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超能力で気になるあの娘にアプローチ!…できない僕の日常

作者: 一 灘代

初投稿です。

「後悔先に立たず」とよくいうけれど、人は往々にして過去に戻りたがる生き物だと思う。


例えば人生を左右する大きな選択の時であったり、自分の財布を見た時に無駄遣いの数々を思い出すようなしょうもない時であったり。しかし僕、蒼井 空はこう思うのだ。


「今日午後から雨だっけ、やば傘忘れちゃったな…」

パチンーーー

やり直したいならやり直せばいいんじゃないかと。

ーーー【玄関に立ててある傘を取って】から学校に向けて歩きだす。

そう、僕は過去に戻ることができるタイムリープ能力者なのだ。


この能力に僕が目覚めたのは半年前の高校入試の時。試験の不安から直前で荷物確認をしてしまったばかりに自室に受験票を忘れた事に気付いた僕は、試験開始まで時間が迫っている中、刻々と時間を進める時計を見ながら立つ事しかできなかった。


しかし、過去の自分を責め、呆然と時計を睨むことしかできなかった僕はふと気づいたのである。時計の針が少しづつ戻っている事に。


その後なんとか合格(なおパニックのあまり結果はギリギリだった)することができ、念願の高校生活を始めて早数ヶ月、幾重にも及ぶ能力使用を経て、ようやく能力の仕様や使い方といった基本的なことが分かってきた。


まず能力の限界、これは1日2回まで。時間的にはその日の始まりまで戻ることができる。でも些細なことでその日起こることが簡単に変わってしまうので戻っても20分前後まで、と決めている。

次に修正した事実について、よくあるタイムリープものだとタイムリープによってパラレルワールドに飛んでるだのタイムパト〇ールがくるだのあるけど、現時点では特に深刻な影響はないようだ。


またループしている記憶も自分だけが持つようで、「同じ日を繰り返してる!」と周りが騒いだりということもない。


ただここまですごい能力を得ても、小心者の僕に出来ることはたかが知れていた。

突然目覚めた力なんだ、突然使えなくなったっておかしくはない。進んで悪用する勇気はなかった。悪事を働いてバレたら能力でやり直す、なんてリスクを強引に回避するスタイルで動いて肝心なときに能力が使えなくなっていた、とか笑えない。


だからといって全く使わないのも何か勿体無い気がする。僕に能力を授けた神様(?)だってすごい能力を上げた人間が能力を全く使わなかったら残念に思うに違いない。


悪いことだったらリスクや能力の剥奪なんて事が起こり得るが、悪いことではなければ別にタイムリープしようが問題ないのではないか?

悪いこと以外で能力を使うことはOKってことにしよう。


僕はそういって過去に戻ることに潜む危険性を頭の外に追いやり、意中の女の子にアピールするための能力使用を肯定する事に決めた。


「お、おはよう!」

「おはよう、いい天気だね。」


ただの挨拶でさえうまくできない僕に対しても爽やかなスマイル付きの挨拶を返してくれるのは桜川 春さん。肩をくすぐる長さの茶髪がよく似合う、物腰柔らかな大人っぽい女の子だ。


成績優秀、容姿端麗と彼女の人より優れた点を挙げれば枚挙にいとまがないが、僕が彼女に惹かれる1番の魅力は、全てを見透し慈愛に包みこむようなダークブラウンの瞳。この瞳に一目惚れしてしまった僕は能力を使ってアプローチをすることに決めた。


入学当初から大きな注目を集める彼女にとって、容姿や才能といった特徴を持たない僕はクラスメイトと認識されているかすら怪しい状態にある。


そもそも常に人に囲まれてる彼女と1対1でゆっくり話す時間すら僕には得難いものなのだ。会話が成立して印象に残るためには能力を使用するのが最適解だと思った。


さて、桜川さんの話をしよう。

優れた知性と容姿、そして大人っぽい雰囲気からクラスの中でも飛び抜けて目立つ彼女であるが、そんな彼女にも欠点といえるものがひとつだけある。その欠点というのが…


「桜川ちゃん、どこに行ってたの?」

「自動販売機さ、喉が渇いてしまってね。」

「その割には財布しか持ってなくない?」

「…確かに。お茶は自販機に忘れてしまったみたいだ。」

クラスメイトと桜川さんの会話が聞こえてくる。


…自販機ね。パチン


「桜川さん。飲み物取るの忘れてるよ!」

偶然気付いたフリをして取り出したお茶を手渡す。


そう、気が抜けているというか、なんというかおっちょこちょいなのだ。

「おっと、すまない。うっかりしていたな。ありがとう蒼井くん。」

「どういたしまして!」

お礼を言われて嬉しくなる。ただ今回の失態なんて序の口で、彼女のうっかりは筋金入りだ。


例えば生物の移動教室に数学の教科書を持ってきたり、体操服のズボンを前後逆に履いていたりと地味に恥ずかしい思いをするミスを連発する。


もちろん、彼女の持ち前のスペックはその欠点を補って余りある(教科書が無くても先生の問題に答えられたし、体操服が逆でも陸上部に並ぶ記録を出した)し、僕が何か手助けをする必要などない。


でもいつも人に囲まれてる桜川さんに個人として名前を売る方法として能力というズルを使ってアピールを続けている。


そういう意味では、桜川さんがうっかりをするたびに話しかけるチャンスができるので僕としては役得だ。


それにうっかりを未然に防いだときに彼女が少し照れながら「ありがとう蒼井くん」とお礼を言ってくれるのが嬉しくて、くだらない能力使用をやめられない。


第三者が僕を見れば、飼い主が投げたボールを届けて褒められ待ちをする犬みたいに見えるだろうな、なんて思う。


△△△


放課後、誰もいない教室に1人残って黙々と掃除する。別に僕がやらなくても当番の生徒が毎日欠かさず清掃をしている。だから掃除の必要もないのに僕が放課後の時間を使って教室に居残りをしてるのは…


「うーん、エモいな!」


教室の窓の外から強烈な光で僕の目を焼く金色の太陽とその光が照らす海と街を眺めるのが好きだからだ。


なら別に掃除はしないで教室にいればいいじゃないかって?もちろんそうだ。でも僕がこうやって掃除をしてるのは……。


「……ずるしてすみません」


能力を渡してくれた神様的な存在が能力のくだらない使い方に対して怒って没収してしまわないように、善行を積んでバランスをとるためであった。


「これで……よし!」


最後の机の位置を揃えて満足げに声を出す。夕陽に照らされて光っている綺麗に揃った机と椅子は心なしか嬉しそうに見えた。


暗くなる前に帰ろうと自分の席に置いてあるリュックを取りに戻ろうとする。すると……。


「ん……手紙?」


近くの机の足元に白いシンプルな手紙の封筒が落ちてる事に気付く。先程掃除したのは間違いないのだから誰かの机から落ちてしまったのだろう。


宛名があるかな?と何の気なしに手に取ってみる。封筒の口はピッタリと封がされていてずらしても覗けそうにはない。裏を見ると桜川さんの名前が。今時手紙なんて珍しいなと思いながら立ち上がる。


スマホが普及した現代にわざわざ手紙を送るとしたら果たし状かラブレターくらいしか……ラブレター⁉︎


裏面に桜川さんの名前があるということは彼女が誰かに送った手紙に違いない。もしかして僕宛?…いや流石にそれは希望的観測がすぎる。


でも誰だろう…すごく知りたい…。違う人の名前が書いてあったらショックを受けるに違いないし、そもそも手紙を盗み見るなんてマナー違反この上ないってわかってる。だけど中身が気になって見なかったことには出来そうにない。


ただ堂々と封を開けるわけにはいかないので、封を開けないで中を見る方法を考える。そしてずっと僕を照らしている夕陽に向かって手紙をかざしてみた。


意外にもそこには一文しか書かれていないみたいだったが、手紙は封筒の中で折られているようで、うまく内容はわからない。


でも諦めずに夕陽にかざしていると…


「蒼井くん?」


「ぁ……」

驚きのあまり声が出ない、だって振り向いた視線の先には桜川さん。そして僕の動揺に首を傾げた彼女は僕の手にあるモノに気付く。


「あれ…その手紙って…」


やばいやばいやばいやばい!

この状況じゃどうやっても言い逃れできない。どうしようどうしよう!

彼女に失望されるわけにはいかない。


くそう、どうすればいいんだ…。

あ、てかそうだタイムリープすりゃいいじゃん!


頭の中に時計を思い浮かべて、それを逆回しにィィィィ⁉︎


こっちを見てゆっくりと歩いてくる桜川さんのオーラが怖すぎて集中できない!一目惚れした綺麗なダークブラウンの瞳が獲物を狩るハンターの目にしか見えない…!


そして腰が抜けてる僕の目の前で立ち止まった桜川さんの腕がこっちに向かって伸ばされてきて…






…………終わっ「なんだここに忘れていたのか」




「ぇ…」


手紙を僕の手からそっと抜き取る。


い、生きてる…もしかして許された…?

安堵感から一気に緊張が抜け、今この瞬間にタイムリープすることができるくらいの感覚はある。逃げることも考えたが彼女と話して真実を知りたい自分が勝った。


「そ、その手紙って…桜川さんの…?」


カッコよく決意したがまだ心臓はバクバクである。


「あぁそうだ。どこかに落としてしまったのかと思って探していたんだが、教室に忘れていたんだね。拾ってくれてありがとう。」


さもなんて事ないように彼女は答える。

ナーンダサクラガワサンノカー。持ち主が見つかってよかったよかった。


…じゃなくて!


「ここここれ、ラブレ!桜川さ…まさ…コクハ⁉︎」


「お、落ち着きたまえ。別に慌てなくても逃げたりはしないさ。それに私も一応乙女なんだ。その…ラブレターだと告白だのと騒がれるのはな…。」


そっと頬を染める彼女をみて自分の失言に気付く。


「すすすすみません!」


「フフッ…いつも私のミスをフォローしてくれる君がここまで動揺するのは珍しいな。そんなに私にこの手紙が似合わないかい?」


似合わないかどうかで言われたら似合うに違いない。でも桜川さんが告白する側じゃなくて、女の子のファンから告白されたのかな?ってなりそう。


「この手紙、もしかしてラブレターとかなんですか?」


答えを聞くことを恐れていた質問を投げかける。とにかくこれを聞かなきゃ今夜は眠れそうにない。


「それはどうだろうね。私がこの手紙を通して伝えたいメッセージがあるのは間違いないが、今のところ誰かに渡す予定はないよ。そう、私なりの挑戦というところかな。」


んん?言葉の意味をよく理解できない。


「そのメッセージの内容を聞いたり、誰に伝えるつもりなのかを聞くのはマナー違反ですかね?」

「今はまだ心に秘めておきたいかな。もちろん、君がどうしてもというなら見ても構わないけど。日頃のお礼にね?」


桜川さんはウインクをしながら手紙を僕の方へ差しだす。手をそっと伸ばしそうになるが、ぐっと堪える。


「いや、気になるけどプライバシーだから。」


彼女の手紙のことは気になるが、それがどんな内容であれ僕が彼女に惚れているのは変わらない。誰かに告白をするわけじゃないとわかっただけで充分。今後も振り向いてもらえるようにアプローチを続けていくだけだ。


「もう外が暗くなるし、帰るね!

桜川さんも気をつけて!」

何か居心地が悪くなって彼女に別れを告げて教室を出る。


「…ふふ、やはり君は断るか。」

何か桜川さんが言っているが、うまく聞き取れなかった。


「なんかすごい疲れたな……」


自転車で風を切りながらそっと呟く。放課後まではなんてことない一日だったのに、手紙を見つけてからの5分間があまりにも濃すぎた。


結局あの手紙はなんだったんだろう。告白じゃないとは言ってたけど伝えたいメッセージがあるらしいし、何か含みがあるように感じた。


とはいえ、ラブレターじゃなくて良かった。もしラブレターだったら気まずい所の騒ぎじゃないし、第一桜川さんの机の近くで机の中にあるはずのラブレターを持ってたら盗まれたと勘違いされても文句は言えない。


「ん?」


いや、普通は勝手に取られたと思うはずだ。なのに彼女は「拾ってくれてありがとう」と言った。その後の会話も少しも疑う様子を見せていない。何故だ?僕が取っていないって証拠がある?


「日頃の行いで積み重ねた信頼のおかげってことかなぁ」


これ以上勘繰っても仕方ないのでポジティブに捉えることにした。そう、疑われてないならそれに越したことはないってね。


とりあえず桜川さんが告白するわけじゃないってわかって良かった。今日はよく眠れそうだ。明日からもアプローチして仲良くなれるように頑張るぞ!そう決意を露わにして帰路についた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「自転車に乗りながら前向きに決意する、か。

フフッ、今日はなかなかに刺激的だったな。」


『私』は開いていた「蒼井空」と書かれたページを閉じて、そっと呟く。


彼への興味は日に日に強くなっているみたいだ。特殊なチカラを持っているのにも関わらず、目立たずに縁の下の力持ちとして誰も気にしないところで善行を重ねている。


「自分と同じで」能力持ちな点で興味を持っていたが、今は彼の能力よりも彼自身についての興味の方が強い。


私が自分自身の能力に気付いたのは小学生の時、父の方針で人を観察することを強く意識していた頃だ。

小さな町工場を一代で大企業に育てた父の格言は「人に正しい報酬を」。会社も一つの社会である以上、社員一人一人の労働量は一定ではない。だから会社に陰ながら貢献をしている縁の下の力持ちを大切にしろ、というのが父の教えだった。


その方針に則り幼少期から人のことを見る機会が非常に多かった私は自ずと人を見る目が育っていき、それがふと能力となって開花したのである。私だけにしか見えないこのノートは事実を偽りなく記す。


読むのはあくまで人間の私なので全ての事象について知ることはできないが、興味を持ったことについて詳しく知ることはできる。そう、人知れず努力する彼についてのこととか。


私が彼の存在を意識し始めたのは先月頃だ。

入学して数日はただ挨拶を交わす程度だった少年がある日を境に急に話しかける様になってきたのである。


別に話しかけられることについては特段珍しいことではないが、彼の話題や会話のタイミングがことごとく自分のミスを未然に防ぐ様な動きだったのがやけに印象的だった。


気になって能力を使ってみると彼がとても面白い存在であることを知った。彼の行動を見ると1日に1,2回出来事に斜線が記され、直下に違う選択をしている文章が書かれているのだ。


いくつか方法について候補が見つかったが、私の行動に影響を与える事が何度かあったので、それを利用させてもらった。


いくら私が少し気が抜けてたまにうっかり変なミスをしてしまうとはいえ、体操服の前後を間違えて着たりはしない。友人の可哀想な人を見る目が辛くてあの出来事は忘れられない…。


閑話休題

検証の結果、彼はどうやら未来を観測するか実際に体験した上で行動し、事象の改変行為を行っている事を知った。当初の予定ではそこで興味を失うはずだったが、彼への興味は尽きなかった。


未来を知り、今を変えられるという能力を持っているのに、やっているのはクラスの女子へのアピールと自分の小さなミスのやり直し程度なのである。普通金儲けや悪事に使ってもおかしくないのにだ。


しかも能力を手にしたと思わしき時期から逆にボランティア活動や善行を積極的に行い始めているのである。

「縁の下の力持ち」父の言葉が頭に響く。彼が私が能力者であることを知った上で行っている巧妙なアプローチなのか、何も考えてない善人なのか確かめる必要があるようだ。


そして先ほどのお手紙計画に至る。


「ただ私に興味を持ってるだけ、か。フフッかわいいじゃないか。なら今後は私も君への興味を隠さずに絡みに行くとしようか。」


彼が見なかった手紙を机に置く。

そこにはただ一文。

「君のアプローチを知ってるよ」とだけ書かれていた。

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