女。
「私は自由の剣だ。持ち主の想像した通りに私は変化することが出来る。」
「?……つまり斧になれって念じたら斧になるのか?」
「イメージがしっかりしていればな」
なんとも使い勝手が悪そうな武器だ。
「おい、心の声聞こえてるぞ……」
「さ、サーセン」
使い勝手が悪そうだ。けれどその分汎用性はありそう……。
「よし、明日の朝四層で試してみるか……!」
難しい事は分からないから、一旦明日の俺へ託すことにした。
確か小説に書いてあったが、人間が1番成長するのは休憩時間らしいから、そんな方法もあると割り切ろう。
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