◆一章 監視システム(16)
「もしもし~、だれ?」
ざわついて、明確な声が聞こえてこない。真奈美と接近した。おじさんの語りと、女性の媚びた聞き方が耳に付いた。お酒の注文を女性がしている。『シャンパン入りました!』周りがさらにざわついた。居酒屋の雰囲気とは考えにくい。キャバクラが僕の受けたイメージだった。僕は親指と人指し指でまるを作った。
「加奈だよね?」
突然電話が切られた。プープープー、音が僕達の距離を付き離した。真奈美は待受け画面を見つめている。
生存は確認できた。そう考えるしかない。じっとしているにはまだ寒い季節だった。風俗系の情報誌を買いこんで、モニタ室に戻ると片っ端から連絡をかけた。新宿区に得定しても、宝くじを当てる可能性と同等である。時間が進むに連れて不機嫌な対応をする店員が増えていく。やがて閉店時間を迎えた店が大半を閉めていった。
努力が報われないと、僕らの調査は進んでいるのかすらわからなくなっていた。冷静になるのは時として歩むべき足を止める。加奈は本名を明かしていない、或いは公表できない規則が店側の主張としてあればそれまでである。
「まだ聞いていない店はいっぱいあるな」
ボールペンで消していった箇所は微々たるものだった。
「部屋に戻ってみるね」
すっかり明るくなった頃、真奈美は戻っていった。
八時前に神田が現れた。アルバイトそっちのけの後ろめたさから、僕は緊張していた。
「お疲れ様です」
頬を上げて言ってきた。心の中で謝罪すると、
「失礼ですけど、珍しいですね?」
「あまり真面目な社員ではありませんからね。今日は寝坊をせずに来ましたよ」
僕が驚きの表情をしていると、すぐに訂正した。笑えない冗談である。
「監視システムのメンテナンスが必要なんですよ。これからエンジニアに来てもらう予定です」
そう聞くと、パソコンにないデータがあったと話した。僕の知る限りでは二件、残念ながら証拠はメモしかなかった。
「不具合ではないんですよ。このシステムの売りになります。まだ特許を取っていませんので構造は言えませんが」
「売りだったんですか……」
原理が全く予想できなかった。知りたい欲求を抑えるのはつらい。
事前に説明をしなかったのは、質問に答えられず不快にさせてしまうことを懸念していたという。企業機密がどれ程重要なのかは社会人になって嫌と言うほど知ったわけだし、拘っていませんと言った。情報のアップデートをするらしかった。メンテナンスは定期的に行うことで精度が増していく。