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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆一章 監視システム(7)

 置かれているものは、八K(八一九二×四三二〇)と呼ばれる解像度を駆使したモニタであることを説明した。八Kの規格は知っていた。


「人の顔を認証するのであれば、もっと高解像度かつ色数を表現するためのビット数が必要となりますが、今はこれが限界です」


 まずはこれを見て頂きましょうと言い、二十一インチのモニタに電源を入れた。


「近くで見させてもらえませんか?」


 僕が問うと、神田はにっこり笑って答えた。


「どうぞ、席を立ってご覧ください」


 バックライトが光った瞬間、画素ピッチが相当きめ細やかであるとわかった。むしろ画素一つ一つに映像信号が伝達されているとは思えない。ただし、パソコンのグラフィックボードが八K解像度に対応していないため、へんてこな画面になっている。電源投入から映像が映し出されるまでの時間も若干長かった。


 静止画を数パターン見せてもらった。色見を変えていっても、人間が認識できる周波数を超えた色数拡張処置をした代償のノイズもない。高周波数にも関わらず画面の乱れもない。


「視野角もご覧になってみてはどうですか?」


「じゃあ、早速」


 落ち着いた口調なのに自信に満ちている神田の推薦通り、角度を変えて覗いてもコントラストや輝度変化はあまりなかった。


 あくまで僕の勤めている会社の製品と比較した感想である。我社はこういう欠点があって、本製品は優れているという感想が社内機密のせいで言えない歯がゆさがある。


「すごいですね」


 間抜けな感想になったが、神田は当社自身作ですからと言った。続いて動画を見ることになった。液晶モニタであれば残像が懸念される。パソコンにアクション映画のDVDをセット、再生した。中国拳法で山場を迎えているカンフー映画だった。真っ黒な画面を下地として、スキンヘッドの東洋人が戦いを続けている。


 欠点を指摘する余地がなかった。僕の視力は一.〇をキープしている。少なくとも人の認識できる残像クラスであればわかるはずだった。


「どうですか?」


「そうですね~」


 神田は真っ直ぐな目で尋ねてきた。僕が考えていると、女の子はもう一度見せてくださいとお願いした。我に返り、遠目で見るよう心掛けた。印象は変わらなかった。


「動画も静止画もかわりませんね」


 女の子は落ち着いた口調で感想を述べた。


「そうですか。我々の主感と相違はないようですね」


「製品化されていないのが勿体ないぐらいですよ」

 

 負けじと感想を述べた。


「嬉しい限りですね」 


動画を再生しっぱなしでアルバイト内容が紹介された。


 どこかに設置された監視カメラ映像をモニタで見る。モニタに個人情報が出れば、パソコンのデータにあるかどうかを確認する。聞いている限り、つまらなそうだなと落胆しそうになったが、神田はパソコンのデータに要注意と書かれている場合、すぐに連絡を入れてほしいと言った。要注意は犯罪者のデータであり、神田の方から警察に情報を提供する。警察と手を組んで実現するシステムだった。


 瞬時の対応が必要となってくるため、録画して、後で早送りで見る方法も駄目だった。パズルのピースを完成させていく要領で、少しずつアルバイトの必要性が見えてくる。


「装置が複数あれば、同時に観察が出来るんですけどね。モニタ自体がまだこれだけしかないんです」


 あくまで試作段階、手間暇をかけた後で効率を考える。神田は続けた。


 パソコンと監視カメラが相互にリンクしていて、パソコンからモニタ、監視カメラからモニタにはリンクしているが、その逆はない。また、監視カメラからモニタにリンクしている時はパソコンからモニタとの通信は遮断され、その逆も同じである。


「パラレル動作ができないんですね」


「欠点なんですよ。今後は改善していく方針です」


 つまりは検証が自動化できない。パソコン用のモニタをもう一台用意し並べて睨めっこする必要があった。


 僕は技術的な質問を投げかけた。なぜ監視カメラと同じ解像度のモニタと必要としているのか。デジタルカメラや携帯カメラからの画像、付け加えるとすると、テレビからの動画を、信号発信元依存で表示できない不具合はほとんど例がないのだから。


「実は私も開発者ではないので詳しくは知らないんです。え~そうですね、抽象的かもしれませんが、監視カメラとのケーブルが他のモニタに合わないんです」


 ケーブルのオス側を見せてきた。確かに見たこともない形状だった。


「自作でできないんですかね? 例えばオス側だけを作りかえるとか」


「オリジナルの製品になります。接触部だけではなく、ケーブル中の構造自体違うらしいので。別のモニタですと、監視カメラからの映像が誤認する可能性があるんです。置き換えができないですし、市場にはないですよ」


 僕は曖昧に頷いた。特許もまだ取っていませんと控え目に言うと、話を今後の展開に変えた。


 既に調査団体と手を取り合って活動しているらしい。台本を棒読みで読み上げている不自然さがあった。調査団体の具体的な名前は挙げられなかった。僕達はそれらに関心を示さなかった。


「眠くなる話はこれまでにして、試しにやってみましょう」


 そう言うと、神田はパソコン用のケーブルを抜き、部屋の外から持ってきたどこにでも売られているモニタに差し替えた。見せてきたケーブルを八Kモニタの別コネクタに刺した。パソコンを弄り、片方のには神田の個人情報が表示された。確認すると部屋を後にした。画面には入口の映像が映し出されている。五分程度でモニタに神田の姿が映し出された。カーソルが身体を捉え、


氏名:神田輝かんだてる

住所:東京都世田谷区XXX

年齢:四十五歳

職業:技術営業

経歴:石橋大学卒業、有限会社【オブサべーションベンチャー】勤務

 

 それぞれが順に表示される。パソコンと同じであり、データに差異はない。ただそれだけだった。


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