躁鬱と鬱でも10年目
「どうせ私の事なんかどうでもいいんだろ?」
言いたくないセリフが勝手に零れる。
「彼女候補なんて山ほどいるしな?」
ああ、ほんと可愛くない。
好きなのに。別れたくないのに、つい言ってしまう。
彼の動きが止まる。
ビクッ
私は体を強ばらせて引きつってしまった。
次の瞬間
「なんで!なんでそんなこと言うんだよ!俺には美咲しかいないって毎回行ってんじゃん!泣くよ?泣くからな?!」
しくしく
和泉……彼が泣き出してしまった。
しまった!泣かせるつもりじゃなかったのに!
ただ、私みたいな女から解放してあげたかっただけなのに。
「ごめん、ごめんて。」
「でもさ?私なんかより素敵な子が沢山いるじゃん。もったいないよ」
……ポロリ。
やば、私も涙が出てきた。
泣くな!止まれ!
「みさ……美咲が良いんだよ。」
言葉に詰まりながら、和泉が言う。
「だってさ?私、躁鬱だよ?振り回すよ?構ってあげられないよ?」
涙がもう止まらなくなってきていた。
「でも美咲がいい。」
「和泉……」
私がうつ病になったのはかれこれ10年以上前。適応障害から、うつになり、拗らせて双極性障害になった。
凄く塞ぎ込んだり、起きられなかったり、仕事を辞めてからは昼まで寝てるなんてざらだった。
そして生きている意味がわからなかった。
なにか意味を残そうとしていた。
混沌としていた。
そんな時、和泉と会った。
私の廃人のような生活を心配して、友達が開いてくれた飲み会。そこに和泉も来ていたのだ。飲み屋なのにバイクで来てて、ソフトドリンクとツマミをチビチビやりながら、あまり話すでもなく、主張もせず、ただ好きなマンガが同じだったことと、彼のそばが何故か落ち着いたことだけ覚えてる。
帰る前
どちらからともなく、もう少しお茶でもしようとなり、和泉も、私の事を落ち着く存在と思っていたことを知った。
和泉は、あまり自分の主張を通さない。
だけど、私の事を大事だということは折に触れて言ってくれる。もう離れられないとも。
それなのに、不安になる。いつか年老いて、わがままに耐えられなくなった彼が去ってしまうのではないかと。
それならば、早い方がいい。
それなのに、10年経ってしまった。
……もう怖い。耐えられない。
なのに、時々、他の人がいるよ、って言ってしまう。だって私が和泉を不幸にしてるんじゃないかって、ずっとずっと不安だったから。
明るくて、キレイで、輝いてる子はいっぱいいる。
私だってキレイになりたい。
なのに、体が心が言うことを聞かず、どんどん太り、肌は荒れ、部屋も汚い。……いいとこなんてないじゃん。
「あるよ」
いつもの言葉
「落ち着けるところ」
……フワッと私を包んでくれる言葉。優しさが痛い。私は何も返せてないのに。
……和泉と私は同じ精神科に通っている。和泉も数年前からうつ病になってしまったのだ。それなのに、私を養うために、仕事を続けてくれている。
自分が自分がって言わない和泉が、仕事の愚痴をこぼす時は、めちゃくちゃ疲れている時。
何とかしてあげたい。なのに何にもできない。藻掻くだけで、前に進まないカメみたい。泣きたい時も沢山あった。一緒に落ち込んだ。私の励ましが空回りすることも多々あった。だけど一緒に生きてきた。