表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/58

ミーティング

「そうか……昨日そんなことがあったのか」


 翌日、自分たちの試合がなく、招待した2校が試合をしている時間を使って山田監督のところを訪れていた。


 俺は昨日の真島たちの出来事について説明をし、ミーティングをする時間をとってほしいことを伝えた。


「それは別に構わない。今日も試合が終わったあとは、昨日と同じ流れの予定だったからな。でも、3年生はそれでいいのか?俺は1年だけでもいいと思うが………」


 山田監督は夏を目前に控えた俺たち3年生の練習時間が減ることを心配していた。俺の説明を聞く限りだと、1年だけの問題に思えなくもない。


「確かに全員はいなくてもいいかもしれませんね………。では、1年全員とキャプテンの俺、副キャプテンの明と木下でどうですか?」


「まぁ、その辺りが妥当だろうな。ちなみに、そのミーティングで1年の問題はなんとかなりそうなのか?」


「それは………分かりません」


 正直どうなるかは分からなかった。1年生たちの真島に対する悪いイメージはかなりのものだったし、不安な気持ちも分からなくもない。だが、真島だけが悪いと断ずるべきではないような気もしていた。


「まぁすぐに解決とはいかないだろうな。だが、とりあえず今は夏に響かないようにしないといけないな。真島を含めた1年に関しては、これから俺と二宮コーチが丁寧に見ていくしかないだろう」


 結局この場では、試合後にミーティングをしてみて、その結果をもとに今後どうしていくか見極めようという話になった。

 





 無事練習試合は終わり、相手校が帰っていった。俺たちはその間に練習の準備や試合の後片付けを分担して行っていた。


 昨日と同じように練習を始めようとしたタイミングで、俺たちは山田監督のもとに集められた。


「これから昨日と同じように、バッテリー陣、野手陣に別れて練習をする。だが、キャプテン、副キャプテン、1年は部室に行くように。昨日の件についてミーティングを行う。それ以外の選手はすぐ練習を始めるように。では、移動開始。」


「じゃあ1年と明、木下は俺に付いてきてくれ」


 俺は1年たちを先導して部室へと向かった。


 部室は壁一面が個人ロッカーのようになっていて、一人ひとり荷物を置くことが出来るようになっている。部屋の真ん中は十分なスペースがあるので、昼食などはみんなここに座って食べることが多かった。


 俺は腰を据えて話をしようと思っていたので、この場所を選んだのだった。全員が座ったところで俺が話を始めた。


「早速だけど、昨日の話を知らない人もいるから俺の口から説明させてもらう」


 俺はなぜこのメンバーが集められたのか、その理由を説明した。俺の説明を聞いて、木下はかなり渋い顔をしていた。


「俺一人だと考えが偏ってしまうかもしれない。だから副キャプテンの二人にも来てもらった。練習があるのに悪いな」


「まぁそういうことなら仕方ないよ」


「………そうだな。早く始めよう」


 明はすんなり受け入れたようだが、木下はかなり不満そうだった。この時期にそんな理由で練習時間を減らすなよ、と言いたげな様子だった。


「じゃあ、まず真島について思っていることがあるなら今ここで言ってくれ。この場で言わないのに、後でグチグチいうのはなしだ」


 この場で一応の解決までいきたい俺は、1年たちに釘をさした。何度も時間をとられることだけはなんとしても避けたかった。


「じゃあ言わせてもらいます。俺は………」


 昨日真島に詰め寄っていた6人が順番に話していく。言い方は違えど、内容はだいたい3つのことについてだった。


・真島の周りへの態度、口の悪さ

・打たれているのに試合にたくさん使われていることへの不満

・今後エースになったときに、周りへの態度が悪くなることへの不安


 俺は6人の話を聞いて、どうしたものかと考えていると月岡が話し始めた。


「えーっと、俺の意見を言わせてもらうと、みんな考え過ぎだと思うんだけど………。確かに真島にも悪い部分は多いけど、部から追い出すとかっていうのは、さすがに酷いんじゃないかな?」


「それは月岡がよく試合に出てて、真島から特に突っかかってこられてないから言えるんだ!自分には関係ないと思ってるんだろ!?」


「いや、別にそんなこと言ってるわけじゃ………」


 月岡の意見に、萩野が反発した。萩野は蛇沼から直接話を聞いていたし、1年の中でもかなり真島に対して嫌悪感が強いようだった。


「萩野落ち着け。まずは全員の考えを聞いてからだ。じゃあ次は直正の番だ」


 俺はヒートアップした萩野に制し、まだ意見を言っていない直正に話を振った。


「練習したいんで、もう抜けていいですか?」


「え?」


 俺は予想もしない言葉に、つい気の抜けた声を出してしまった。直正は今の状況が分からないやつではないと思うんだが……。


「いや、ですから、練習に行きたいんですが………」


「直正!お前ふざけてんのかよ!俺たちの代に関わる大事な問題なんだぞ!」


 直正の態度に萩野は声を荒げる。それに対し直正は冷たい視線を送り、話しだした。


「さっきから聞いてれば、何が問題なのかさっぱり解りません。まず、真島が他の部員に対して当たりが強いのは俺も何度か見てますけど、真島が言ってることは至極真っ当なことばかりです。まぁ、石井先輩に対しては例外ですけど」


 その意見は俺もこのあと言おうと思っていたことだった。真島が厳しいことを言うのは、練習中に手を抜いていたり、真剣味が足りなかったりする人に対してなのだ。


 真島の言い方がきついのと、明に対する理不尽な言動をみんなが聞いていたのもあって、周囲からは真島が理不尽に突っかかっているように見えたのだ。毎回トラブルの仲介に入り、理由を聞いていた俺や木下はその事実を知っていたのだった。


「それに試合に出ていることについて文句言ってましたけど、そんなのただの嫉妬じゃないですか」


「な、なんだと!?」


「だって、そうだろ?最近は確かに失点することは多くなったけど、春先は結果を残していた。それに、言っちゃ悪いけど他にろくな投手がいない。現時点で真島が2番手なのは紛れもない事実だ」


 直正がそんなふうに真島を評価しているとは思わなかった。真島が入部していなければ、明が引退後は2年の時任がエースになっているはずだった。しかし、明や真島に比べると、かなり見劣りしてしまうのは事実だった。


「それにこのチームは実力主義だ。この先真島が結果を残さないようなら、自然と出場機会も変わってくるだろう。それに、試合に誰が出るかは山田監督が決めることであって、俺たち選手が考える内容じゃないんだよ」


「ぐっ……確かにそうだけだ……」


 萩野は直正の言葉に何も言い返せないようだった。直正は俺の方を見て、『もう練習に行ってもいいですか?』という顔をしてきた。俺が声をかけようとすると、他の1年が話しだした。


「で、でも、現状は3年生が引退したら真島がエースになるんだろ?そしたら、我が物顔で好き勝手やるんだぞ?それでも別にいいのかよ?」


「そんな選手を監督やコーチ、次のキャプテンが放置するなら問題だろうな。そうなったら、そのときにまた真島のことについて話し合えばいいだろ?まぁ、俺にはあの人たちがそんな好き勝手を許すとは到底思えないけどな」


「うっ……それは………でも………」


 直正の反論に返す言葉がないようだった。そこに俺が追い打ちをかけた。


「ちなみに山田監督はこの件を聞いて、お前たちのことをかなり心配していた。俺たちが引退したあとは二宮コーチと共に、丁寧に見ていくって言ってくれてたぞ」


 俺は山田監督が話していた言葉を伝えた。1年たちは誰も反論することは出来なくなっていた。


「それに直正、あと少しだからもうちょっとだけ我慢しろ。じゃあ、最後に真島。お前の意見を言ってくれ」


「俺の言動が良くなかったことは謝ります。すいませんでした。今後は、気をつけたいと思います」


 俺に促され、話しだした真島は素直に自分の落ち度を認めていた。ここまで騒ぎが大きくなって、さすがにまずいと感じたのだろう。


「これで1年は全員意見を言ったな。木下、明はここまで聞いてどうだ?何かあるか?」


「直正が言ったことがすべてだろ。真島も自分の言動を改めるって言ってるし、もういいんじゃねぇか?」


「1年が不安に感じているなら、同じポジションだし引退するまでは真島の様子は俺が見ておくよ。何か問題があるようなら山田監督や二宮コーチに伝えるようにしよう。それでどうだ?」


 木下と明の言葉に、1年は沈黙してしまった。何を言ってもこの場は自分たちの要求が通らないと分かってしまっているようだった。


「俺は石井先輩が見てくれるなら問題ないと思います」


「俺もバッテリーを組むことが多いから、よく見ておきますよ。問題ないと思います」


 月岡と直正は問題ないと主張してくれた。俺はまだ黙っている1年に声をかけた。


「今回、君たちがこうして声をあげてくれたおかげで、真島は自分の言動を省みることができたし、俺たち上級生や監督、コーチも君たちの思いに気付くことができた。これからまた何か悩むことがあれば、その都度相談してほしい。そして、ミーティングが終わったあと、俺からは真島との関係をすぐにどうこうしろとは言わない。今後の彼の言動やプレーを見て、どう接していくかは各自で判断してほしい。今回はそれでどうかな?」


「………分かりました」


「大丈夫です」


「先輩方がそう言ってくれるなら………」


 1年たちは俺の言葉を受け、各々言葉を口にした。まだ、完全に胸のもやもやが消えたわけではないが、とりあえずは納得してくれたようだ。


「真島もこれでいいか?」


「はい。いろいろとすいませんでした」


「よし、じゃあこの件はこれで終わり。まだ日も暮れてないし、すぐに練習に戻ろう」


 どうなることかと思われたミーティングだったが、一応の解決はしたのだった。俺は無事に終わって、ホッと胸を撫で下ろした。






 だが、この問題はそんな簡単には終わらなかったのであった………。

ここまでが上手く行き過ぎていたのか、これが普通なのか………。人間関係って、難しい、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ