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閑話:司祭(?)アンドラス=グシオンの独白

 神殿に聖女が無事に着いたことを見届けた後、王宮へと向かった。


 「シュルプリージアが太陽にご挨拶申し上げます」

 「よい。それで?何用かな?グシオン()()()


 そう言って警戒したような眼を向けるシュルプリージア国王。当然か。()()()がわざわざ来たのだ。何か重大なことがあると踏んだのだろう。まあ、全くもってその通りなのだが。


 「実は重大なことが起きたので、陛下にご報告をと思いまして」

 「重大なこと?」

 「はい。世界を揺るがすほど重大なことでございます」


 ここまで言われたら馬鹿でもわかる。その証拠に、国王はワナワナと震えているし、宰相は大司教を睨みつけているし、騎士団長は滝のように汗を流している。しかし、現実は無情なので私はニッコリと笑って告げた。


 「聖女様が見つかったので、今は神殿で保護しています」

 「な、なんだとぉっ?!!!」

 「聖女様が?!」

 「先を越された!」

 「神殿め!」 


 謁見の間は一瞬にして騒音で満たされた。負け惜しみが多くて実に結構。


 「…枢機卿、私は聞いていないのだが。その口ぶりだと聖女が見つかってから数日は経っているはず。その間に聖女を見つけたという報告は一切来ていないが、どういうことだ?答えよ」


 おお。ナチュラルにこちらに責任転嫁してこようとするその姿勢は実に面白い。だが、負け犬の遠吠えにしか聞こえないな。


 「おや?手紙は出したのですが、まだ到着していなかったようですね。やはり、報告にきて正解でした」

 「なに…?」


 訝しげに国王が言った瞬間、扉が勢いよく開いた。


 「ハア…ハア…陛下!大変です!せ、聖女様が!」

 「無礼な!そこになおれ!」

 「も、申し訳…」

 「よい」

 「…はっ」

 「して、何用か」

 「はっ!グシオン枢機卿より、聖女様が現れたという手紙を預かっています!」

 「…そうか、ご苦労だった。下がってよい」

 「はっ!失礼いたします!」

 「「「…………」」」


 手紙を読んで天を仰ぐ宰相、悔しそうな顔をする騎士団長、眉間にしわを寄せる国王。三者三様で見ていて面白い。


 「…枢機卿の言うことは、正しかったようだ」

 「そのようですね。きっと、途中でトラブルにでもあって到着が遅れたのでしょう」

 「…いけしゃあしゃあと(ボソッ)…」

 「何か?」

 「…いや、この件については後々神殿側に使いを出す。もう下がってよい」

 「はい。失礼します」


 ——————


 「…ふふ、はははっ、ハハハハハ!陛下、見ましたか?あの人間共の悔しそうな顔といったら!本当に滑稽で…!」

 「あっはははは!見てたぜ!面白すぎて笑い転げてたわ!やっぱ人間って一番いい玩具になるよなあ!その調子でもっと色んなとこを煽って戦争にもってけば最高じゃねえか!俺が許すからどんどん不和を生み出してやれ!」

 「ええ、もちろん!」

 「…で、だ」


 さっきまで爆笑していた顔を引っ込めて急に真面目な顔になる陛下。


 「実際、聖女ってどんな感じだったんだ?」

 「…そうですね。面白い人間でしたよ。聖女になったことを喜んでいる様子もありませんでしたし、神殿を全く信用していない感じでしたね。初めて会ったとき、母親に結界を張って私を牽制しようとしていましたよ。そこらの村娘とは違いますね。母親の病を治すために自主的にレベルを上げていたようですし」

 「…へえ。そいつは確かに面白い。なあ、アンドラスよ。そいつは、【勇者】以上の脅威になり得そうか?」

 「ふむ…」


 あの末恐ろしい少女を思い出す。彼女の過去は完全には把握できないが、少なくとも、この世界の知識はかなり豊富であるし、効率的なレベル上げの仕方を知っているようだ。このままいくなら、我々の中でも最弱の者には勝てるであろう。と考えたとき、()()()|《・》()()()|》《・》()()


 『…っはあ、はあ、ま、じか…お前の、言った通りじゃ、ねえか…』

 『……もう、降参してください。さもないと、貴方を殺さないといけなくなります』


 …なるほど。そうなるか。


 「……なりますね。貴方に膝をつかせるくらい、とびっきりの脅威に」

 「…まじか。面白れぇ。それじゃ聖女の成長を見守ろうじゃねえか。最終的にどれ位いい女になるか楽しみだな!」

 「また貴方はそんなことを…そんなことではその内変なものに目をつけられて死にますよ」

 「はははっ!お前、俺を誰だと思ってんだ?お前らの中で最も力のある王だぞ?ま、人間界(こっち)では皇帝だけどな」


 …聖女の世界では、それを()()()と言うらしいですよ。

 …死なないでくださいね。後処理が面倒なので。


 ——————


 「…おかえりなさいませ。義父上」


 神殿に着くと、数年前に優秀だからと取った養子が出迎えてくれた。


 「ただいま戻りました。出迎えとは珍しいですね。ラファイル」

 「ご気分を害されたようならもう致しませんが…」


 どこまでも暗い養子に毎度のことながら呆れる。私がそれくらいで怒ると思ったら心外なのだが。


 「そんなわけないでしょう。何かあったのかと思っただけです」

 「そうですか…いえ、神殿の中では、居辛いというか…彼らが悪いというわけではないのですが、どうしても、信心深ければ深いほど、私を見るのは憚られるでしょうから」

 「…そうですか。まだ春になったばかりですから、寒かったでしょう?少し遅いですが、温かい紅茶を淹れましょうか」

 「え、い、いえ。義父上のお手を煩わせるわけにはいきません。お茶にするというのなら、私が…」


 慌てて言い募る養子(ラファイル)の口に指をあてて黙らせる。


 「私がやると言ったらやるのです。いいですね?」

 「…はい」





















 カップに紅茶を注ぐと、どことなく落ち着いた匂いが部屋中に広がった。


 「どうぞ」

 「…ありがとう、ございます。頂きます」


 一口飲んでラファイルの方を見ると、心なしか、目を丸くしているので、美味しかったのだろう。

 こうしていると、年相応の子供(私からすればほとんどの人間は子供だが)に見えてくる。なんとも可愛らしい。

 お茶を楽しんでいると、段々ラファイルがそわそわし始めた。


 「どうしました?」

 「…その、何か、お話があったのでは?」

 「ん?」

 「お話があったから、私をお茶に誘って下さったのですよね?」


 そう言って不安そうに見つめてくるラファイル。別にそういうつもりで誘ったわけではないのだが、丁度いいのでここで話しておくとしよう。


 「私だって、話がなくともお茶には誘いますよ?今日はたまたま話がありますが、時間があれば、何もなくとも団欒くらいはしますとも。家族でしょう?」

 「か、ぞく?…それで、お話とは何でしょう」

 「…まあ、いいでしょう。聖女様が神殿に入られたことは知っていますね?」

 「はい。…義父上が後見人となられるのですか?」

 「ええ、まあ。なので、聖女様のサポートを貴方に任せたいのです」

 「え…」


 明らかに反応の悪い養子を見て、教えた処世術が何の役にも立っていないではないかと思う。これは補修コースだ。今のうちに予定を立てておこう。


 「聖女様は王都にいらしたばかりで、わからないこともたくさんあるでしょうからサポート役は必須でしょう?そこで白羽の矢が立ったのが貴方です。やってくれますよね?」

 「し、しかし私は…」

 「今他に空いている神官は誰もいないのです。貴方なら護衛も兼ねることができてピッタリの人選でしょう?」

 「…」

 「聖女様がお困りになるかもしれないのに、何もしないなんて言うわけないですよね?」


 そういうと彼は諦めたように


 「…わかりました。お任せください」


 と消え入りそうな声で言った。


 「大丈夫。聖女様は予想を裏切ってくるタイプですから、きっと貴方も気に入りますよ」


 ——————


 私の言った通り、ラファイルは聖女を気に入ったようだ。

 聖女の要望は面白いものだったので許可したが、彼が護衛をどうするか気にしていたので、そのまま護衛として付けばいいだろうと言ったら急に嫌がった。

 話を聞けば、前に神殿の無駄飯ぐらい共に言われた言葉をまだ気にしているらしい。私がわざわざ虫のように大量に湧いている人間共の中から選ぶほど優秀で美しい魂の持ち主なのだから、何も恥じることはないだろうに。

 そうやって本心も含めて少し甘い言葉をかけてやれば簡単に私を信じ、執着する。


 「…全く、本当に掌で転がしやすい子ですね」

 『はっ!悪い奴。お前がそうなるように育てたんだろうに』


 予想通りの答えが返ってきて自然と口角が上がる。きっと自分は今、とても悪い顔をしているのだろう。


 「おや陛下、盗み聞きとは趣味の悪い」

 『人聞き悪いこと言うなよ。わざと聞かれるようにしてたんだろ。あの小僧も可哀そうに…お前に拾われたばっかりに酷い目にあって、最後にはきっとお前のことしか信じられなくなって。なのにお前に裏切られて死ぬんだろ?ひでー話だ』

 「あの子が周りを信じられなくなったのは周りの人間達がくだらないことをしていたからですし、私が最後に裏切るとは限らないでしょう?毎回同じ結末では面白くありませんし」

 『うわ、死ぬことは確定なんだ。…てか、お前が今まで一度でも裏切らなかったことはないのに、どういう気持ちの変化?なに、情でも湧いたのかよ?』


 情?そんなものが湧くことは決してないだろう。大体、短命種に思い入れたところですぐに死んでしまうではないか。あの子(ラファイル)はただの暇つぶしの玩具に過ぎない。


 「貴方は自分の玩具をずっと遊んで大切に使い、尚且つ壊れたら泣くんですか?違うでしょう。そういうことですよ。私の遊びは」

 『それは、しねえなあ…』


 そうだ。珍しい色の魂ではあるから、なるべく濁らないようにしているだけで、壊れたらそこまでなのだ。美しいとは思う。しかし、全てを捧げる程ではない。


 『……でも、お前そいつに《ラファイル》って名前、付けたんだろ?《ラファエル》から取って』

 「……ええ、まあ」

 『じゃあやっぱ大事なんじゃねえの?そいつのこと。だって、お前にとって《ラファエル》は大切な名前だろ?』

 「そう、ですか?」

 『そうだろ?』


 そう、なのだろうか。私は、ラファイルが大事…?いや、それはない。名前だって、あの子の雰囲気が少しあの天使に似ていただけで、特に深い意味はない。


 『まあ、別にいいんじゃねえの?俺達に大事な奴を作っちゃいけないなんて制約はねえし。人間の心はわかんねえけど、人間と恋愛しまくってるやつだっているんだから。それに、お前に人間の心が芽生えたって良いじゃねえか。お前を通じて俺たちも効率よく人間を堕落に誘えるしな。な?大事にしたいならすればいいだろ?俺もそいつには手を出さないよう言ってやるからさ』

 「…………それは、」

 『早く決断しねえとアスモデウスとかにそいつのこと売るぞ?あいつら今ストレスでイライラしてるからまだひよっこ神官ならすぐに喰われちまうだろうなあ。可哀そうに…』


 アスモデウスに喰われそうになっているラファイルの姿が容易に想像できた。あの王の色欲は私達でさえ耐えられないのに、あの子が浴びてしまったら…そう考えた途端、自分でも驚くほどどす黒い声が出た。


 「…は?殺しますよ?」


 ああ、最悪だ。こんなはずではなかったのに。あの子を私に執着させて遊ぶはずだったのに、私があの子に執着してしまうなんて。

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