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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆一章 監視システム(4)

 帰宅し、バルコニーから眺めていると、山を隔てた港から汽笛が聞こえた。

 冷気で透明度を増した夜空には飛行機が通った。この融合は滅多に見られるものではない。これで雪にでもなればかなりの運気があるなと考えている最中、インターホンが鳴った。電気コードにつまずきながら、何事もなかったかのように気分を変えた。ドア越しに確認してみる。外には男が立っていた。新聞勧誘やマンション購入勧誘なら断る準備は出来ていた。


「夜中に申し訳ありません」


 四十代ぐらいの気さくなおじさんという印象である。神田と名乗り、作り笑いをしていた。やる気なく何の用ですかと尋ねた。


「実は市場調査をしていまして」


 曖昧に頷いた。神田はドアにつま先を固定し、用紙を取り出した。


「弊社の製品を見てもらいまして、感想、改善点等を頂ければ済みますよ」


「ええ、アンケートでしょうか?」


「ちょっと違いますね」


 用紙には高性能監視用モニタと記載してあった。データ入力済みであれば、監視カメラから映った本人と個人情報が適合するもので、モニタに映し出される。指紋照合と同じ原理だという。高性能を売りにしているのは、対象人物を検知可能になるまで監視カメラによる自動拡大機能が備わっているという利点があり、実験段階でも失敗はしていないらしかった。ここまでの話としても信用できるまではいかない。技術的に可能なのかどうかが大きな要因だった。


「全部をご理解する必要はありませんよ。簡単に考えてもらえれば充分ですので」


「はい」


 俯き加減で神田を見やった。 


「アルバイト感覚で参加して頂けると幸いです。楽な仕事という形容の仕方は悪く聞こえますが、苦労はないと思いますよ」


「単純作業ってことですね?」


「簡単に言ってしまえばそうなります」


 参加とは神田の勤める会社【オブサべーションベンチャー】に出向く必要があった。


「名の通り、ベンチャー企業ですから」


 笑いを求めてきたらしいが、僕は笑えなかった。彼らの会社は土日でも休むことはない。それに対しても嘆いていたが、表面上の同情をするしかなかった。アルバイトの給料はそれ程悪くはなかった。


「なぜ僕なのですか?」


 よく聞いてくれましたと言わんばかりの得意気な表情になった。


「少々こちらで調べさせて頂きました」


 気持ちが良いものではなかったが、驚きはしなかった。同じような経験を保険会社の営業から味わったからだった。普通のおばさんにスーツを着せたような彼女から年齢、生年月日、生命保険への加入無、専門学校出等を言われ、どれも正確な情報だった。一般人とは言え、どこかしらで身分公表しなければ生きていけない。


「厳選された、のではないですよね?」


「そこまで大袈裟なことではないですがね。選んだ基準にはなったわけでして」


 ちょっと回りくどいなと感じてきた。流れるような説明が嫌悪感を旨く飽和させている。


「選んだ基準というと?」


「ええ、久保木昌哉さんがモニタ関係の開発をされている」


 そう言うと、僕の顔を覗き込んできた。


「まあ、その通りなのですが」


「不特定多数に声を掛けているわけではないのです」


「調べるには手間がかかるでしょうからね」


 頬を吊り上げて頷いた。会社所在地は東京新宿区、この場所は横浜市、支店はないようだった。どう

やって調べたのかまでは説明しなかった。


 僕はどこまで知っているかを知りたい衝動に駆られた。二十三歳であり、父親の職業はサラリーマン、母親はパートの共働きで、実家は奥多摩にあり、までを考えて止めた。


 神田は悪い条件ではないでしょと尋ねてきて、敢えて冷めた体を装った。それ以上の営業をかけてこなかった彼は、資料とだけを置いていき、同じ階にある別部屋には見向きもせずに階段を降りていった。


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