冒険日和
久しぶりです!
初めましての方は初めまして!
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結局病院へは五分ほどで到着した。
自分はどうして歩いて二十分もかけようとしていたのだろうか。
屋根を伝って走れば、こんなにも一瞬だったのに。
時間ぴったりに父が家のある方角の人集りの中から歩いてくる。
「お、早いねライト」
「走ってきたから!」
俺は息を切らしながらにこやかに答える。
「なんでそんなに上機嫌なんだい?」
「走ってきたから……!」
「……そ、そうかい。それじゃ僕は受付してくるから、ライトは汗が引いてから入っておいで」
そう言うと父は魔導病院へと先に入っていった。
魔導病院とは、普通の病院とは違い霊や呪術による魔法や精神の異常を診断してくれるところだ。
昨晩俺が剣を人のように紹介したため、きっと父は精神異常だと考えたのだろう。
病院の前の日陰で涼しい風に当たり、深呼吸をして汗を引かせる。
その間道に生える草や植えられた木の葉を観察する。
この世には何にでも精霊がいると絵本に書いてあった。そういえば、母も言っていた。
だからどんなものに対しても優しく接するのだ。と。
けれど書いていただけで、言っているだけだ。
神様と一緒で、きっといるのだろうが見た事や感じたことは無い。
どちらかと言えば皆の信じ方は『いた方が良い。』という認識なのだろう。
だがカノンはいる。
なら彼女の正体は何なのだろう。
「柄にもないこと考えてるな。」
こんな答えのない事考える時間があるなら、歩いてきても大差なかったかもしれない。
そう思うと少しだけ笑えて来る。
「これも絵本読んだせいか……?ま、汗が引いたし病院に入るか」
俺は病院の扉を開いた。
病院の中は清潔感があり、その代わりに無機質な感じもする。
異様な感覚だ。
いつまで経っても慣れない。
父が先に入っていたこともあり、診察室へはすぐに案内された。
医者と対面するといくつかの問診され、俺は医者にベットへと横になるように言われた。
解析魔法による身体検査だ。
診断が終わり、医者が説明を始める。
「身体には〜……特に悪いところは無いですね。」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ただー、この魔力量の少なさは〜」
「あ、それはライトの生まれつきです。」
懸念に思った医者をさえぎって父はそう言った。
「ほー、そうですか……!まれにそう言った体質の方もいらっしゃるみたいですもんね。なら問題ないですね。」
病院へ行くたびに俺はこんなコンプレックスを尋ねられる。
そう、俺は魔力というのが人に比べて極端に少ないのだ。
だから代わりに魔力効率を鍛えて生活魔法くらいは頑張って使えるようにはなった。
これからまたダンジョンへ行こうと言うのに、マイナスな事実を言わないで欲しいものだ。
すると暇そうにしていたカノンが俺の肩をチョンチョンと突き、少し話したい。と合図を送ってくる。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。」
俺はそう言って診断室を後にした。
「そういえばライトお前、ダンジョンにまた行くって言ってたが、どうやって行くんだ?きっと親は反対するだろ」
腕を組んで壁に持たれるカノンが俺にそう尋ねる。
忘れていた。
言われてみればそうだ。ただでさえ兄のカイトが亡くなっている。
「家出しかないか〜?きっと皆の遺品持って帰ったら許してくれるって……!」
「自分勝手なやつだなー。見つからなかったらどうするんだ?」
「それならその時考えるさ。」
なんとも薄情で自分勝手なやつだ。俺はこんな俺に対してそう思ったが、自身の決意はどうしたって揺るがない事は自分で分かっていた。
家出だって別に冗談で言ったわけじゃない。
覚悟の表れって訳でもない。
ただ目標までの最短距離で、誰にも止められない確実性のある選択肢というだけだ。
診断も全てが終わり、父と俺は病院を出る。
父は「大事に至らなくて良かったよ」と胸を撫で下ろしていた。
冒険者が大事を恐れてどうするのだろうか。
「……。」
「……。」
気まずい。
父と俺の間には氷ほどに冷めた気まずさを感じた。
普段は何を話していたのだろうか。
急にいつもが分からなくなる。
帰り道にある街の商店街を、午後一時頃に2人で並んで歩く。
「今日は晴天だね……。」
父が口を開いた。
「……うん。」
「こんな日は……冒険日和かい……?」
「…………。」
父が空を見上げて歩きながら、横目でこちらを見てくるのを感じた。
対照的に俺はうつむいて喋れない。
けれど決意をしていた。俺は拳を強く握る。
俺は俺の為に、ダンジョンへ行かなくてはならない。だからなんと言われても俺は行く。
「うん。」
俺はちゃんと声になっているのかも分からないほど小さく答えた。
だからちゃんと言い直さなきゃいけない。そう思って、
「今日はすっっっごい冒険日和なんだ!」
そう言った。
「……。僕たちは……」
父は時間をかけて一瞬何かを言いかけた。けれど直ぐに一度口を噤んで言い直す。
「僕たちは……止めないよ。だからまた帰っといで……」
父は寂しそうにそう言った。
俺は本当に、なんて阿呆なんだろう。
伝えたいことがあるのに、今は声が出せない。
いっつもそうだ。
きっと理解されないと決めつけて、相談すらしようとしなかった。
うつむく俺の顔をカノンがのぞき込む。
「ライト……なんて顔してんだよ……」
俺は小さく「ありがとう」と聞こえるように言った。
父は笑って俺の頭に手を置いた。
「はっはっは!いつでも帰ってきな!バカ息子!だけど、ちゃんと『行ってきます』と『ただいま』は言うんだぞ!」
「うぃっす」
そしてそんな話をしてから2週間がたった、ある日の夜。
「恥ずいって!?なんで俺まだ家にいるの……!?」
自室で俺はカノンに大きな声で追求する。
というのも、あの翌日にはダンジョンへ向かう準備を始めようとしたのだが、そういう訳にはいかなかった。
コイツが「ちゃんと本読んで、素振りが身についたら行っても良いゾ」とか言い始めた。
「嗚呼もう!早くしないとダンジョンの立ち入り禁止が終わっちゃうだろ!素振りも毎日やってるし、本だって小説を十冊読んだ!十分だろ!」
カノンは大きくため息を着く。
「ライト……準備をし過ぎて困ることなんて……」
「ある!今なんだ!もしかしたらまだ宝が回収されきっていない、そしてダンジョンが攻略されていない今だけなんだ!」
時間が経って宝箱1つ開けることの出来ずに終わってしまった時、ダンジョンに遺品が残っているのかを確かめる術はなくなる。
そしたら俺は皆の死を一生悲しめなくなるかも知れない。
「ずっとこんな気持ちに囚われるなら、死んだ方がマシだ……!」
ベットに座る俺と、腕を組んで俺の前に仁王立ちするカノン。
お互いの鋭利な視線が交差する。
「……」
「……はぁ、」
5秒ほどの睨み合いの末に折れたのはカノンだった。
「好きにしろ、だがダンジョンに行くならせめて適当な科学書を一冊読み切れるようになってからだ。」
そう言うとカノンは布団にくるまり狸寝入りする。
ワガママな自分の意見が折れてしまったため、罰が悪かったのだろう。
「よし!わかった!ありがとう!」
俺は明日朝イチで図書館へ向かおうと思い、一緒に布団へと入った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
そろそろライトくんはダンジョンに連れ込まなきゃなとは思っています……ほんとですよ?
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