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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆三章 基板解析の旅(1)

 雑多な人々が交差しつつそれぞれの旅に向かうなか、立ちつくしている僕たちに声がかかった。東京駅に現れた加奈は制服姿だった。別人というのは大袈裟になるが、見間違いしても許される範囲だった。薄化粧で髪の毛を黒に戻している。薄い水桃色の頬、ファンデーションで隠していたのであれば止めるべきだった。ようやく高校生のあどけなさを見ることが出来た。


「だって、キャバに行く服じゃばれるでしょ」


 そう言うと体を回転させた。瞬間どこかで聞いた手弱女という言葉を思わせた。ほのかにシャンプーの香りがしてきた。


 真奈美はというと、メガネをはずし、やや濃い化粧をしていた。


「お互い化粧をし合ったんだけどさ。似合っているかな?」


 伏し目がちだった。


「マジで似合っているよ」


 僕は見とれていた。薄い顔にマスカラが加わり、濃い眉毛を整え、茶色に染めた髪の毛に空気感を出すことで優しさが増し、唇の光沢が控え目なセクシーさを出している。体の曲線に貼りつくセーターとタイトスカートが、抱き締めれば壊れてしまいそうな危うさもあった。


「あんまり見ないでよ」


 おーい、直人は唇の周りで両手をメガホン代わりにして言った。 


「ちょっと二人さん。忘れてるんやないか?」


 しぶしぶ納得する。女性陣は綺麗に『だれ?』とハミングした。


「一生売れないお笑い志望の榊原直人くん」


「ちがうやろ!」  


 失笑であり、まともな紹介をした。加奈がどことなく緊張しているように見えた。直人の胡散臭い印象もその内消えて行くはずだ、と思った。


 頃合いをみて真奈美と加奈にスタンガンを渡した。


「初めて見たんだけど」


 加奈は金属部分を触りながらスイッチを入れようとしていたので慌てて止めた。


「これ持っていると、なんか敵に追われている感じがするな」


「東京は危ないから、普段も持っていた方がいいって」


 直人が言うと、二人して嫌がっていた。


「目立つから仕舞ってくれよ」


 コインロッカーに、明日香とお揃いで買った指輪と携帯電話を格納した。真奈美は躊躇っているようだった。大学生にとって携帯を使えなくなる状況はどれだけつらいことなのか、何となくはわかっていた。強い依存性はない場合においても、少なくとも加奈との連絡は取れなくなる。


「しょうがないよね」


 番号を知られていない加奈と直人の携帯があればなんとかなる。行き先について、四人での立ち会議をし、結果は真奈美が大学の春休みで実家に帰る予定を利用して、福島県行きとなった。家出してきた加奈が素直に受け入れたことが不思議でたまらない。理由は行ってから確かめればいいかと思った。


 新幹線の席は空いていた。二人ずつ向かい合って座る。駅弁とお茶が妙になじむ。皆で出来るゲームなんていらなかった。のんびりと真奈美姉妹の里帰りに付き合って、遊んでいるうちに事態が収拾していればいいのにと考える。修学旅行の気分で高揚感があった。 


「じゃあ、記念撮影でも取ろうか?」


 直人が言うと、カメラを取り出した。


「それは監視カメラだから!」


 真奈美の突っ込みは絶妙のタイミングだった。正確には僕も突っ込もうとしていた。笑顔で話しあっている二人から目が離せなかった。これって嫉妬なのか、考えていると、


「ねえ」


 加奈は声をひそめ、僕を立たせて席を離れた。真奈美、真人ペアは頭のてっぺんにクエスチョンマークが点滅している、ように見えた。


「おねえちゃんのことどう思っているの?」


 肩を抱かれた。逆の肩に胸の突起が密着し、思いのほか力強い。加奈は二人が見ていない姿を確認し、顔を寄せてじっと目を見つめてきた。急ブレーキを踏んだ場合、唇が重なってもおかしくはない。僕は鼓動が高鳴り、体が硬くなった。


「どうって……」 


「好きなの、嫌いなの、友達なの?」


 選べというのかい、と突っ込めなかった。真剣だった。体を密着させ、加奈の胸がさらに食い込んできた。


「そういう、関係じゃないよ」


「はあ~、わけがわからないんだけど」


 加奈の舌うちが心に刺さる。月並みな回答であると自覚はある。でも妹の前で告白できるはずはない。と考えていると、体を突き放された。


「もし気があるんだったら助けてあげるから、しっかりしてよ」


「だからさ」


 肩を叩かれた。相手を勘違いさせる女子高生のスキンシップ、僕の高校時代とは明らかに違う。


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