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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆一章 監視システム(15)

 なぜこの場所にあるのか、考えても答えが出てこない。神田と松本の繋がりも想像が出来ない。


 基本に戻してみた。神田が普段何を仕事としているのかも明確ではなかった。実際は彼の実態さえ知らなかった。そして高性能のモニタである。もしかすると、警察に貢献している業務が表向きであり、自分たちのやっている悪事を隠蔽するのが目的なのではないか。利益として考察すると、高性能のモニタが試作段階の場合、漠大な費用がかかるはずである。別途の製品が量産されていなければ成り立たないのではないか。架空請求で得た利益を開発費として投入する。会社全体のイメージを製品開発とすれば、架空請求なるチームを組んでいても隠れ蓑としては最適の場となる。


 部屋に戻ってアルバイトを再開していると、真奈美から連絡があった。


「妹は寝ているから明日聞いてみるね」


 穏やかな声だった。僕は胸をなで下ろした。


「そうなんだ。今日はちゃんと寝るんだよ」


 僕自身、なぜ優しく出来るのかが分からなくなっていた。薬指に光っている指輪、明日香からの連絡は途絶えていた。大切な存在に違いない。それなのに、心配が希薄になっていた。


 昨日同様、パソコンにデータが入っていない人物の情報が映し出された。じゃがいもが歩いている、のではなくボウズでダボダボのズボンを腰ばきにしているブラザースタイルの男はどこから見ても日本人である。神田への連絡はスルーした。


 起こった事実を考える許容範囲を超えていた。笑われるかもしれないが、僕の脳は最良の結果を導くプロセスにおいて、視野を広げすぎるとすべて破たんしてしまうのだ。考えずに設計に集中、気が付くともう朝だった。


 会社では仕事をしているふり、仮の姿だった。【オブサべーションベンチャー】の実態を考えながら【東電気】向けの設計をした。予想通り効率は悪い。半分の給料になってもかまわないとさえ思った。

抱えている謎、奥が深いと考えた僕は秋羽原で盗聴器セットを購入した。なぜだか身分証明の提示あり。これではどちらが犯罪なのか不明慮になってくる。しかし手っ取り早い方法である、両親の呵責を感じてもしょうがない。携帯用工具箱も持参した。


 真奈美を目の当たりにすると、考えている作戦の伝達にためらいがあった。


「加奈がいなくなったの」


 ドアを閉めるなり唐突に言ってきた。真奈美の声が震えている。


「友達の家とか、実家には連絡してみた?」


 関係者への連絡は済んでいるらしかった。真奈美の両親は捜索願いを出し、親友は飛びまわって探してくれていると言う。家出、万引き、さらに失踪である。加奈の心にどのような闇が潜んでいるのだろうか。


「これから探してみようかと思って」


「今から?」


 時刻は二十四時を回っていた。真奈美は躊躇わず頷いた。


「僕も探すよ。一緒に探そう」


 アルバイトどころではない。神田に抜け出しが知られなかったとしても、報告はするつもりだった。


「ちょっと手伝ってくれないかな?」


「あ、うん、なにを?」


 警備員の巡回時間を考慮すると、真奈美に説明している時間はなかった。


 キーボードの音だけが聞こえてくる部屋は四十台程のパソコンが並んでいた。会社説明会で使われそうな部屋である。窓からは向いのビル外壁しか見えず、光は射さないようだ。真奈美の話では学生風と思われる人達が出入りしているという。休憩でも私語がなく、仕事熱心というよりも異様な雰囲気だと感じていた。


 わけもわからず着いて来た真奈美に電気コード元の外し方をレクチャーした。作業が雑である程見つかる可能性も増えてくる。摩擦によってプラスティックがはがれないようにするのが最低限のマナーだ。盗聴器の設置場所は四ヵ所、最後に僕達が居たモニタ室に設置して完了である。 


 「これってもしかして」


 レシーバを見せた。真奈美の声が反響しつつ聞こえてきた。自分の声がこうして聞こえてくるのかと不思議な感覚になる。


「盗聴器」


「えっ?」


 真奈美は固まっていた。気にせず手を取って出口へと導いた。思いつきの理由だけを言うと受付のおじさんは止めてこなかった。神田との連携が取れていないようだ。同ビルに別会社が入っていない場合はこう簡単にはいかない。


「これからどうするの?」


「ヒントになるような情報があれば……」


 求められた質問の解はない。電車が停止した時間滞、巨大なビル群が視野を遮る。僕達は公園で歩みを止めた。ネットカフェ、カラオケ、その他、住居を求めて路上に座り込んでもやっていける。家出少女が街を徘徊して、やみくもに探すには複雑な街過ぎる。大人から金で買われている映像がチラついた。


「加奈はヤンキーなの?」


「意味がわからないよ」


 信じられないといった顔が困惑した。


「そういうわけじゃないけど」


 加奈の最近取った写メールを見せてもらった。ギャル系雑誌に載っているような女の子だった。笑っていない。何かを憎んでいる表情だ。厚化粧と茶髪の巻き髪は東京に出てきてから手に入れたという。


「クラブに行っているとかない?」


「わからない。悩みを打ち明けない子だから」


 行動範囲も宛にならない。次の日に跨る時間帯は必ず部屋にいて、わりと規則正しい生活はしていたという。僕は番号非通知で電話を掛けるように指示した。出た場合もしばらくは無言でいてほしいと付け加えた。


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