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それじゃあ転生した意味はねえってわけか

俺が転生した異世界というのは、前述した通りよくある中世ヨーロッパ風のところのようだ。


別に神様が現れたらとかすることはなかった。赤ん坊に生まれ変わったわけでもなかった。ただ、明らかに別人、そして別世界に来たということだけが分かる。


現実では俺は純日本人の中肉中背、どこにでもいるモブキャラみたいな見た目のピチピチ三十手前のニートだったが、今の俺は、金髪の少し筋肉質の男になっている。さっき池に映る自分を見て確認した。転生した場所の側に波風の立たない透き通った池があったのは、もしかしたら、俺に見た目を確認させるためだったのかもしれない。


いや、考えすぎか。この手の話は大体転生を行なった神様がいたりするから、作為的な何かが行われているような気がしたのだが……。


俺はとりあえず家から離れて、辺りをもう一度よく確認してみることにした。うーん。どうやら、ここはヨーロッパ風の景色だが、ずいぶんと田舎のようだ。俺の周りは見渡す限り麦畑が広がっており、全くと言って良いほど人工物がない。家くらいは用意してくれ。もし神様がいるなら。このままじゃ俺野垂れ死ぬぞ。生活力なくて親の脛飾ってたんだから。


とりあえず畑があるってことは人里があるってことだ。これRPGの基本。辺境の地だろうな。見たところ。多分ここから村に行くと勇者だななんだの担ぎ上げられて、世界を救う羽目になるんだろうな。わざわざ俺が転生させられたってことは。


ふん、その手には乗るか!俺は別に行きたくて自殺したわけじゃない。死にたくて自殺したわけだ。一応周囲の確認はしてやったが、もう十分だろう。異世界転生っていうものが実在したということが分かっただけで万々歳。さて、このまま麦畑に突っ込んで横になるとするかー。


と、その時だった。俺はなぜか人の気配を感じた。思わず振り返る。


後ろを向くと、やはり麦畑と舗装されてない道が続いていたが、その道の真ん中に人が立っていた。真ん中に人。さきほど周囲を見渡した時は誰もいなかったのに。いつのまに現れたのだろうか? もしかして、ようやく神様のおでましか?


と思うと、その人物は俺の方めがけて走り出した。徐々にその姿が分かるようになると、その人物が女であり、旅人風の服装とは少し異なる、服装、そう、まるで貴族のような、そんな華やかな服に身を包んでいる。袖やら裾やら何やらにひらひらしたものがいっぱい。色は白。髪は金。まあ清楚だこと。


「ちょ! あなた!」


あなた呼びとはずいぶん高貴なことなんだろう。まさかこの人が俺をこの世界に……? くそ、となるとやはり俺は勇者か何かとして呼び出されたってわけか。


こうしちゃおれん! 捕まってたまるか! 俺は死にたくてここへ来たんだ! 生かされるのはまっぴらごめんだ!


「うおおおおおおおお!」


俺は久々に大声を上げながら、正体不明の彼女と正反対の方向に全力疾走をきめた。元の世界では筋肉ゼロ持久力マイナスの俺だったが、さすがは異世界。身体が軽い軽い。すげえ速度で走れるし、声も良く出る。なかなかの美声でもある。


「ちょ! お待ちを! あなた! お待ちを! 待って! 待っ……待っ……待ちなさい!」


後ろでキャンキャンわめく声。なんだ。そこまで言うなら。そう思って足を止めると、彼女は道の真ん中で派手にずっこけて泥に顔をうずめているところだった。


「ゆ、許さない、あな、あなたのせいで、あなたのせいで私の、大事な!」


結構距離があるが、声がデカくてよく聞こえる。


「あなた、自分が何のためにここにいるのか、分かってるんでしょう……ね?」


彼女は立ち上がりながらそう言った。俺は少し彼女に近づいた。さすがに俺が全力で走りすぎて、彼女が遠かったから。


近づくと、まあ美人な女だった。長い金髪に透き通るような白い肌に青い目というテンプレ。少しから長なまぶたが気の強さ、まじめさのようなものを表している気がする。


「な、なに、私の顔をまじまじと……」


「あ、いや、別に大したことじゃない」


俺は口をつぐんだ。美人だな、とでも言おうかと思ったがあいにくそういうキャラじゃない。アニメならここで彼女を褒めることによって好感度アップ!なんてことがあり得るんだろうが……。


「ふん! まあ良いわ。で、さっき言ったあなたの使命についてだけど……」


「世界を救う感じか?」


「世界? 世界は至って平和だけど。何言ってるの」


「そうか。じゃあ何なんだ?」


「……いまいち掴みどころのない人ね。飄々としているか、何というか……」


「ん? 何だ? 早く使命とやらを聞かせてくれ」


俺はRPGをやる時、会話を早く読もうとするタイプなんだ。


「そ、そう言われても、こっちも結構緊張するのよ。使命を言わなくちゃいけないの。すっごく酷なことだから。でも、そういう決まりなの。許して」


彼女は口を一度閉じて、コミカルな雰囲気を打ち消すように険しい顔をした。そして、何度もためらいながら、ようやく口を開いた。


「死んでほしいの」


「……」


そう来るとは思わなかったな


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