転移再び
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浅い眠りだった気がする。
寝ている途中何度か話し声のような声が聞こえたが、内容までは覚えていない。
眠りから覚め自分がベッドの上で横たわっている事に気付く。
感覚的に半日ほど寝てたと思う。
ここがどこなのかは分からないが、とにかくあの窮地を生き延びたこと、俺達では無い誰か第三者のお陰で一命をとりとめたことを思い出し、改めて安堵する。
俺のいる部屋は殺風景な窓の無い部屋。
俺の眠るベッドの他には、ローチェスト、小さめのランタンとカーテン、ローチェアが1つずつあるだけの素朴な部屋。
怪我だらけだった身体は見た目は綺麗に治っており、肋骨や背骨などの内臓機能も全快では無いが回復している。
「良かった・・・。助けてくれた人に大感謝だ。お礼を言わないと」
起き上がり、部屋の外に出る。
「ルシア、ここは一体どこなんだ?アレからどうなったんだ?」
「おはようございます。どうやらガブリエルの機転の矢で瞬間移動したようですね。ここはもうエヴァーガーデンではありません」
「は!?国を飛び越えてテレポートしたってこと?」
「はい、私としては予測不能効果の機転の矢が6名全員を同じ場所にテレポートさせた事の方が不思議でなりませんが、どうやらそのようです。ここは毘沙門天が治める国、トライデントの輪鳴の里という小さな村です」
「随分変なところにテレポートしたな。おっ、あの部屋から明かりが漏れてる」
通路を歩きながらルシアと話していると、前方に明かりが漏れている部屋を見つける。
近づいて部屋の中を覗くとルルと夏川の姿が見えた。
「ルル、夏川!」
勢いよくドアを開け部屋に入ると、皆が驚いた表情で俺を見る。
「涼太君!良かったぁ、起きたぁ」
嬉しそうにルルが走って近づいてくる。尻尾がついてたら子犬みたいだ。
「ルル、ありがとう。眠っている間に回復してくれたんだろ。助かったよ」
「ううん、私なんて外傷を少し治しただけだよ。助けたのは彼女」
そう言って部屋奥の椅子に座る少女を指差す。
「わぁ、回復して良かった。正直上手くいくか不安だったの」
笑顔で俺に近寄ってくるのはよく知った女の子。
同じ3-Aクラスの桐谷透華だった。
「桐谷、久しぶり。回復してくれてありがとう、助かったよ」
「ううん、半分は瑠々ちゃんともう半分は私の契約者のサクヤのお陰だよ。それより涼太君がこっちの世界に来ていたのは知ってたけど、まさか瑠々ちゃんと千里と一緒にいたのにはびっくりしたよ」
「ああ、ルルとはこっち来てからすぐの時に会って一緒に旅をしていたんだ。夏川とは・・・って俺が眠っている間に聞いた?」
「うん、二人から教えて貰ったよ。ここに来るまでの話とか、あと元の世界のあの事件の真相も・・・」
「だよな、そういう事なんだ。濡れ衣の事は気にしないでくれ。諦めて冤罪を認めてしまった俺の責任でもあるんだ」
「あの時、私も涼太君の事は信じてたの。だから涼太君から謝られた時はショックで。最後まで気付いてあげられなくて、本当にごめんなさい」
桐谷に深々と頭を下げられた。
「いいよ。本当に気にしないでくれ。被害者である桐谷やルルが謝る必要は無い。それだけに真犯人は許せなかったんだが、その1人である鳴海がまさかあんな事になるとは・・・」
「うん、鳴海君には二年生の時から言い寄られてた節はあったから、思い当たる節はあるんだけど・・・。他の居なくなった人達もすごく残念だし悲しいよね。」
桐谷が伏し目がちに俯く。
「今誰が残っているんだ?慎也は無事なのか!?」
カバンからスマホを出し異世界通話アプリの連作先アドレスを開く。そこには
〈発信先〉
高村薫
田中瑠々
長谷部光太郎
桐谷透華
佐倉恵那
真田優希
小泉綾瀬
杉村太一
柳澤瞳
長谷川希莎
梨田慎也
小日向楓
夏川千里
松永比呂
前にチェックした時は18名だったが、既に俺を入れて15名まで減っている。
鳴海英志の他に、ソフトボール部の雛本遥香、大人しいタイプの岸本純、同じく穏やかな性格の大河内等の名前が消えている。
慎也とヒロは無事なようだ。
インドラへ戻った柳澤、高村の名前もある。
「そう言えばシーナは?まだ魔力切れで眠っているのか?」
「うん。今ジレンさんとアイナちゃんと一緒の部屋で寝てるの。エルメス曰く、無理しすぎたからあと半日は眠るだろうって。アイナちゃん妹に会えてすごく嬉しそうだよッ。」
ルルがにこやかに話す。
「やっぱりあの子シーナの姉だったのか。面影があったからそうじゃないかと思ってたよ。そっか、アイナって名前なのか」
「うん。涼太君の捕らえられていた牢獄で何ヶ月も幽閉されていたんだって。酷すぎる!」
ルルさんが今度はぷりぷり怒り出す。
「ルルは笑ったり怒ったり忙しいね」
その様子を茶化すと
「あー!そんなこと言ったらこれからはちょっと治してあげないからね!」
ほっぺたを膨らますルル。
そのやりとりを見て桐谷が
「ず、ずいぶん仲がいいんだね、二人共。涼太君って瑠々ちゃんのこと、その、な、名前で呼んでいたっけ?」
「ああ、慣れゆきでな。ルルとはいい旅仲間だ。何か気になることでもあったか?」
「い、いやいやいや。ふーん、そうだよね、聞くからに大変そうな旅だったもんね」
「?」
桐谷のその態度に首を傾げていると、目を細めて見ていたルルが
「そうなの!すっごく大変だっけど何とか二人で乗り越えてきたの!」
俺の左腕にしがみついて桐谷と目を合わせている。
「へ、へー、じゃあこれからは私も二人の力になるね」
対して桐谷もルルの目を見返している。
よく分からんが二人が熱い視線を交わしているのを眺めていると
「おう、涼太!目を覚ましたか!」
ジレンさんとその腕にしがみつく少女が部屋に入ってきた。
「ジレンさん!はい、なんとか生きてました。それよりシーナやルルを守ってくれて本当にありがとうございました」
深々とジレンさんにお辞儀をする。
「いや、いいってことよ。俺が勝手にシーナを助けただけだ。それに俺も散々暴れたからな。途中からもう後戻り出来なかっただけだ」
「ジレンさん、もうエヴァーガーデンには戻れないですよね。本当にご迷惑をおかけしました」
「あんな国にもう未練はねぇよ。もう戻るつもりもねぇし、身寄りのないこの子の面倒も見なきゃならねぇ」
ジレンさんの腕にしがみつくアイナに目をやる。
「こんにちは、アイナ。君はシーナの姉だね?」
「はい。あの、この度は助けて頂きありがとうございました!」
アイナは緊張からか固くなりながらお礼を言う。
「いいよ。お礼ならシーナに行ってあげて。それより、その服ボロボロだから着替えた方がいいね。桐谷、何か予備の服とかあったりしないか?」
「うん、今シーナちゃんとアイナちゃんの服を長谷部君が取りにいってくれてるの。少し待っててね」
「長谷部!?」
長谷部ってあの、1年生の時にストーカー事件を起こしたアイツか。
俺の盗撮濡れ衣事件の時も疑われてオドオドしてたよな。桐谷達と一緒にいたのか。
すると部屋のドアが開き、長谷部が女子用の服を持って部屋に入ってきた。
「お、仲立。起きたのか」
「な!?え???」
その姿を見て驚くのは無理もない。
いつもだらしなく前髪をおろし、髪の隙間からオドオドと人の視線を伺う長谷部だったが。
長い髪を後ろで縛り、キリッとした眉毛と自信満々の立ち振る舞いに別人かと思うくらいだ。
話し方も変わっている。
「?。ああ、仲立に俺の事を話してなかったのか、千里」
「言わないでいた方が面白いかなぁって。てたでしょ」
夏川がケラケラ笑いながら俺を指差す。
「長谷部、お前そんなキャラだったっけ!?なんかめっちゃかっこいいんだけど!?」
俺の驚きに対し、クールな表情で長谷部が
「すまんな。皆の注目が集まらないように学校では演技してたんだよ。おれは元使徒なんだ」
「使徒?」
そう言えばこの世界に転移する前にルーシェがそんな事言ってた気がする。
「ああ、俺はもともと人間界の者ではない。このエラリスで生まれ育ち、3-Aの生徒を監視する為に唯一神様から人間界へ送られた者。それが使徒だ」
「俺達を監視だと。なんでそんな必要が?」
「お前たちの学校に通う誰かが唯一神様の元から契約の箱を持ち出し、人間界に送った者がいる。その犯人と箱の行方を探すために送られたんだ」
「俺達生徒の誰かが神の下から契約の箱を盗んだ?そんな事出来るのか?」
「無論、普通の人間には不可能だ。だか、俺達使徒であればそれが可能。すなわちお前たちのクラスに1人使徒がいるんだよ。偽物の人間がいる」
「そんなやつ・・・って箱を簡単に開けることが出来た小日向か!あいつ、うちの学校の生徒じゃなかったのか」
「いや。小日向は普通の生徒だ。恐らく他に箱を開けるのを手助けした者がいる。だがあの時、教室の中にいた誰か、すなわち通話アプリのアドレスに名前があるヤツの誰かだ」
ここにいるメンバーでもなく、柳澤や高村、真田、長谷川でもない。
すなわち、佐倉恵那、小泉綾瀬、杉村太一、慎也、ヒロの誰か。
「本来なら今回、契約の箱は開くはずでは無かった。女神デメテル疾走後、唯一神様は後継にここトライデントを治める神、毘沙門天を任命する予定だった。毘沙門天もそれを承諾していた」
俺の知っている長谷部光太郎とは別人格であるかのように続ける。
「そして後継者任命の前。唯一神様の下から契約の箱が盗まれた。それを探すために俺が人間界に送られたのさ。ちょうどお前たちが1年生の三学期を迎える頃だ」
「なるほど・・・。てことはお前のストーカー事件って」
「そうだ、監視だ。ちょうど夏川が怪しいと尾行している時に、見つかって通報されたんだ。日本には防犯カメラというモノがあるのを知らず、証拠充分でアウトだ」
こいつクールな態度の割には結構間抜けだな。
他人事ではないが、その姿を想像すると少し面白い。
「それで、今までお前たちはこんな所で何をしていたんだ?ここは不便だし、別な場所に引っ越した方がいいだろ」
「だめだ。それにここは地下ゆえにが敵にも見つかりにくい。今はまだ移動する時期じゃない」
「それで長谷部。お前の目的は?」
「箱が開いた以上、このレースを止めることは出来ない。俺の目的は、お前たちの中に紛れ込んだ使徒を見つけ出し、このレースから降ろすこと。それが唯一神様からの指令であり、毘沙門天への礼儀でもある」
「なるほど。お前も大変そうだな。夏川と桐谷もその手伝いを?」
すると桐谷が
「ううん。私達は元々神聖王国に居たんだけど、あの雰囲気が嫌で千里と長谷部君に相談したところ、ここまで逃がしてくれたの」
「そうそう。私も変貌した鳴海達が本当にキモくて、ストーカーの時のお詫びついでに長谷部に逃げる手筈を整えてもらってたんだよね」
長谷部が面目なさそうに夏川に対し頷く。
「ありがとう。ひとまず状況は理解出来たよ。俺達もハニエルとの戦いから逃れられたとはいえ疲労困憊なんだ。出来れば少しの間、ここで匿ってもらえないか?」
「もちろんだよ。クラスメイト同士、みんなで助け合おう」
桐谷が優しい笑顔で快諾してくれた。
その日は皆、桐谷達のアジトで休息させてもらった。
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