投手戦 決着
9回表 ツーアウト ランナー2塁
『カキーン!』
「しゃあ!」
俺は手応えを感じながら急いで一塁へ走りだした。アウトコースのストレートを捉え、打球は低い弾道でライトに飛んでいく。
「アウト」
「くっ!」
打球は勢いが良すぎてライトの守っているところまで飛んでしまった。結果はライトライナー。あと少しずれていれば………と悔やまれる一本だった。
『【先導する者】の効果により、チームメイトの能力が試合中2%低下します』
俺はこのあとまた打席が回ってくることを信じて、守備につくのだった。
9回裏 ツーアウト ランナー1、2塁
ツーアウトまで追い込んだものの、ヒットとフォアボールでサヨナラのピンチを迎えていた。
「明!思い切っていけ!」
俺の言葉に明はこちらを見ずに小さく頷く。打席には4番バッターを迎えた。明はセットポジションから素早くボールを投じた。
「カキーン!」
「ライト!!」
打球は高く上がり、ライトに勢いよく飛んでいく。ライトは後方へさがりながら打球を追う。
「アウト!」
一瞬ヒヤッとはしたが、ライトの飯野がなんとか落下点に入り、捕球することが出来た。超えていればサヨナラ負けだった。
結局9回では決着がつかず、俺は公式戦初の延長戦に突入するのだった。
10回は表、裏とも三者凡退で終えた。そして、11回表は7番の水谷の打席から始まっていく。
11回表 ノーアウト ランナーなし
「鳴神高校、選手の交代をお知らせします。7番水谷くんに変わりまして、代打直正くん。バッターは直正くん、背番号12」
ここで山田監督は勝負に出た。ここまでノーヒットの先頭の水谷に代打を送ったのだ。扇の要である正捕手を変えることはこの裏からの守備に影響が出るかもしれない。それを恐れず、攻めの一手に出たのだった。
「カキーン」
「おおっ!」
代打の直正が打った打球にベンチが湧く。初球を積極的に打ちにいき、打球はレフト前に抜けていったのだ。ノーアウトでランナーを出すことが出来た。
続く8番平野は打席に入り、バントの構えを見せる。
「カコン」
「アウト」
初球をきっちり一塁方向に転がした。ピッチャーが落ち着いて処理し、ファーストに送球した。平野はもともと2番を打っていたこともあって、ここは一発で難なく決めたのだった。
ワンアウト ランナー2塁
「鳴神高校、選手の交代をお知らせします。9番石井くんに変わりまして、代打大林くん。バッターは大林くん、背番号15」
一打勝ち越しのチャンスに、山田監督はエースの明に代打を送る決断をした。明もこの試合ノーヒット。対して代打の2年の大林はこれまでの試合でヒットを打っている。明よりは打てる可能性はたしかに高かった。
「大林!落ち着いていけよ!」
「いつも通りな!」
「ここ一本!頼んだぞ!」
ベンチから選手たちが声援を送る。打席に立つ選手だけじゃなく、ベンチの選手も一丸となって戦っている。それぞれが声で仲間の背中を押すのだった。
「ガゴッ」
「アウト」
「ドンマイドンマイ!でも、ランナー進めたぞ!」
「次だ!次こそ頼むぞ!」
ベンチからは労いの声が出る。結果は残念ながらセカンドゴロ。追い込まれる前に積極的にスライダーを打ちにいくも、捉えきれず討ち取られたのだった。しかし、ランナーを三塁に進めることが出来た。これでワンヒットで得点が入る。
「ボール!」
「よーし!!連続フォアボール!繋いだぞ!!」
「キャプテン、ここ一本!」
「いつも通りいきましょ!」
続く1番星形、2番月岡は追い込まれてからも粘り、四球をもぎ取っていた。そして、このチャンスの場面で俺に打席が回ってきた。
ツーアウト ランナー満塁
ここで一本出れば、勝ちが大きく近づく。明がこの裏マウンドに上がらない以上、逆にここで得点出来なければかなり危ういだろう。
後ろに逸らせば1点入るこの状況でフォークはほぼないだろう。そしてストレートに関しては四球で出塁した星形や月岡が粘れたように、マウンドの滝本の球威がかなり落ちていることが見ていて明らかだった。
スライダーやカーブでタイミングを外して打ち損じさせたいのがバッテリーの本音だろう。………なら俺はあえてそこを狙うことにした。
『狙いの球種→カーブ
打ち方 →ミート中心
打球方向 →レフト方向
成功確率 →42%』
狙いはカーブ。しっかり引き付けて、三遊間を抜くイメージだった。二塁ランナーの星形の足なら、間違いなくホームまで返ってきてくれるだろう。
俺はマウンドに立つ滝本の動きに集中する。サイン交換を終え、第一球を投げてきた。
「ボール」
「ふぅ………」
初球はアウトコースにストレート。やはり初回に比べれば球威はかなり落ちてるようだった。ボールのコース的に、手を出して打ち損じてくれればラッキー、というところだろうか。
俺は打席を一度外して、素振りをした。今のストレートのイメージが残った状態でカーブを打ちにいくと、我慢出来ず体が突っ込んでしまうかもしれない。俺はこれまでの打席で見たカーブの軌道を思い出していた。
打席に入り直して、滝本に集中する。滝本はセットポジションから二球目を投げてきた。
『来た!』
投げた瞬間一度フワッと浮かぶ独特の軌道で、俺のところに向かってくる。俺はしっかりと引き付けて、バットを振り抜いた。
『カキーーン!!』
疲れからかいつもより高く浮いたカーブを、俺はバットの芯でしっかり捉えていた。打球はショートの頭上を超え、左中間を突き破っていった。
「しゃぁああ!!」
セカンドベースを回って三塁を狙おうとするが、返球が返ってきたので慌ててセカンドベースに戻った。3点タイムリーツーベスヒット。俺はベンチに向ってガッツポーズを見せた!ベンチのみんなも、喜びを爆発させていた。
『【先導する者】の効果により、チームメイトの能力が試合中6%上昇します』
「箕山高校、選手の交代をお知らせします………」
次の4番岩井のところで、滝本はマウンドを降りた。マウンドには今まで見たとない投手が上がった。
マウンドに上がった2番手投手は夏初登板ということもあって制球が定まらず、岩井には四球を許してしまう。
その後の5番木下をショートライナーに抑え、箕山はなんとかこの回の守備を終えたのだった。
この終盤で3点はかなり大きい。試合はほぼ決まったも同然だった。
「ゲーム」
「「ありがとうございました!」」
結果は3─0で勝利となった。11回裏、マウンドに上がった真島がツーアウト1、2塁のピンチを作ったものの、なんとか0に抑えたのだった。
夏のリベンジを無事に果たし、初の3回戦突破、ベスト32に入ることが出来た。
しかし、この勝利の代償は高くついたのだった………。
夏の戦いはまだ途中……。次の相手は?




