裏青春
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「平等に自由な世界こそが人の目指すべき理想だろ」
「助け合える優しさに満ちた世界こそ理想の姿なの」
「完璧な世界はつまらない。その過程こそが理想よ」
「美しく正しい世界。罪の無い世界こそ理想なんだ」
「自分こそが世界そのものなんだ。知らなかった?」
「ああ、お前らの言ってる事は全部正しい。だが、それを全部ぶっ壊すために俺がいるんだよ!」
これは人生悪役だった1人の男の子が、異世界で幾つもの思想や理不尽と戦う物語。
私の大切なその人が、世界の救世主になるまでの冒険譚。
高校三年生の10月 主人公 仲立涼太。
「涼太、おつかれ!今日も図書館に寄ってく?」
「うん行くよ。家に帰ったら寝ちゃいそうだし。ヒロも行くの?」
「ああ、俺も行くよ。今日は世界史の復習しようかな」
東京都千代田区にある国立図書館。
二人の通う高校から少し離れたエリアにあり、多様な専門書や資料が揃った都内有数の国立図書館。
静かな館内は受験生にとって集中しやすく、俺達が高3になってからは休みの日や放課後によく利用している。
放課後、友達のヒロと雑談しながら正面玄関へと向かう。
廊下を歩いていると、いつも通り周囲から悪意のある視線と個人に対する陰口が聞こえてくる。
「あの盗撮君、よく学校来れるよな。俺なら絶対無理」
「それ本当に思う。メンタル強すぎでしょ」
「なんでヒロくんあんな盗撮魔の相手してんの?」
「うわ、盗撮魔とかキモっ」
自意識過剰とかではなく、それが自分に向けられた陰口であると認識する。
これは俺にとってはありきたりの日常であり、普段通りの光景。
昨年までは他生徒から面と向かって直接馬鹿にされる事が多かった。
だが三年に進級してからは絡んでくる生徒は減った。
三年にもなると皆忙しいのか、俺に構っている暇なんか無いのだろう。
でもその反面、こういう陰口がかなり増えている気がする。
直接的に非難されるのはもちろん傷付くが、反論出来ない陰口のダメージ蓄積も意外と馬鹿に出来ない。
その陰口の主人公である俺の呼び名もレパートリーに富んでいる。「盗撮君」「盗撮魔」はもちろん、ストレートに「変態」、変化球だと「戦場カメラマン」「深淵を覗くバカ」など、数多くの呼び名を付けられ、生徒達のおもちゃにされている。
原因は高校2年の春、始業式の日に起きた事件がきっかけだ。
同じクラスの女子を、教室内で盗撮用カメラを使い隠し撮りした犯人だと全クラスメイトの前で吊し上げられた。
それ以降はキモい盗撮野郎としてのレッテルを貼られ、ほぼ全校生徒から蔑まれながら、惨めな高校生活を過ごしている。
これは遡ること約1年半前 。高校二年生進級の始業式の日。
うちの高校だが、入学時と二年進級時の計2回のクラス替えがある。
ひと学年全9クラスあるマンモス校であり、ヘタなクラスに配分されると「あれ、友達が1人もいない?」といった状況も有り得る。
春休み明けの始業日の早朝、友達のヒロこと松永比呂と、慎也こと梨田慎也と共に、玄関前の掲示板に貼り出された新しいクラス名簿を確認していた。
まだ俺が普通の高校生としての生活を送れている時期だ。
「おっ!俺2-Dだ!」
最初に慎也が自分の新クラスを見つける。
「まじ!?おれも2-D!涼太は?」
次にヒロが見つけ、続けて俺のクラスを確認する。
生徒名:仲立涼太 2-A
「うわ、俺は2-A。俺だけ違うクラスかよ!」
「あら残念。Aクラスって誰か知ってる人いんの?」
クラスメイト事情を確認すべく再び名簿を見る。
「んー、これは!?誰も仲の良い人がいない・・・」
「どれどれ。本当だ、こりゃハードだな」
俺の肩に寄りかかるヒロはクラス名簿を眺めケラケラ笑う。
「あ、でもAクラスに瑠々ちゃんいるじゃん。あと桐谷透華も!いいな〜」
慎也が学年でも特に人気の高い女子の名を挙げる。
その後クラス名簿を確認した結果、同じAクラスで知っている名は
・鳴海英志
顔、身長共に申し分ない学年1のモテ男。サッカー部期待のエースで運動神経、学力共にトップクラスのハイスペック男子。
・田中瑠々
1年の時も同じクラスで、よく席が隣になっていたショートカットが似合う愛嬌のある女子。
分け隔てなく誰とでも気さくに話す裏表のない性格で男女共に人気が高い。
・長谷部光太郎
1年の時、同じクラスの女子へのストーカー行為が発覚し停学。それ以来変態、キモイのレッテルを貼られている、ある意味可哀想な生徒。
・小日向楓
同学年に双子の妹を持つバレー部期待のエース。既にプロからのスカウトも来ているとの噂。責任感が強く、クラスのまとめ役の1人。
・桐谷透華
唯一同じ中学出身で1年生の時も同じクラス。
普段から挨拶程度に話す仲で、どこか透明感のある少女。
優しい笑顔が印象的で、男子の人気ランキングトップクラス。
他にも、1年生の時に暴力事件を起こした高村薫、生徒会役員の真田優希、地雷系少女の佐倉恵那など、話した事は殆ど無いが見知った生徒の名も確認出来た。
そんな俺の隣で、慎也もクラス名簿から誰かの名を必死に探している。
「えっと、本物の有名人は・・・。あぁ、2-Bか~」
慎也が指差した先には、校内随一の有名人。校内1の美少女と名高い現役アイドル。
・小泉綾瀬
親の都合で15歳までドイツで生活。高校入学のタイミングで帰国し、1年生の時に原宿で芸能事務所からスカウトを受けたとか。某アイドルグループの1人。
「いや慎也には全く関係ないから。クラス同じでも相手にされないって」
イジって笑っているヒロに対して慎也は
「分かってないなヒロ、目の保養だよ。あと彼女が近くにいるだけで、普段から男としていい所を見せようと頑張っちゃうだろ?結果的にそれが努力の積み重ねとして~」
自慢のメガネを持ち上げながら何やら語り出したので、それを聞き流しながらも二年棟へ向かう。
「じゃあ、俺2-Aだから」
「おう、頑張れよ涼太!初日が大事だからな、第一印象だぞ!」
ヒロと慎也は、健闘を祈るように親指を立て去って行く。
2-Aの教室に到着し、まずは教壇に置いてある座席表で自分の席を探した。窓際に自分の席を見つけ、カバンを机の横に掛ける。
自席に着きクラス内を見渡してみると、改めて話せる知り合いが全然いないことを思い知る。
「はぁ、また最初から友達作りかぁ」
1人で居る事は別に嫌ではないのだが、クラス内ぼっちは避けたいので、誰か話かけられそうな生徒を探す。
だが、やはり全然見当たらない。
これは思った以上にハードかも!?
1人自席で固唾を飲んでいると、隣の机にカバンが置かれた。見上げると同じ中学出身の桐谷 透華だった。
「あ、涼太君おはよ。また同じクラスだね」
「おはよう桐谷。また1年よろしくな」
同じ中学の流れで、桐谷は唯一俺の事を名前で呼ぶ女子だ。
微笑んだその笑顔は、透明感がありどこか儚げ。
しかし、その整った美貌のせいか、それが神秘的にさえ見えてくる。周りの男共が騒いでる理由がなんとなく分かる気がした。
桐谷との挨拶を済ませ再び辺りを見回すと、他のクラスメイト達も続々と登校し自席に着き始めていた。
隣の桐谷を挟んだ反対側には、学年No.1イケメンの鳴海英志が。俺の斜め前にはバレー部エースの小日向楓がいた。
桐谷同様に男子から強い人気を誇る田中瑠々は、少し離れた席で周りの生徒と談笑している。
持ち前の愛嬌とコミュ力で、既に新しい人間関係を築いているのだろう。
対して、周りと溶け込めずにクラス内をボーっと眺めていると、隣から桐谷とイケメン鳴海の会話が聞こえてきた。
「桐谷さん、よろしくな。クラスメイトだし、これからは俺の事エイジって呼んでいいよ」
「あ、え、うん。よろしくね、エイジ君」
「フッ、了解。じゃあ改めてよろしく、透華」
まるでニコッと音が聞こえてきそうな程ハニカむ鳴海。
さすがは学年1のイケメンなだけあって、あれは普段からハニかむ練習でもしてるんだろうか。しかも最後サラッと名前呼びしてるところがエロい。
フッ、了解。とか俺には絶対に出来ない芸当だ。
桐谷も突然の名前呼びで照れているのか、俯き加減に返答している。
やはり美男美女は絵になるな。俺には入り込む隙間は無さそうでちょっと虚しくなる。
別に人見知りって訳ではない。
当たり障りのない関係を築くのはむしろ得意だと思う。
だが、自分から一歩踏み込んで、更に親睦を深める事が得意ではない。
拒絶されるのが怖いとかじゃなく、正直面倒くさいを優先してしまう。そういうのは得意な人がやればいいとさえ思っている。
しかし、今後2年間ぼっち生活を回避する為にはそうも言ってられない。ひとまずHRまでの間、鳴海に負けじと隣の桐谷相手に会話を試みる。
「そう言えば桐谷さ、少し背伸びた? 1年生の時はもっと小さかった印象だったけど」
気付いてもらったのが嬉しかったのか桐谷は
「そうなの。冬休みくらいから春休みにかけて5cmも伸びたんだよ~」
嬉しさ丸出しの満面の笑みで応えてくる。
見た感じ身長160cmくらいだろうか。すらっと細い手を頭の上に乗せてアピールしている。
「このまま涼太くんにも勝っちゃうかも、フフ」
フフっと笑うその姿に一瞬見蕩れてしまい、上手く返すはずの返答が遅れる。
「そ、それは勘弁して」
悟られ無いように慌てて返すのに精一杯で、残念ながらそれ以降の会話に華が咲く事はなかった。
暫くして新担任が登場。HRが始まり、そのまま一限目の授業に入った。
この後、俺は最低最悪な盗撮魔として学校中に名を馳せる事となる。
その事を何も知らない俺は、隣の桐谷をチラチラ横目で見つつも、その綺麗な横顔に心なしか浮かれてしまっていた。