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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆三章 基板解析の旅(4)

 加奈は倉庫生活に順応していた。小汚い仮設トイレに文句も言わず、近くの銭湯通いも苦にしていない。実際基板の解析になってしまえば本当に地味な作業である。人口衛星や飛行機の整備といった派手さはどこにもない。それでも興味深く見てきた。真奈美は洗濯をしてきてくれるし、食事も運んできてくれる。


「友達と良くたまっていたからね」


「なるほどね」


 確かにコンビニの前にたまるよりは補導される心配はないし、寒さも凌げる。彼氏とも過ごしたんじゃないのかとは聞かないでおいた。


「なあ、こうしていると、溜まってくるよな」


 加奈が電話をしに行ったことを見計らって、直人は言ってきた。


「溜まってくる?」 


「わかってるんだろ。お前んちにもけっこうエロDVDあったぞ」


「いつの間に……まあそれなりにな」


「楽しめる場所はあんのかな」


 処理をする手段は無かった。近くにエロ本が置いてある店はなさそうだ。近くに女の子がいるのだからどちらにしてもダメである。風俗にせよ、あるとは思えない。


「空しくなるだけだぞ」


「加奈の制服ってそそるよな。ミニスカだし、パンツ見えそうで見えなくて」


「そうだ……」


 気を抜いていれば同意していただろう。


「しっ、声が大きいって」


 直人は僕の背後を見て硬直していた。振り返ってみる。加奈が神妙な顔付きで固まっていた。


「こ、これは冗談だからね」


「ジョークやがな……」


 何も言わずに僕達の中心まで歩んだ。これは、やばい。


「ちょっとなら、見せてあげる」


『マジで!』


 直人と僕は綺麗にハミングした。加奈は静かにスカートを捲っていった。どこまで男心を理解しているんだ、ふとももが半分あらわになった瞬間、


「って見せるわけないだろ」


 頬を叩かれた。手加減なしである。直人は自分から叩かれようとしていた。


 

 こんな時になって人脈が役に立つのであれば、もっと丁重に接しておくべきだった。僕はネットで連絡先を調べ、以前モニタの展示会で知り合った川本さんを呼び出した。


「お久しぶりですね」


「測定器のレンタルを頼みたいのですが、よろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ。具体的な機器名称を言って頂けますか?」  


 デジタル信号を波形として捉えるオシロスコープのレンタルが可能だった。古い型であれば、基版の高周波数動作についていけない。最新型の、展示会に出店するような代物である。カタログには記載されていないが、五百万円以上はする業務用の測定器だ。


 メーカー側としては、僕がなぜ福島県にいて、オシロスコープを必要としているのか、が気になっているようだ。新規開発品に伴い、工場に籠り、想定の範囲であるが、二百MHzからさらに上の周波数観測が要求されている、答えはOKだった。事情を聞き終わった川本さんは、


「私が届けに参りましょうか?」


 と言ってきたので答えはNOである。


「来ていただくのはお手数になりますので」


「わかりました。すぐにお送りしますので」


「よろしくお願いします」


 そう言ってから三日後には届いた。倉庫にも住所があるというのは不思議ではあるが、深く追求してもしょうがない。


 心配になって連絡してきた相模課長の声、久しぶりに聞いた気がする。相変わらず松本からの連絡は来るようだ。


「普通の会社ではなさそうだね」


「ネットに記載されている内容はどこまで信用できるかわかりませんから」


「サービス精神のかけらもないよ」


 ほら見ろ、やっと気が付いたのとはさすがに言えない。僕の勤めている会社も軟ではない。会社名も名乗らずに理不尽な話をしてくる業者も今までに存在していたし、【オブサべーションベンチャー】という会社の対応も角が立たない程度に断る指示が展開されていた。


 ちょっとの脅しではびくともしないのだ。


「就職活動も忙しいようだね」


「不況ですからね」


 とぼけたようにしているが追加の一週間休暇である。僕が何かしらに巻き込まれていることは察しているはずだった。


「最終日ぐらいは顔をだすんだよ」


「はい、それは必ず」


 三月三十一日までは二週間しかない。普通に生活していれば重みを忘れてしまいそうな短い時間だった。


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