水の精霊ウンディーネ
お待たせしました。胸糞展開から抜けます。
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「そこで何をしている!」
兵士はじわり距離を詰めてくる。
構えた剣の届く位置まで来たところで足を止める。俺も咄嗟にスコップを構える。月明かりで相手の顔を照らされ、歳の若い兵士だと判明する。
「ん?あ、あんたは!?」
兵士が俺の顔を確認し、構えていた剣を下ろした。
「パレードの時に親父を助けてくれた英雄じゃないか!あの時は本当にありがとう!」
「え?へ?」
「あんたが今日、パレードの時に救った御者は俺の親父なんだ。あの時は殺されると思ったが、あんたが突き飛ばしてくれたおかげで死なずに済んだんだ」
あの時の御者のおっさんか!その息子とは・・・。なんたる偶然。
「ところでこんな所でスコップ持って何してたんだ?まさかそのスコップでカオル様を倒しに!?」
「・・・」
「ま、まじか。相手はシヴァ様の御加護の持ち主だぞ」
「ああ、だとしても俺はあいつを許さない。このスコップでそのカオル様の頭を1発ぶん殴ってやると決めたんだよ」
「あんた凄いな。俺達だってあの横暴さには腹が立ってるが、そんな暴挙に出る勇気はないぞ」
その後、このジルドと名乗った若い兵士と少し話した。
どうやら高村陣営の配下達も、あの男の暴虐さにはうんざりしてるらしい。ただ、シヴァ神の契約者の手前、従うしかないらしい。
「分かった。俺があいつの暴挙を止めてやるよ。その代わりだが、俺の力の源であるネックレスが高村陣営に奪われているんだ。なぁジルド、奪い返すのを手伝ってくれないか?」
「確かにあの人を止めてくれるなら願ったりだ。でも相当な命懸けだな。多分あんたの所持品は応接間の保管庫にあると思うがあそこは警備が固いんだ」
うーん、とジルドは唸り熟考した後、何事か思いついたかの様に
「そうだ!警備の中に俺の知り合いがいる!そいつに頼んでみよう」
ジルドは自信満々に顔をキラキラさせている。大船に乗ったつもりでいろ、と胸を叩く。
何故か全然上手くいく気がしないが、今は選り好みしてる場合じゃないので、ジルドの策に乗ることにした。
「ちょっとここで待っててくれ!そいつに話してくる」
ジルドはそう言って、宿の方へ走り去った。
暫くしてジルドが息を切らして戻ってきた。
「話は通してきた。とりあえず了承してくれたぞ。俺とあんたで応接間に入り、そこであんたのネックレスとやらを探し出そう」
「俺達で応接間に入る!?一体どうやって!」
「それは任せな!こうやんだよ!」
そう言ってジルドは俺の両手首を縄で縛った。
「かなり緩めに縛っておいた。いつでも手が抜けるはずだ。あとはこれから話す通りに頼むぜ、相棒」
相棒認定された。
どうやら、怪しい男を捕まえた体で、応接間にいる兵長の所へ俺を連れて行くとのこと。その際、突然暴れ出す俺を捕らえるために、拘束具を保管庫から取り出すフリをして、ルシアを取り出す作戦らしい。顔に小さな穴の空いた布袋を被せられた。
ジルドに手首を抑えられ宿へ向かう。
宿の玄関先まで来たところで、ジルドが守衛に呼び止められた。
「ようジルド。なんだそいつは?捕まえたのか?」
「ああ。怪しいヤツがうろちょろしててな。調べあげたら武器を隠し持ってやがったから、縛り上げて連れてきたんだ!」
ジルドがスコップを片手に掲げ武器の存在を示す。
「んん?隠し持ってたってお前、そんなのデカいスコップどこに隠してたんだ?まあいい、お手柄だ。通っていいぞ」
アホなアピールのせいで冷や汗をかいたが、なんとか宿の中へ入ることが出来た。
「相棒、この先が応接間だ。後は作戦通り頼むぜ」
ジルドが小声で作戦を確認してくる。
「分かった。入ったらすぐ暴れりゃいいんだな」
「ああ。隊長は温厚だ。取り押さえようとはするが、絶対に剣を抜いたりしない。安心しな」
話してるうちに応接間の前まで来た。ジルドが3度ノックをする。
「入れ」
「失礼します!怪しいヤツを捕らえてきました!」
応接間に入ると中には3人の兵士がいた。
真ん中にいる中年男性が兵長らしく入室したジルドに確認する。
「どこで捕らえた。身元は?分かってるのか?」
作戦通りこのタイミングで暴れる。
「ここはどこだ!!離せ!うおおおお」
少しオーバー気味に暴れると、それを見た兵長がゆっくりと剣を抜いた。
「貴様、ここが何処か分かっていての狼藉か。この場で切り伏せてくれるわ」
兵長の顔を見るとめっちゃ青スジが立っている。
ジルドの嘘つき!空いた穴からジルドを睨みつけると目をそらしやがった。
「へ、兵長、なりません!この男、王国のスパイの可能性があります!生かしてやつらの情報を吐かせましょう!」
控えていたもう1人の兵士が懇願する。どうやらこいつが協力者の様だ。
「ほう。ならば尚のこと。こちらの行動を王国に知らせる訳にはいかん。万が一逃げられると厄介だ。今すぐここで殺そう」
ダメだ。こりゃもうここまでかと悟ったと同時に、2階から物凄い破壊音が聞こえてきた。
「何事だ!確認にいくぞ!ジルド、そいつをしっかり取り押さえてろ!」
「ハッ!」
2人共続け、と残り2人の兵士を連れて兵長は部屋を出ていった。協力者の男は、今のうちだとウインクしながら部屋を出る。
「ほらな?作戦通りだろ!?」
ジルドがドヤ顔でこっちを見てくる。
「どこがだよ!あやうく剣のサビになるところだったぞ!」
とりあえず文句を言ってる暇は無い。部屋の中でそれっぽい保管庫を探す。
「あれか!」
部屋の隅にある大きめな箱を見つける。
箱を開けようと蓋に手をかけるが鍵が付いており全く開かない。力ずくで箱を開けようとするがビクともしない。
「ジルド、鍵が必要みたいだ。探してくれ」
ジルドも辺りを探すが、鍵の様なものはどこにも見つからない。あいつらの誰かが持っている確率が高い。
困り果てていると、また2階から今度は悲鳴と怒号の様な声が聞こえてきた。
「きゃあああ!」
「言うこと聞けゴラァ!!!」
今の悲鳴はルルのだ。
「すまんジルド、その剣を貸してくれ!」
「は!?相棒!このまま戦う気か!無理に決まってるって!」
「いいから貸せ!それからジルド、頼みがある」
俺はジルドの目を真剣な眼差しで見る。
「俺が高村に勝てなくて死ぬことがあったら、あの子、捕らえられた女の子を逃がしてやってくれ。頼む。お前の親父の命の恩はこれでチャラだ。どうか頼む」
ジルドにそう伝えた後、奪った剣を手に中央階段から2階へ登る。もうどうなってもいい。ただ高村薫が許せない。
2階へたどり着くと、1つの部屋の前で兵士の人だかりが出来ていた。
「あそこか」
その人だかりへ突進する。突然の侵入者に兵士達は狼狽え
「な、なんだ貴様!」
「と、止まれ!武器を下ろせ!」
などと声を発しながら飛びかかってきたが、その間を滑り込むように抜け部屋の前へたどり着く。
すぐに部屋の扉を蹴破り、中へと入った。
中には、半裸になった高村と、左足から血を流し床に倒れたルルがいた。その様子を確認したと同時に俺の中で何かが弾けた。
「高村ぁああああ!!!」
高村に容赦なく切りかかる。上段から縦一直線に高村の脳天目がけて剣を振り下ろした。
「い、ひ、ひぃぃぃ!」
高村はかろうじて後ろに下がり、脳天直撃を逃れる。
「ルルっ!大丈夫か!!」
すぐにルルのところへ駆け寄る。左足は何かで切りつけられたのか、パックリと傷が開いていて見るからに痛そうだ。
「涼太くん!?無茶しないでって言ったのに。うん、私は大丈夫だよ」
ルルは痛みを堪えつつも無理に作り笑顔を浮かべる。
「ルルごめん。俺がしっかりしていなかったせいで。その怪我はどうして?」
「うん。動けないように足を切られただけ。でもかなり抵抗してたから、それ以外は何もされてないよ」
安心して、とルルがまた力弱い笑顔で答える。
何故、こんな優しい子が痛め付けられ無ければならないのか。
俺の中の怒りが再び頂点に達した。
「高村、お前は絶対に許さん。この場で俺がぶっ殺す」
「へぇ。おい、シヴァ!」
直撃を間逃れて冷静さを取り戻した高村 薫はシヴァと融合する。体が膨れ上がり、細い体が厚い胸板と丸太の様な腕に、髪の毛は長髪に変わり、手には三又の鉾を持つ。
「ふぅ、油断したぜ。誰かと思えば盗撮クソ野郎じゃねーか。こんな所に何しに来たんだ?俺と瑠々の行為を覗きにでも来たか?!あぁ?」
シヴァと融合し余裕を取り戻した高村は、ヘラヘラと笑って挑発を始める。
「クソ野郎はお前だろ高村。残念だったな、もうお前の好きにはさせねーよ」
「クソ生意気な。この姿を見ても大口叩ける根性だけは認めてやるぜ」
「お前に認められる筋合いはねーよ!」
そう言い放ってすぐに高村に切りかかる。ルシアから前にレクチャーを受けた通りに低い体制から瞬時に前へ一歩踏み出す。
「はっ、おせーよ!」
だが、所詮は人間の速さ。剣先を掴まれ、同時に刃をへし折られてしまった。
「残念だったな正義のヒーロー。お前じゃ俺に勝てねえよ。おい瑠々、てめぇは失格だ。盗撮野郎と一緒に消えろゴミ」
高村 薫の持つ三又鉾が、高エネルギーの光を纏う。そして刃先を俺とルルに向け
「あばよ、クソども。神の裁きをくらえ!マントラデーヴァ!」
俺もろとも、後ろのルルをめがけて高エネルギー波を放つ。
すかさず後ろのルルを守るべく覆い被さる。
その瞬間ルルと目が合った。
何やら俺に伝えている様だったがエネルギー波の轟音で聞こえない。ただこの命に変えても、この優しい子を守る。
その時だった。
「この時をずっと待っていたわ。ルル、私が貴方の力になるわ」
優しく、美しい声が部屋中に響いた。
気付くと俺とルルの周りを鮮やかな青色の結界が覆っており、高村の発した高エネルギー波が結界に衝突し消滅している。
再びルルの方を見るとルルの指輪が優しくぼんやりと光輝いている。
「私は四大精霊が1人ウンディーネ。真の愛で目覚める者。ディーナって呼んで頂戴ね」
「ウンディーネ!?解放出来たのか!」
突然のウンディーネ解放に、ルルは驚きを隠せずにいる。
「わ、私、どうして!?ただ蹲くまっていただけなのに!」
指輪のウンディーネはおどけた声で答える。
「あんなピュアな愛を見せつけられたら、そりゃ目覚めちゃうわよ。もう、あの時のルルったら可愛くて!」
ウフフと上品な笑い声が聞こえる。
「とりあえず私の可愛いルルの傷を治してあげなきゃね。癒せ、アクアヒール!」
ウンディーネがそう唱えると、ルルの足の傷の辺りに薄い水の膜が張られ、みるみる傷が塞がっていく。
「わ、傷治ってる!すごい、ありがとうウンディ、じゃないディーナ!」
ルルは傷のあった箇所をさすりながらディーナにお礼する。
「いいのよ。ルルもこの魔法は使えるから、今度そこの大好きなナイト君が傷ついた時にでも使ってあげてね」
ルルも回復系魔法を使えるのか!すごいじゃん!とルルに話しかけようと振り向いたら、何故かルルが顔を赤くしていた。
「おい、なんだそりゃ。瑠々も契約者ってことか。俺と瞳だけじゃなかったんだな」
どうやら高村は自分達だけが特別な力を手に入れたと思っていたらしい。だからあんなに驕ってたのか。
「まぁどうでもいいことだ。回復しか出来ねぇのに俺にどうやって勝つんだ?でもまぁ、瑠々のそれは今後使えそうだし、やっぱり生かしといてやるよ。今後は俺のために使え!昼も夜も俺を回復させろ!ぶっハハハハ!」
高村が元気ハツラツにまた調子に乗りだす。ここまでくると怒りを通り越して、可哀想なやつに見えてきた。
それを聞いたウンディーネは
「あらまぁ、絵に描いた様なゲスね。あとその笑い方なんなの?気持ち悪くて聞こえてくるだけで不快だわ。よくそんなので今まで生きてこれたわね。私なら恥ずかしくて人前に出られないわ。あとね、貴方ではルルちゃんに釣り合わないと思うの。何故かって?鏡見て出直してらっしゃいブタっ鼻さん」
めっちゃ高村を煽ってる。
「何だとこのクソ女が!指輪のくせにテキトーなこと言ってんじゃねぇ!」
こんな安い挑発に乗る高村も高村だ。手に持つ鉾で殴りかかりにくるが結界に守られ手出しが出来ずにいる。
とりあえず結界で守られてるとはいえ、この膠着状態を何とかしなきゃならない。何とかこの場を脱出する方法を模索する。
「ルル、ディーナ。攻撃魔法は使えるか?」
ディーナが答える。
「私は水の大精霊様よ。余裕だわ。ルル、右手に意識を集中して」
「私の右手?」
「そうよ。嫌かもだけどあの変態に手のひらを向けて。そして意識を集中しながら、アクアエクスキューションと唱えて」
「うん、やってみる!」
田中 瑠々は右手に全神経を集中させる。やっと、自分も契約精霊を解放出来たんだ。涼太に守られっぱなしなんて嫌だ。
これからは自分も、自分だって役に立ちたい!
その想いを込めて唱える。
「アクアエクスキューション!」
ルルの右手から槍のように研ぎ澄まされた水の波動が放出され、高村に直撃した。
「うぉ、っがぁぁあああ!!!」
波動命中の衝撃により、高村が後ろに吹き飛び壁に激突する。
「今だ!行くぞ!」
ルルの手を掴み、部屋の外へ出る。急ぎ階段を駆け下り、なんとか1階に辿り着く。エントランスが見えてきたところで、足元に高エネルギー波が放たれた。
なんとか命中は避けられたが、衝撃で2人共その場に膝をついてしまう。エネルギー波が放たれた方角を見ると、中央階段から般若の如く見下ろす高村 薫がいた。
「痛えなクソ女。もう許さねえぞ。お前ら2人ともミンチにしてやる」
ミンチにしてやるをリアルで言うヤツがいるんだな。
最初こそ恐怖だったが、あいつの相手も大分面倒くさくなってきたので、構わずルルの手をとり再び走り出す。
「逃がすわけねーだろうが!」
再度、三又鉾から高エネルギー波を出してきたが今度は軌道を確認し身をかわす。エネルギー波が前方の扉に当たり破壊され、外の広場への道が開けた。
「ルル!今だ走るぞ!」
ルルを半ば強引に引っ張り、何とか広場に出ることが出来た。
しかし、相当しつこい高村が後ろから追いかけてくる。
逃げようと前を向くといつの間にか外にいた兵士達に取り囲まれた。
「ここまでだな盗撮クソ野郎。もう逃げ場はねーぜ」
勝ち誇った高村と三度対峙する。いよいよこれは本当にやばい。契約精霊を解放したばかりのルルでは勝ち目は無い。
打開策を必死に捻り出そうとしていたその時
「相棒!待たせたな!!」
少し離れた所に立っているジルドが叫ぶ。
その横を見ると殴られて顔を腫らした兵長が、ジルドに襟首を掴まれ横たわっていた。そして、もう片方の手には俺のネックレス、ルシアが掲げられていた。
「ほらよ!今度は無くすんじゃねーぞ!」
高く、ルシアが放物線を描きながらこちらに飛んでくる。
それをナイスキャッチし、すかさず首にかけた。
「おかえり、ルシア。遅くなってごめんな」
「ただいまです、りよーた。来てくれると信じてました」
その様子を不思議そうに見る高村は
「何か知らねーがネックレス付けるとか余裕だなおい!今から死ぬやつにそんなオシャレなんて必要ねーよ!」
俺との距離を詰め三又鉾を振り下ろしてくる。それを後ろにかわし
「ルシア、融合だ」
「マスター仲立 涼太の戦闘意志を確認しました。これより融合及び第1形態に進化します」
周りの空間が歪み、ついに念願のルシアとの融合が成される。
白く輝く美しい2枚の羽、黒髪にまだらメッシュの金毛と黒と赤のオッドアイ、笑った口から八重歯見え隠れするその男は、まさに天使のような悪魔だった。
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