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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆二章 逃走(3)

「全部正確な情報だよ」


 力ない声だった。真奈美には可哀そうだと思うが、恐らく契約書に書いた内容がそのままデータに反映されているのだろう。加奈は実家の住所だったらしいが、苗字から加奈と兄弟であることも推測されている可能性もある。


「私たちを調べつくしているのであれば、会社についても調べてみたい」


「とことん、納得するまでやってみよう」


 【オブサべーションベンチャー】は株式会社のデータバンクに登録されたちゃんとした会社だった。資本金一千万、社員数一五人、創立二〇〇五年、社長からの言葉:我が社は警備システムの発展を担い、高性能監視カメラを駆使して強化し、そして製品化を目指しています。警察のみならず、公共団体と手を取ることで昨今の多様化した犯罪にも対応し……(以下略)


 言いたい放題である。公共団体ではなく詐欺団体だろとつぶやいた。



 大野主任の課題は出来上がっていた。残務を考えるともう少し時間をかけて検証してもよいのだが、結局は報告した。


「もう出来たの、すごいね」


「けっこうがんばったもので」


「さすが、先生と呼ぶよ」


 本当に驚いていた。僕の実績からすれば当然である。皮肉にも、退職を目前に控えて上司を唸らせる仕事が出来た。これがもっと前であれば退職を免れたのかもしれない。うんざりしていた引き継ぎ業務もゴールが見えてきている。僕は反応を待っていると、


「確認しておくよ」


 大野主任は自分の仕事に戻った。


 水族館にある水槽のような喫煙所で缶コーヒーを飲んでいると、相模課長が現れた。


「就職活動は順調かな?」


 そう言って煙草に火を付けた。僕にも進めてきたが丁寧に断った。僕の入社当時には、喫煙者が倍程度はいた。隔離された部屋から、役員クラスの個室付近、及び非喫煙者から視線を浴びるこの部屋に移った途端、半数の喫煙者は向こう側に写り、僕もその一人だった。


「そうですね」


 曖昧に答えた。活動はしていないとは言えない。嘘に嘘を積み重ねる前に技術的な話に変えた。八Kという解像度の規格は知っていた。


「監視カメラの捉えた映像から個人情報を割り出すシステムってありますかね?」


「例えばどんな装置なのかな?」


 ざっくりと説明した。相模課長は顎に手を置いて考えていた。煙草を消し、新しい煙草に火を付けた。


「それは無理なんじゃないかな」


 聞いた事もないよと付け加えた。当然の反応である。技術的に他社から劣っているわけではない。僕も目の当たりにしてみるまでは信じていなかった。


「でも面白そうな発想だね」


 そう言うと煙草を灰皿に置いて、自動販売機からコーラを購入していた。相模課長は弁当にコーラの組み合わせでも平気だった。会社支店のあるアメリカでの生活が長かった話は聞いていたが、弁当にコーラの組み合わせがどれだけ一般的ではないかを知らない。


「例えば、パソコンに個人情報と写真を入れておいて、監視カメラの捉えた映像と照合を取ればできるかもしれないよ」


 僕が思い付いていた意見である。


「監視カメラの解像度とパソコンが認識する解像度に差分が出来ていた場合でも出来ますかね?」


「うーん、そうなるとどうだろう」 


 今さら神田の説明に信憑性はないが、構造を見ている限りパソコンとモニタ、パソコンと監視カメラ同時通信が出来ているようには見えなかった。


「モニタ自身にメモリを積んでいた場合はどうだろうか。監視カメラからの映像をメモリの情報と照合して、最終的にモニタへ映し出すとか」


「なるほど」


 ありえる考え方だった。そうであれば同じ解像度に統一していることも頷ける。もし犯罪者が映し出された場合、警察提供データの中から要注意人物であると見つけて、警察に知らせるメリットも納得出来る。


「他社の製品でもやっていない、需要がないという観点から、提案の段階で落ちるとは思うけどね」


「いや、参考になりますよ」 


「後は何処まで精度を上げるための色数、画素数になるね。人の認識できる閾値はどこにあり、誤認しない点も含め、検証が必要になるだろうね」


 問題は顔写真と個人情報があれば、詐欺の手段としてあえて招待状を出し、新たに個人情報を得る必要性がないということだった。不特定多数の人にハガキをばらまくよりも、知り得た情報を辿っていった方が効率も上がるのではないか。


「人の目は高周波数の画像処理によって誤魔化せても、機器はごまかせない正確さがあると考えれば、我々の手が届く範囲で実現出来るかもしれないね」


 受付からの連絡があったのは残務が完了しかけた頃だった。【オブサべーションベンチャー】の金本という男が応接間で待っているらしい。僕はこれから行きますのでちょっと待っててもらえますかと伝え、電話を切った。大野主任は設計の手を休めていた。


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