点の取り合い
これまでの試合展開とは打って変わって、点の取り合いになりそうだった。
初回、ヒットと四球が絡んでランナーが溜まったところで、5番木下の2点タイムリーツーベースヒットで先制した。
その裏、先発の山路が三崎打線に掴まり、2点を返されて試合は振り出しに戻っていた。続く2回表もチャンスを作り、俺に打席が回ってきた。
2回表 ツーアウト 1、2塁
マウンドの相手投手は背番号が10番なので、おそらくは2番手なのだろう。それにしては立ち上がりから制球が安定していない。俺たちとしては、今のうちにもっと点をとっておきたいのだった。
先ほどの打席は四球だったので、大体の球種は打席で確認することが出来た。右投げで球速は130Km/h代中盤ぐらい、持ち球はスライダー、カーブ、チェンジアップというところだった。
ここまで変化球が高めに浮くことが多い。バッテリーもそこを狙い打たれていることは気づいているはずだ。なら、ここは……。
『狙いの球種→ストレート
打ち方 →フルスイング
打球方向 →引っ張り
成功確率 →39%』
ストレートが1番計算できる球種と考えているはずだ。なら、そこを狙い打ちして、投げられる球種をなくしてしまおうと考えたのだった。
マウンド上の投手はキャッチャーとのサイン交換を終え、投球動作に入った。それ合わせてタイミングを取り始め、向かってくるボールに意識を集中した。
「ボール」
球種は狙い通りストレート。しかし、アウトコースギリギリのところに投げ込まれたので、ここは手を出さずに見逃した。
続く2球目は高めに浮いたカーブでボール。3球目はスライダーがなんとかストライクゾーンに決まったのだった。
カウントはツーボール、ワンストライク。カウント的にも、次はストライクゾーンで勝負してくるはずだ。俺はここが勝負所だと感じ、より集中して打席に立った。
そして、マウンド上の投手から4球目が投げられる。投げられたボールはインコースに向って真っ直ぐに進んでくる。しかし、投げきれなかったのか、コースは甘かった。俺はボール目掛けてバットを振り切った。
『カキーーン!!』
快音を残し、勢いよく飛んでいく。打球は左中間を突き破り、フェンスまで到達した。追いついたレフトが中継のショートに急いで返球する。内野に返ってくるころには、俺はすでにセカンドベースに達していたのだった。
「しゃぁああ!!」
二人がホームに帰り、これで4─2と再びリードすることが出来た。俺の一打にベンチの仲間たちも盛り上がっていた。
『【先導する者】の効果により、チームメイトの能力が試合中8%上昇します』
その後4番の岩井は四球で出塁し、続く5番の木下、6番の飯野は打ち取られ、結局この回の得点は2点止まりだった。
その後相手投手は立ち直り、コントロールが安定しだした。3回からはチャンスは作るものの得点まで結びつけることは出来ず、攻めあぐねる状態が続いた。
『カキーン!』
「よっしゃ!回れ回れ!」
対してこちらの投手陣は踏ん張りきれずにいた。2回は先発の山路がなんとか無失点に抑え、3回からは2年の時任に継投した。時任は3回に2点、4回に1点をとられ、逆転を許したのだった。
5回からは真島がマウンドに上がり、そこからはスコアボードに0が続いた。お互いチャンスは作るものの、あと一本が出ない。そんな展開が続いたのだった。
8回表 ワンアウト ランナー3塁
現在スコアは4─5で1点リードを許している。この回先頭の星形がヒットで出塁。2番の月岡のところで2塁に盗塁し、セカンドゴロの間に3塁へ進塁していた。
最低でもこの回に追いついておきたい。もしここで追いつけないと、次の最終回に下位打線で得点をあげなければならなくなる。ここまでの展開的に、それはどうしても避けたかった。
この打席俺はストレートに狙いを絞り、センター返しを狙うことにした。他のバッターの打席を見ると、試合中盤から変化球の精度があがり、打ち損じる場面が増えていたからだった。
「ボール」
ストレートがストライクゾーンに決まることはなく、結局四球で出塁となった。これまでの変化球の精度は見る影もなく、明らかに外れたボールばかりだった。マウンドの投手はこの回から明らかに疲れが見え始め、制球がまた安定しなくなっているようだった。
『カキーン!』
続く岩井が高めに浮いたカーブをきっちりとレフトへ運び、犠牲フライでなんとか同点に追いつくことが出来た。そして、続く5番木下に四球、6番飯野には死球を与え、ツーアウト満塁のチャンスを迎えたのだった。
「三崎高校、選手の交代をお知らせします。ピッチャー田中くんに変わりまして、石川くんが入ります。9番ピッチャー石川くん。背番号1。以上のように変わります」
「……とうとうエースのお出ましか」
同点に追いつかれ、これ以上の失点を防ぎたい場面で、相手は温存していたエースをマウンドに送ったのだった。左のオーバースローで、変化球のキレも悪くない。明や箕山の滝本に比べれば見劣りするが、十分に良い投手なのは間違いなかった。
「直正!ここで一本打ってこい!」
「さっきのバッティングをもう一回見せてくれ!」
ベンチから声援が飛び、直正がバッターボックスに向かう。直正はこの試合ここまで2安打と、好調をキープしていた。エースが出てきた以上、ここからは簡単に点がとれるとは考えにくい。このチャンスはなんとか一本打っておきたい場面なのだった。
投球練習を終え、捕手とのサイン交換を済ませた。そして、マウンドの投手はセットポジションから第一球を投げた。
「あ!」
その初球、マウンドの投手が投げたボールは、キャッチャーの構えたところを大きく外れ、直正の身体に直撃したのだった。
直正は痛がりはしたものの、自分の足でファーストベースまで移動していった。予想もしない形で、俺たちは追加点を取ることができたのだった。
続く8番の平野はセカンドゴロに打ち取られ、それ以上得点を取ることは出来なかった。しかし、この回エースの登板というイレギュラーがありつつも、なんとか逆転に成功することは出来たのだった。
あとは真島が2イニングを抑えることが出来れば、明を試合終了まで温存することが出来る。そんなことを考えながら守備位置に向かう俺は、まだ気づいていなかった。
スタミナが限界の投手がもう一人いることに………。
次回、どうなる真島!?




