入湯
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ここ数日で溜まった疲れと魔力切れによる反動で、過去経験したことがないくらい深く眠った気がする。
夢の中でルシアと初顔合わせをしてから長い眠りについた。
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。
そうだ、あの後ルルは?!高村は!
仰向けの状態から勢いよく起き上がる。
まだ少し体がだるさを感じる中、辺りを見渡す。
「どこだ。ここ」
見慣れぬ部屋に見慣れぬベッド。カーテンの隙間から漏れる光が今が夜ではないことを告げる。
部屋の中を見渡すと大きめのソファに毛布を被って眠っている人影が1つ。ベッドから降り、その人影に近づくとそれが見慣れた人であることを知る。
「ルル、無事で良かった」
鼻まで毛布を被り、すやすやと眠る寝顔を見て、あの事態を無事切り抜けられたんだと実感する。
ルルにあの後の顛末を確認したいところだが、起こすのが可哀想なので後にしよう。
首に下がったルシアに話しかける。
「おはようルシア。俺、どのくらい眠っていたの?」
「おはようございます、りょーた。約1日半眠ってましたよ。高村薫を倒した後丸1日眠って、今はその翌日の朝です」
「ずいぶん眠っていたな。まだちょっと身体がだるいけど」
「でしょうね。完全回復とは言えない状態ですので無理しないように」
「へーい。あとここはどこだ?それと没収された俺の荷物はどうなった?」
「ここは高村薫が泊まっていた宿の一室です。りょーたが倒れた後、ジルドさんがここに運んでくれました。あと荷物ならそこのベッドの横に」
さっきまで眠っていたベッドの足元に奪われたカバンとその中身、スマホ、鋼のナイフなど一式が置いてあった。
スマホを手に取り、異世界通話アプリのアドレス名簿をチェックする。
高村の名が残っている。どうやら無事な様だ。
人数を数えてみると自分以外は18名。3日前にチェックした時は21名だったため、それ以降で3名が脱落した様だ。
まず梨田慎也の名前を見つけありホッとする。
その下には松永比吕の名もある。
ざっと見たところ、桐谷、鳴海、小日向などは残っているが、残りの生徒は誰がいたのか記憶が確かでは無いため、一旦探るのを止めスマホを閉じた。
その後、暫くベッドでルシアと話していると、ルルが目覚め俺の顔を見るなり大泣きした。まぁ丸一日起きなかったんだし、女の子1人でいるのは相当心細かったんだろう。
一通り泣いた後、思い出したかの様に朝ご飯の用意をしてくれた。
ルルの用意してくれたご飯を食べながら、俺が寝ている間の顛末を一通り教えてもらった。
驚いたのは、最後助けに来てくれた柳澤が、昨日高村を連れて首都ラーヴァナに戻ったこと。
なんでもインドラにある宝玉の在り処を突き止め、見つかったら報せを出してくれるとのこと。
でも高村を一緒に同行させて大丈夫なのだろうか。
まぁ、高村も今回ので少しは懲りただろうし、後は柳澤に任せて放っておくか。
「そうだ、ルル。さっきスマホで例のアプリを確認したら人数が3人減っていたんだ。誰が消えたのか判明してたりする?」
ルルの表情が暗くなる。
「うん。野球部の鹿内君と佐々君。あと千紗ちゃんみたい・・・」
柳澤は毎日メンバーを確認し、生存者名をメモしていたらしい。
千紗ちゃん・・・軽音部の水原千紗か。
鹿内と佐々は野球部だ。もしかしたら合流した後に一緒に不幸に見舞われたのかもしれない。
「本当に残念だ。でも俺達も一歩間違えたら同じ運命だったかもしれない。警戒していかないとな」
ルルは暗い表情でコクっと頷いた。
それからルルと今後の方針について話し合った。
インドラ国の宝玉は柳澤に任せるとして、残りの3つの宝玉を俺は探し出し、最後の審判を見つけ出すつもりだと伝えた。
理由は、さっさとこの世界を脱出すること。そして、元の世界で俺の濡れ衣を晴らすこと。犯人(ヒロと鳴海)に真相を突き出した後、その真意を聞き出してから1発ぶん殴ること。
一応犯人の名前は伏せた上で、その意思をルルに伝えると
「私は1人じゃ何も出来ないし、元の世界に戻れるのなら涼太君の手伝いをします!」
と即答された。だが、その後に
「でも宝玉を全部見つけ出したら、世界を自分の好きに作り変えられるんだよね?涼太君はどんな世界にするの?」
と聞かれたので
「んー。実は俺もその答えは持ってないんだよね。でも、自分本位に変えるつもりは無いかな。まずは全部集めて、それから考えようかと思ってる」
ぶっちゃけその後の世界のことまであまり考えてなかったので、それを正直に伝える。それを聞いたルルは笑顔になり
「それがいいと思う!さすが涼太君」
と、この適当な考えに何故か賛同してくれた。
残り3つの宝玉を探し出すという方針が決まり、次に目指すのはもう1つの宝玉があると言われるお隣の国。
神々が統治する国「神聖王国エヴァーガーデン」を目指すことにした。
ここアゼリアンはエヴァーガーデンとの国境にあるため、幸いにも王国内に入るまではそんなに時間はかからなそうだ。
体力回復と旅の準備をまずは優先し、あと1日この街に滞在した後の明後日の朝に出発することとした。
その日は午前中は少し休み、午後からルルと買い物に出かけた。旅に備えた水や携帯食はもちろん、着替えなどをそれぞれ購入した。少し早めの夕食をとるため、異世界版ファミレスのような大衆食堂に入る。
そこで、これから向かうであろう神聖王国エヴァーガーデンについて店内の客に聞き込みをした。
「あぁ、王国ね。法律が厳しくて、この国に比べたら息苦しい所だよ。でもその分犯罪も少ないし、飢えや貧困も少ないって聞くね」
「領主達も国民も優しくていい所だよ。でも法は厳しいから、もし行くつもりなら気をつけな」
「8つの州に別れていて、それぞれの州を統治する神様が居られるんだよ。そして州を束ねる首都ベリルヘムには現国王である女神デメテル様がいるんだ。それぞれの州や都には、そこ特有の法律があるから気をつけな!」
なるほど。法律はやたら厳しいので気を付ける必要はあるが、普通に生活する民にとっては悪い国ではなさそうだ。
恐らく宝玉があるとするなら首都ベリルヘムだろう。
確かルシア曰く、女神デメテルは逃亡中とのことなので、現国王は別の神が王座についているのか?
とりあえず首都ベリルヘムを目指し宝玉の情報を探るのが良さそうだ。
残りの情報は食事中にルシアとディーナに補足してもらった。
それから一通り食べ終えたのち高級宿に戻った。
俺とルルは高村撃退のお礼で、別々の部屋を用意してもらった。どうやら宿側もアイツの我儘に相当迷惑してたらしい。
この地域は天然温泉の名所らしく、お風呂も貸切で用意してくれるとのことで、従業員に案内してもらった。
まだ疲れが溜まっていたので、湯治も兼ねてゆっくりと湯船に浸かった。
「ふぃ〜、これは生き返る!この世界に来てこんなにリラックス出来たの日は初めてかも」
上機嫌で湯船に浸かっていると、湯けむりの向こうで人影が見え、こっちに近づいてきた。
ん?貸切じゃなかったっけ?宿側の手違いか?
疑問に思ったが、まぁ贅沢は言えないなと気にせず至福の時を楽しむ。
そのもう1人の客が俺の横を通過する時だった。
「え・・・」
湯けむりが晴れそこに居たのは、身長はルルくらいで、ルルみたいに細くてキメ細やかな白い肌。細い割には結構あるなと実は普段から思ってたけど見ないようにしていたルルの双丘の様な双丘を露わにした、生まれたままの姿のルルみたいな女の子。まるでルルそのものだった。
いやこれルルだ・・・
「・・・」
目が合って、そして時が止まる。その間、俺は熟考する。
今まで、元世界も含め数多くの困難を乗り越えてきた俺だ。
身に覚えの無い事件のせいで変態と呼ばれたりしながら、それでも耐え抜いてきた。
そんな俺を初めて信じてくれたのがルルだ!
そうか!ルルならこの事態をきっと理解してくれる!
そんな淡い期待を胸に
「やぁ、ルル!いい湯だな!」
「変態!!!」
聞き慣れた言葉と同タイミングでビンタされ、俺は浴槽の中に沈んだ。風呂をあがり、案内してくれた女性従業員にクレームを言いに行くと
「あぁ、お似合いのカップルだったから、つい」
とか吐かしてやがった。それが宿側の手違いではなく単なるお節介であると判明した。
その後、ルルには従業員から説明してもらい誤解を解いてもらった。
翌朝、出発の準備を終え部屋を出ると、既にロビーでルルが待っていてくれたので昨日のことを改めて謝る。
「べ、別に涼太くんが悪い訳じゃないからいいよ!それより・・・見たの?」
ルルが頬を赤くしながら尋ねる。
否定しようとしたが、つい昨日の露わな姿を想像してしまい、双丘に目がいくと、その場で目潰しされた。
その後、宿にお礼を言い、俺とルルはアゼリアンを後にし隣国エヴァーガーデンへと旅立った。
ルシア曰く、最初の州はホルス神の統治するベフデト州で、都市ホルストを持つ漁業の盛んな場所らしい。
俺達がアゼリアンからベフデトへの国境に着いたのはお昼を回った頃だった。
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