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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆二章 逃走(8)

 浅い眠りの後、部屋に戻った。思ったよりは滅茶苦茶にされていない。部屋の中央に君臨しているパソコンと二十インチモニタの破損は痛手だったが、携帯電話、ノートパソコンは無事だった。安心している時間はない。早速荷作りに取り掛かった。


 通路から足音がした。玄関の鍵を閉めた記憶がない。しまった、と思った時は遅かった。インターホンも鳴らさずにドアノブが動く。僕は派手に電気コードで躓き、痛みに耐えた。


「来てやったぞ」


 玄関口には直人がいた。坊主頭に堀深い顔である。二ットの帽子、黒のジャケットにジーパン姿はじっとしているとカッコ良く見える。集中すると周りが見えなくなるんだという後悔が消えた。靴のまま入ってくる勢いがある。


「お前かよ。いきなり入ってくんなよ~」


「阿修羅みたいな顔すんなって」


 睨み続けた。直人が後ずさった。


「悪い悪い、セックスの最中だったらやばいもんな。でも女はいないんだろ?」


「そういう問題じゃないっつうの」


 真奈美達との待ち合わせにはまだ時間があった。地元から二時間かけた来客、無視するわけにはいかない。移動中の睡眠は当分お預けになりそうだ。


「散らかってるな。てか暴れたか?」


 半分の荷物を直人に持たせ、外に連れ出した。


「せっかくDVD持って来たんやから見てからにしようや」


 困った時の胡散臭い関西弁である。口喧嘩中、突然敬語になるようなものである。変わっていない。

「部屋にいると、ちょっとヤバいんだ」


 声を潜めて言うと、直人は感じ取っていた。電車では身の上話をした。彼は四月から内定している会社に勤める予定だった。仕事内容は製造ライン、器用な手先を生かした選択だった。


 秋羽原で空いている喫茶店に入った。彼の提案したメイドカフェは却下、状況を話す空間ではない。


「もう教えてくれてもいいだろ?」


 周りを見渡した。離れている席に老夫婦、店員はゆっくりと作業している。何でヤバいのかをざっくりと説明した。直人の顔がみるみる輝きを増していく。僕はそれを見て心が曇っていく。


「けっこうきているな。基板をパクるなんて、お前らしくない」


 笑いながら言った。でもそういうの好きだと言われても嬉しくない。


「シャレにならないよ」


「昌哉が悪い」 


 僕は首を横に振り、アイスコーヒーに手を付けた。


「逃避行に混ぜてくれよ」


 明るい口調で言った。遊びではないということを理解しているのだろうか。下手をすると四月からの生活に響いてくる。もちろん僕達にも同じリスクがあるのだが。


「知ってるって。ネチネチ言っていないで俺を加えろ」


 そこまで言われてしまうと断る理由がなくなっていた。


「わかった。でも条件がある」


 架空請求業者からのハガキを見せた。


「その住所に着いたら連絡してくれ。後ハガキは捨てて」


 近くの特徴を説明すると、遅刻が確定した社会人のように走って店を出た。


 電気街の露店でまっさらな基板、コンデンサ、抵抗、リード線、テスター、を買いこんだ。大型、小型の派手な店がひしめくなか、この一帯だけはいつまでも変わらない。陳列の形が駄菓子屋のようで親しみやすいので、これからもこのままでいてくれたらと思う。解析を行うにはまだ装置が足りなかった。揃えるには別の方法を考える必要があった。


 発案したのは自分だというのに行く宛ては決めていなかった。行き当たりばったり理論は出世街道を外れかけている資質だと思う。それらを軌道修正する前に遠く離れなければならなかった。神田達が携帯電話をあえて置き土産としたのは、電波から居場所を特定する手段としか考えられない。住所が特定している真奈美達のアパートも安全ではない。そう思い彼女達と落ち合うまで不安がよぎった。


 真人からの連絡があり、監視カメラの盗難を支持した。これで彼も僕達の共犯者になった。


 貯金通帳からすべてを引き出した。残金は百二十万、両親の口座に二十万振り込んだ。男が荒い息をしながら僕の背後からATM画面を覗いてきた。


「怖いから」 


「けっこう貯め込んでいたんだな」


「ほっとけ」


 その日暮らしで精一杯である直人から見れば一万二千円でも貯め込んでいるとみなすらしい。パチンコ屋のスロット台でコイン集めをして捕まりそうになった彼を思い出す。札束を封筒にいれ、大切に仕舞った。


「護身用の武器も必要なんじゃないか?」


 直人の提案で盗聴器を購入した店でスタンガンを二つ購入した。録音機も念のため。身分証明書の提示はない。


「FBIも使用している特別製ですよ。当てれば死にはしませんが、しばらくは動けなくなりますので、気を付けて使用してください」


 金属突起を触りながら、聞いてもいない話までしてきた店長は僕を何者だと思っているのだろうか。


「さてと、どんな可愛い子が来るのか楽しみだ」


「合コンじゃないんだからな」


「マジで?」


 直人から顔を背けた。外人がデジカメでアニメキャラクターのコスプレ女と記念撮影をし、歓喜を上げている。ケミカルウオッシュのジーンズにネルシャツを入れた恐ろしください着こなしをしているバンダナ男が友達にネットアイドルについて熱く語っている。シニカルでいる僕は負け組なのかもしれない。

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