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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆二章 逃走(2)

「退職予定まで知られているのか。気分わる」


 同情はない。論点は違ったところにある。無職になる生活はどうでもよくなっていた。


「どこで調べたのかな?」


「神田は仕事内容を知っていたから不思議ではないのだけど、退職については会社の関係者しか知らないはずなんだ」


「誰かが教えているってことなんだ……」


「としか考えられないな」


 考えたくはなかったが、相模課長と大野主任の顔が浮かんでくる。


 数日前には映像だけだった加奈の情報も知られているようだった。定期的なメンテナンスがそうさせているのだろう。監視カメラとモニタのシステムは日々進化していると思うと、手から汗が出てきた。


「怖くなってきた」


「この装置に関してはわからないことだらけだ」


 僕が監視カメラを弄っている最中、


「どいてよ」


 加奈は冷めた声で言い、隙間を通ろうと体を左右に動かしている。僕はいつもの癖で道を譲りそうになった。


「ちょっと待って」


 バックを探り、折れ曲がった紙を抜き取った。


「僕も同じくここに招待されたんだ」


 ハガキを見せた。通り過ぎる前で加奈の動きが止まった。


「話を聞いてくれないかな?」


 電話を通話状態にしたまま二人に向けて説明した。架空請求からの招待状、特殊なアルバイトをしていること、そして両者が繋がっていることまですべて。


「じゃあ、私たちは詐欺の手助けをしていたの?」


「そういうこと」


「怖くなってきたんだけど」


 明確なことはわかっていない。招待状を不特定多数の人に出して、この場所に誘いこみ監視カメラから情報を得る、標的とされる被害者が素状を明かさなくても、自宅回収が現実味を帯びてくる。そこまではわかる。しかし、パソコンにないデータがなぜモニタに表示されることができるのか。神田の言う通り、特許申請されていない理由が単純に時間の問題なのであれば絶対ありえない原理が証明されることになる。


 僕は特許申請できない理由があるのではないかと疑うようになった。


「モニタ見ていたら、変なことが起きたんだけど」


 パソコンにないデータが立て続けにモニタへ表示されたという。加奈を含んだ十人中五件、映っていたのはいずれもこの場所だった。神田への報告も忘れてはいない。反応は僕の時と変わらないようだった。


「僕も同じ経験はしていたんだ」


 加奈は口を開いてくれた。携帯をいじっている最中に誤って会員登録されてしまったらしい。暇つぶしにサイトをネットサーフしていたが、まともに見える文面メールが届き、切実に受け止めていた。自宅に来られては真奈美や両親に迷惑がかかるので黙って行動をしていた。


「店で働いているよね?」

 

「借金をしてでも支払って終わりにしたかったから、スカウトされたキャバクラで働き始めただけ」


「加奈に変わって!」


 抵抗はできなかった。加奈も諦めて電話口に出る。二人は言い合いになった。


「だって払わないとやばいでしょ!」


 未成年の水商売、怒るのは当然である。三十分もの間、僕は取り残されていた。ようやく終わったと思うと、加奈は一旦部屋に戻った。


 真奈美が【オブサべーションベンチャー】を詐欺集団と確信したのは、僕の話からではなく、二十四時におちあった時だった。


「例のキーボード部屋なんだけどね。居るのは全員サクラだったの」


「全員がサクラ?」


 お手洗い中、洗面所で化粧直しをしながら女の子が言っていた。返信があれば料金がかさんでいき、実際合う約束を取っても遠まわしにかわしていくプロセスである。やりとりの中で個人情報も聞きだしていき、詐欺のデータベースへと展開される。今さら驚きではなかった。


「本当に引っかかる人はいるのかな?」


「まあ、全員サクラで運営しているとは考えづらいからね。まともなサイトに潜りこんでいる場合もあるし、本物の会員が半数ぐらいはいても可笑しくないよ」


 出会い系サイトを卑下している様子は無かった。真奈美は単純に利用した経験がなかった。僕の知り合いでも実際出会い系がきっかけで付き合うようになり、結婚まで至った人もいる。


「救われている人もいるんだ?」


「全員サクラだったら流行らないでしょ。社会にでればわかることだよ。出会いはあるようでないんだから」


「説得力あるな」


 悲しくなった。モテる要素がないと言われているようなものだ。実際そんな要素はないので悲観感は煙草一本吸い終える時間程度で消える。


「真奈美は大丈夫そうだけどね」


「どういう意味?」


 あえて聞いてくるとは思わなかった。察するに、曖昧な答えでは納得してくれない切迫さが伝わってくる。


「男がほっとかないと思うから」


「全然もてないの。びっくりするぐらい」


「嘘臭いな~」


「信じてよ。でも嬉しいかも」


 今度は僕の話題である。謙虚さを売りにしているわけでもないが、明日香と付き合えるようになったのは、僕が安全であるからだと考えている。押し問答していてもしょうがないと思ったのは真奈美の方だった。


「私も試してみていいかな」


 立ち位置を場所交換した。ハガキの住所をたどり、真奈美は監視カメラの前に立った。緊張した面持ちで笑って見せている。僕は電話口で読みあげた。


氏名:長野真奈美ながのまなみ

住所:東京都初台区XXX

年齢:二十歳

職業:大学生

経歴:県立福島南東高等学校卒業、遅稲田大学英文科在籍


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