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ミステリアスボード  作者: 京理義高
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◆一章 監視システム(12)

 明日香からの連絡はない。無事に帰れたのだろうか。念のため、メールを送った。のんびり食事を済ませた後に、出発の時間が来た。


 二十四時前、【オブサべーションベンチャー】の受付は守衛のおじさんに変わっていた。どことなく女性でないと気持ちが滅入る。


 四階の大半は電気が消えていて、キーボードの音は聞こえてこない。真奈美はモニタ前で釘付けだった。


「もう時間だったか」


 お疲れと声をかけ、真奈美は背筋を緩め、目を擦った。


「見ているだけだったよ」


 苦笑いしながら言った。本日の収穫はゼロ、監視カメラを通り過ぎる不特定多数の人達をただ観察しているのみ。最初はどこかのスーパーが映し出されていたが、二十時を過ぎたあたりでどこかのコンビニに映ったらしい。


「本当にこれでお金がもらえるのかな?」


 僕は路上調査している人達を思い出す。彼等は公衆の面前にさらされているだけ気を張っているという差異はあるのだが。


「僕に言われると困るな。でも大開発の初期投資だと思えば僕達のアルバイト料なんて安いものだよ」


「楽に考えろと」


「そういうこと」


 笑顔になった真奈美は僕に席を譲った。ぬくもりがあって心地よかった。真奈美は妹に連絡を入れ、出ないことを確認し、部屋を後にした。


「本当に何も起こらないな」


 僕はモニタに向けて話をしていた。まだ三十分経っていない、飽きが来ていた。気を抜くと寝てしまいそうだった。監視がないにせよ、初日からの失態は避けたいと考えた僕は、松本にダイアルした。


「何時だと思っているんだ」


 開口一番だった。それよりも声が妙に反響しているのが気になって仕方がない。


「留守電にメッセージ入れておこうとしたのですが、出るとは思いませんでした」


 フリーダイアルで松本の携帯電話に転送されるらしかった。寝ている時に起こされたと愚痴っている。詐欺をしている人間にも規則正しい生活はある。滑稽としか考えられなかった。


「用はなんだ?」


「振込についてなにも聞いていなかったので」


「お前が電話切るからだろ?」


「それもそうでした」


 馴れ馴れしいですねとは今さら言わないようにした。


 松本はATMに着いたら連絡しろと言った。ネットでも振り込めますよねと問い詰めるてもまったく聞く耳を持たなかった。ATMに着いたら連絡しろ、何度も何度も、僕はマインドコントロールされているのか。言う通りにならないと逆上しやすい性格、それでいて脅しめいた言葉だけは避けている。


「失礼ですが、西日本債権回収サービスさんの事務所はどこにあるんですか?」


「はい?」


 疑問が生まれていた。声の反響具合が同じ建物内、それも近くで話をしている類に似ていたのだ。仕事をしていると、五十メートルも離れていない距離で大野主任と話をする場合が多い。まったく一緒の反響具合だった。


「消費者として聞いておきたいので」


「言う必要がないだろ」


「実体を確認しないと、お金払うの怖いじゃないですか?」


「そこまで言う必要がないんだよ」


 何でですか? 幾度ろなく疑問を求めてもダメだった。製品検査のルーチンワークを思い出す。彼らなりの鉄の掟を破れれば、警察に相談というセオリーで少しは社会貢献できるかもしれない。


「ハガキが届いたんですけど、あの住所とは違うんですか?」


「想像にまかせるよ」


 松本に疲れの兆しが見えてきた。もう一押しと考えた。


「株式会社なんですか? それとも有限会社なんですか?」


 言い終わる前に電話が切れていた。リダイアルの嵐とすべきかどうか。理想から現実へと立ち戻る。どこかのテレビ番組記者のようにはいかなかった。 


 三時間で二人、パソコンのデータと合う人物がいた。運がいい、真奈美に自慢してやろうと思った。うとうとし掛けた深夜の四時にモニタから文字が浮かんだ。水商売風の女性にカーソルが合う。


「けっこういるんだな、パソコンのデータは……」


 呑気な独り言は続かなかった。どこを探しても女性のデータがない。僕は慌ててメモを取った。モニタに写っている情報を何度も口に出して確認する。


「おかしいぞ」


 他のパソコンから情報が流れている可能性もあった。オペレータが監視カメラの場所切り替えを行っているのではれば、充分に考えられる。若しくは不具合である。神田は電話に出なかった。


「自分が連絡しろって言っていたのに」


 朝日が差し込んできた。目が眩んで直視できない。定期点検をする警備員の見回りが二時間置きだと判明したのは七時だった。トイレの鏡で顔を映し出した。真っ赤になった白目に目薬を指す。八時になっても神田は現れなかった。受付に伝言を残し、勤めの会社へ向かった。


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