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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆二章 逃走(6)

 明日香と僕を結んでいた中間の藤沢駅は学生が多かった。駅から大通を歩いていって、横道に外れたところにある、バレンタインの御返しに予約を取ったホテル。いつだったか明日香と通り掛った時に見た場所だった。泊まってみたいなと呟いていたのも忘れてはいない。結婚式場の来客宿泊をターゲットにしていた。


 真奈美と加奈は喧嘩中で、会って話すのは一週間ぶりだというのに、西洋の城を思わせる外装とフロントのシャンデリアを見て感激し、一緒にはしゃいでいた。異性、家族ではないカテゴリーとは別の類で疎外感があった。年を取ったとは思いたくない。若くして社会に出て、子供を持つとこんな感じなのだろうか。


 ツインの部屋は九階だった。宿泊は二名、僕は一緒に泊まるつもりはない。


 加奈はベットでトランポリンをしていた。真奈美はさすがについていかず、バルコニーから景色を見ていた。


「本当にいいの?」


「うん、どうせ今日キャンセルしても同じ料金払う羽目になるから」


 なぜそうなったかは聞いてこなかった。加奈は聞いていないふりをしていた。年下かと思えば妙に大人な態度になったりする。着信音が鳴る。


「もう給料なんていらない」


 真奈美は神田からの連絡を無視しながら言った。


「電話無視なんて信じられない」


 着信音が止んだ後、加奈は言った。二日連続のさぼりである。神田からは初めての連絡、まったく僕達が働いた意味があったのだろうか。


 真奈美は僕以上に詐欺への加担を嫌悪していた。午後四時半、真奈美のアルバイト開始時間はとっくに過ぎていた。


 未成年の水商売、万引き、盗聴、アルバイトの手抜き、会社の実態調査、僕達で共有した秘密が増えて行く。神田達がどこまで知っているかはわからなかった。


「私たちで何か出来ないかな?」


 真奈美の意見で僕達は向きあった。これ以上詐欺に合う人を増やさないための方法である。


「住所もわかっているんだし、警察に連絡してみようか?」


 確かに警察を納得させるだけの列記とした証拠はあった。


「お願いだから、やめて」


 加奈は必死に否定した。お父さんに殺される、冗談とも本気とも取れた。それを聞いた真奈美は妹がしたことを思い出したのか、それ以上何も言わなかった。


「出来るかわからないけど、僕に考えがあるんだ」


「考えってどんなの?」


 顔を寄せてきた加奈を見て、真奈美は嫉妬しているようだった。もちろん僕の勘違いかもしれないが。


「個人情報のメモリをすべて消去する」 


「それなら超簡単じゃないの? データを消去すればいいんでしょ」


「携帯電話とは違うんだよ」


 苦笑いしながら答えた。僕の考えではモニタ室にあるパソコンのデータはダミーである。最新版は他の機器にあり、少なくとも他のパソコンにバックアップが存在するかもしれない。ただし、モニタにメモリが格納されている場合は別である、はずだ。


「違いがわかならいよ~」


「甘えられてもな。僕にも確信はないんだ」


「でもアイデアは良いと思うな。高性能モニタならそれなりに珍しいメモリになっているはずでしょ」


 真奈美は笑顔で言っていた。 


 空腹を訴えてきた加奈のためにピザLサイズを頼んだ。加奈は食欲旺盛で、半分を平らげた。僕はインスタントコーヒーを水のように飲んでいた。


「仕事にいってくる」


 僕はやけになっていた。一人になった途端に明日香の喪失が現実味を帯びてきた。電車内でアルコールを飲んでしまったことも悪ノリを手伝った。


『ポンポロピン、ポォンピィン』


 口ずさんで、なぜふざけた音しかでないトランジスタラジオの解析をしなかったのか、自分を戒めた。


 部屋にはだれもいない。【オブサべーションベンチャー】の運命を司るモニタを目の前に分解した。螺子穴の緩み、留め金の劣化状態から何度も分解された形跡があった。中を覗いた。


 FPGAを八つ搭載した回路、メインメモリの回路、電源供給部の回路、すべて同じ基板に収まっていた。最初は見るだけにしておくつもりだったが気が変わった。どうしても解析してみたい、そう思い始めた。


 基板を抜き取って元に戻した。見た目は動きそうである。基板を梱包材に包み、持参したバックに入れた。念のため、パソコンにあるデータを消去しようとして、最大で二十文字のパスワード提示、あっさり断念した。


「これは何だ?」


 ファイル形式がIC設計に使われるプログラム言語で、大量に収まったフォルダがあった。ツールがインストールされていないので、すべてのファイルが開けないようになっている。USBメモリに落とす。


「もう用はないな」


 置き手紙を添えて立ち去れば少しは角が立たないのだろうか。文面を考える、浮かんでこず止めておいた。


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