第4話:神殿に入ることになりました
「…マーガレットが、【聖女】、ですか?」
「はい。此度の適性検査により、判明いたしました。それにより、マーガレット様には神殿に入っていただくことになります」
「…」
ゲーム通り【聖女】適性があると判明した私だが、一つ問題が発生した。それは、母が存命だということだ。ゲームでは彼女は既に亡くなっていたので私はすぐ神殿に引き取られたが、こちらでは私が全力を尽くして治療したので生きている。それにより、親権を持つ母が形だけでも承諾しないと色々問題だということが、あの後発覚した。
とはいえ、〈【聖女】適性を持つ者は神殿か王宮のどちらかに必ず属さなければならない。〉という法律があるため、この意思確認は形だけのもの。母に決定権は無く、結果は既に決まっている。
それをわかっていてもまだ諦めきれないという顔をする母を見て、少し寂しくなった。
「…あの、司祭様」
「はい。どうなさいましたか?マーガレット様」
「その…勝手なお願いだとはわかっているのですが…」
「?」
「…母も一緒に連れて行っては、駄目、でしょうか…?」
ダメもとで聞いてみると、司祭様は一瞬驚いた顔をしたがすぐに微笑んで
「もちろんです。【聖女】様はまだ年齢的にもお若く、御母上と引き離すのは忍びないので。それに、ご家族が近くに居られた方が、安心して務めを果たせるでしょう?」
と答えた。
これは実質母が人質になるということだ。私が逃げ出そうとしたり、神殿に逆らえば母は最悪殺される。それでも、私の知らないところで母が酷い目にあったり監視されるよりはマシだ。
少なくとも、私がわかりやすく結界を張って尚且つ近くにいるのに母に手を出そうなどという馬鹿はいないはず。
念のため、”私がこんなに大切にしている母に手を出したらどうなるか、わかってますね?”というのを司祭様に目線で伝えておく。
司祭様は目を見開いたが、少し困ったような笑顔ですぐに頷いてくれた。とはいえ、まだ完全には信用できないので神殿に着いたら誰か味方に引き込んで母を安全な場所に置かなければ。一刻も早くレベルアップと熟練度上げもしなくちゃいけないし、ああもう!なんでこんなにやることが多いの?!
「……まったく、末恐ろしい方だ」
何かを考えながら百面相をしている【聖女】を見て、司祭アンドラスは呟いた。
聞くところによると今回の【聖女】は学の浅い平民だとのことだが、平民というには彼女はあまりにも異質だ。普通なら【聖女】だったと知れば喜びで満ち溢れるはずだが、彼女は特に嬉しいとは感じていないようだった。それに母を同行させてほしいと言ってきたときのあの態度…わざわざ母親に結界を張ってこちらを牽制してきた上に神殿の人間を全く信用していないと言わんばかりの目。
普通の平民ならああはならない。やはり何かある。
― 彼女はもしかすると、神殿最大の敵になるかもしれない ―
「そうなったら、陛下はたいそうお喜びになるでしょうね」
目の前のまだ小さな【聖女】が神殿に反旗を翻す姿を想像し、口角が上がるのを感じる。別に神殿側というわけではないのでそうなれば止めるどころかむしろ助長しようと考えているのだが、そのためにはこの司祭という仮の姿がどうにも邪魔だ。
「……一度、陛下に相談しますか。ちょうど神殿は王都にありますし、ついでにあの子も連れてくれば良いでしょう。あんな面白い存在、中々いませんし良い刺激になるでしょうから」
…………主人公はまだ知らない。この男こそが攻略対象の父親であり、隠れ攻略対象そのものであることを。