始まりの日
皆様初めまして!
極力毎日投稿できるように頑張ります!
実は今のところまだ二話までしか完成していません笑
その日は突然やってくる。
ダンジョンの中。まだ夕方にもなっていないころ。
俺の兄はいつの間にか、皮膚と筋肉と、骨すらも消えてしまっていた。そこに誰かがいたことを神経の管だけが証明している。
神経の繊維がそのまま床で、ピチピチと音を鳴らしていて、「痛そうだな」なんて思ったことだけ覚えている。
「ライト!ライト!」
と俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
あまりに衝撃的な状況の中で頭はやけに回転していたが、それでも体は動かせなかった。
遡ること一時間前。
いや、十分前くらいから話せば充分かもしれない。
俺たちのパーティ名はリトルブレイブ。
名前の由来としては子供だけで編成された最年少パーティだからだ。
「プランさん!うちは後衛がいないからさ、助っ人マジで助かったよ!俺がみんなの事紹介する!」
「……おう。」
ダンジョンの第一層を抜けた、二層へと向かう層の間で、俺はパーティメンバーの紹介を始めた。
エルフで魔導士の彼女の名前はプラン。
身長は俺の肩より少し低いくらいの少女はあまり乗り気じゃなさそうに返事をする。
いかにも魔女っ娘というような大きな帽子をかぶっていて、顔全体はうまく見えない。
「まず前衛ですっごいガタイの良い男が、俺のお兄ちゃんのカイト。年は15で俺より二つ上だけど、村で一番の力持ちなんだぜ!」
そう紹介されるカイトは照れ臭そうに頬を掻いて、「おう」とだけ返事をした。
エルフと言い兄貴と言い、年を取ると返事のレーパートリーが減るものなのか?年は取りたくないものだ。
鉄の鎧に身体を包み、鋼鉄の盾と剣を持っている。重量があるにもかかわらず平然と動ける兄は、タンクとしての天賦の才があるのだろう。
「んで次がヘンリ。俺の幼馴染で、全属性の魔法が使える超絶エリートらしい!俺と同い年なのに、もう王都にあるタイロンって学校から推薦をもらってるらしい!」
「って言っても入学は15歳以上だからまだ先なんだけどね。よろしくプランさん」
ヘンリはへへへと、恥ずかしそうに笑いながらプランに挨拶をする。プランは無言で深々と頭を下げるだけだった。
ヘンリは再来年に進学することが決定していて、魔法が使えない俺には、彼女がどれくらい凄い人間なのかはいまいちピンとこない。
「んで、俺はライト!よろしく!」
んで誰よりもピンとこない人間が俺。ライト。強いて言うなら中二病。
かっこいいと理由だけで剣士になり、真っ白で装飾が少し濃っている中古の剣を腰に携えている。
「もうじき層間を抜ける。そろそろ装備の準備をしろ。」
兄のカイトがそう言うから、俺たち三人は第二層へ入る準備を始めた。
普段は第四層で探索をしていたため、二層のモンスターなんて大したことはない。これでも俺たちはプロの冒険者だから、たとえ新たなメンバーのための肩慣らしだとしても表情はみんな真剣だ。
層の間である層間の重い扉をひらいて、俺たちは二層を探索する。
「索敵ひっかかったよ。……この先ウルフ系が三体かな」
「……すごいわね。ずっと索敵をしていたの?」
ヘンリの索敵報告を受けて、プランが驚いた様子を見せる。
よくわからないが、やっぱりヘンリはすごいんだ。
「来たぞ!」
カイトがそう言い、みんな臨戦態勢になる。
「フォーカスキャッチ……!」
スキルを発動させてカイトはモンスターのヘイトを集める。
三体同時に引き受けたヘイトは、カイトへの突進となるが、兄ちゃんは三体同時に盾で抑え込む。
「へぇ、」
とプランは感心したように笑みをこぼす。
「…………私もしっかりしなきゃ……」
プランがそう呟いて左手で拳を作っていた。
「そうだな……。俺も頑張らないと」
そう考えると不思議と剣を握る手が強くなる。
そしてモンスターを全体倒し終わった時、その時が来た。
俺たちの背後から「ヒュッ」と声にもならないような、息の吹き抜ける音がした。
突如現れた何かの気配に俺たちはすぐに臨戦態勢を取る。
そこにいたのは赤い水溜りの上に立つ、頭と皮膚のない巨人。
二メートルほどあるその体は、とにかく肩幅が広い。
俺たちはすぐに悟った。
「「「コイツがプランを殺した……」」」
筋肉の繊維だけで出来た異形のモンスターは、すぐに目の前にいたヘンリへと拳を振り上げた。
俺はヘンリを庇おうと覆いかぶさる。そしてカイトはそんな俺たちを助けるように盾で拳を防いだ。
「兄ちゃん……!」
俺はすぐにカイトの作り上げた隙を狙って、モンスターの腕を切り落とそうとするが、刃が通らない。
次にヘイトをもらってしまったのは俺だった。
カイトの盾へと向けた拳をそのままスライドさせて、人型のモンスターは俺を薙ぎ払おうとする。
ドン!
その時俺の体に強い衝撃が走る。
尻餅をついた俺が見たのは、俺を庇ったカイトがモンスターに背中から殴られる瞬間だった。
「兄ちゃん……!」
「……ライト、大丈夫だ!……今は走って逃げるぞ!」
ヘンリはすぐさま身体強化の魔法を俺たちにかけた。
「……ヘンリ!俺の背中に……!」
「わかった!ライト!」
俺の背中へ飛び乗る彼女。
その様子を確認して、俺たちは走ってその場から逃げた。
背後を取られていた俺たちは近くの層間へ逃げることが出来ず、そのままダンジョン内の岩陰へと隠れた。
幸いにも、モンスターが猛スピードで追いかけてくるなんてことは無かった。
俺たちは息を切らしながら、岩陰へと腰を下ろす。
「ねぇ、ライト。」
立ったままのヘンリがいぶかしげな顔をしている。
「なんだよ。ヘンリも座れよ……。お前だって身体強化ばっかで疲れてんだろ?」
ヘンリは大きく首を振る。
「違うの。ライト」
「じゃあどうしたんだよ?」
彼女の手は震えている。
怯えている彼女を見て、自分は彼女が何かを察知したことに気が付いた。
そして少し遅れて俺も咄嗟に立ち上がる。
「……こんなところ。……あったか?」
俺は二年ほど前からダンジョンに通っている。
二層を攻略したのは去年だ。
一年間ずっとここを通っているはずなのに、俺はここを知らない。
「ダンジョンが変形してる?兄ちゃ……」
そうして現在へ至る。
俺の兄はいつの間にか、皮膚と筋肉と、骨すらも消えてしまっていた。神経の管だけがそこに誰かがいたことを証明している。
神経の繊維がそのまま床で、ピチピチと音を鳴らしていて、「痛そうだな」なんて思ったことだけ覚えている。
「ライト!ライト!」
と俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
あまりに衝撃的な状況の中で頭はやけに回転していたが、それでも体は動かせなかった。
「ライト!逃げなきゃ……!」
逃げるって、どこへ?
ダンジョンは生まれ変わり、地形が変化している。
知らないモンスターの数も分からない。
セーフゾーンの層間がどこかも分からなければ、層間が未だ安全な場所であるのかもわからない。
「……ライト。」
声がした。小さいけど、しっかりと聞こえた。
「兄ちゃんの声だ……」
音の発信源は、目の前にある元カイトからであった。
「……ライト……逃げ……ろ。」
そうしてようやく、俺の体は動きだした。
走ってヘンリを担ぎ上げ、ひたすらにあのモンスターのいない方向へと走り続けた。
何が何だか何も理解できない。すべてがあまりにも突然の出来事だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今後のモチベーションのためにもブックマーク、評価など、いろいろくださいな!
今後ともよろしくお願いいたします。!