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不満爆発

「ゲーム」


「「ありがとうございました」」


 2試合目、東東京地区の竹原(たけばら)高校との試合は4対2で勝利した。先発の明が9回を投げきり、2失点と好投した。


 打線も初回、5回、8回と、こまめに得点をあげた。特に初回2点をとったことで、明は余裕をもって投げられたようだった。


「いやー、本日はありがとうございました。またぜひよろしくお願いします」


「いやいや、こちらこそよろしくお願いしますよ。鳴神高校さんの石井くん、あれは別格ですね。この夏もいいとこまで行くんじゃないですか?」


「そういってもらえると励みになります。ここまでなかなか勝ち上がることができていませんでしたので」


「お互い、強豪校が多い地区ですからね。それでは、ぜひまたよろしくお願いします」


 試合後、山田監督は竹原高校の監督と話をしていた。こうやって交友関係を増やしていくことも、監督にとっては大切な仕事なのだ。


 俺たちは学校に戻って練習するため、3試合目は見ないで帰ることになった。おそらく両校ともエースが投げるため、かなり興味があったが今回は諦めるしかなかった。





「ごめん、ちょっとトイレに行ってくるわ!」


 俺は帰る前にトイレに行っておくことにした。俺はみんなを待たせないように、急いでトイレに向かった。


「こんにちは、今日はありがとうございました」


「え!?……あぁ、蛇沼くんか!」


 トイレに向かっていくと、道中声をかけられた。俺はいきなりのことでかなり驚いたが、よく見ると初戦で対戦したキャッチャーの蛇沼だった。


「えーっと、蛇沼くんは次試合じゃないの?」


「はい。ですが、僕はまだ2番手キャッチャーですから、次の試合は基本ブルペンで待機ですね。みなさんはもうお帰りですよね?」


「そうだね。じゃあ試合頑張って」


 俺は時間をとっては申し訳ないと思い、話を切り上げてトイレに向かおうとした。


「あの………1つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「ん?……別に大丈夫だけど、何かな?」


 なぜか蛇沼に呼び止められた。まだ尿意は我慢できた俺は少しぐらいならいいか、と思い足を止めた。


「真島についてなんですけど、鳴神高校さんのところではどうしてますか?」


「どうって………まぁ、気持ちを全面に押し出して頑張ってるよ」


 少し空回りしているところがあるのは事実だが、真島なりに頑張っている部分はたくさんあった。


「そうですか………今日試合をしていて、キャッチャーの人とも意思疎通できているようでしたし、チームメイトからもそこまで嫌悪されている様子はなかったものですから………」


「そりゃあ同じチームなんだから、そんな感情をもつことは滅多にないと思うぞ。真島は不器用だとは思うけど、悪いやつじゃないからな」


 俺は真島とチームメイトととの仲裁に入っていてよく知っているが、トラブルの原因は真島が一生懸命なあまり言動がきつくなってしまうことだった。1番ターゲットにされる明は人間が出来ているから受け流すことができるが、他の部員たちはそれに対抗して言い争いに発展してしまうのだった。


「真島のことを信頼しているような口調ですね。キャプテンさんは僕の試合前の話は聞いてましたよね?」


「あぁ、聞いてたよ。過去にあったことについて俺がどうこう言うつもりはないよ。でも、同じチームにいる今の真島については別だ。俺は真島に頑張ってほしいと思ってるよ」


 明が引退したあと、間違いなくエースは真島だ。だからこそ俺はチームを離れる前に、なんとか真島をチームに溶け込ませようと努力していたのだ。


「なるほど………。ちなみにそれは部員全員が思っていることなんですか?」


「………さぁ、どうだろうな?」


 おそらく違うだろう。というか、ほとんどの部員が真島のことをよく思っていない。特に今日の蛇沼の話を聞いて、今後はさらにチームに溶け込ませていくのは大変になると覚悟していた。


 だが、そんなチームの内情を他のチームの選手に簡単に話すわけにはいかない。俺はそれとなく誤魔化したのだった。


「まぁ、いいです。鳴神高校さんはこれから長い付き合いになると思ったので、話が出来て良かったです。お時間をとっていただきありがとうございました。夏はお互い頑張りましょう」


「あぁ、そうだな。じゃあ失礼するよ」


 俺は蛇沼と別れ、急いでトイレに向かったのだった。





 学校に戻ってからはバッテリー陣は二宮コーチと今日の試合の反省会、野手陣はバッティングだった。


 移動時間の関係で、練習量はいつもと比べるとそこまでとることはできなかった。いつもよりバットが振れなかった俺は、早く自主練で打ちたいという気持ちでいっぱいだった。





「なんだと!もう一回言ってみろよ!」


「何度でも言ってやるよ!お前がいると迷惑なんだよ!」


「なんだと!ふざけやがって!」


 どこからか真島が他の部員と言い争う声が聞こえてきた。それから少しして、星形が慌てて俺のことを呼びに来たのだった。


「近藤先輩!大変っす!」


「また、真島か。あいつ今日試合で結構投げたのに、どんだけ元気なんだよ………」


「そんな呑気なこと言ってないで、早く止めに行きましょうっす!」


 俺はいつものようにトラブルの仲裁に向かった。





「…………これはどういうことか説明してくれるか?」


 俺が声が言い争っている現場に到着すると、驚くべき光景が広がっていた。いつもなら真島と誰かという形だが、今回は人数がかなりいたのだ。


 よく見ると、全員1年だ。人数は7人………顔ぶれを見ると、月岡と直正以外はこの場にいるようだった。


「近藤キャプテン!いきなりこいつらがふざけたことを言って、俺に絡んできたんですよ!」


 いつもは真島が原因を作っているはずだが………。ふざけたこと?いったいどんなことだろうか。


「とりあえず落ち着け。今回は真島からじゃないなら、誰か原因なんだ?」


 俺が聞くと、驚くべき答えが返ってきた。


「俺たち全員です。俺たちが真島に、部を辞めてくれと言いました」


「はぁ?いきなりそんなこと言われたら誰だって怒るだろう。なんでそんなこと言ったんだ?」


 確かにトラブルは多かった。だが、ここにいる全員が真島とトラブル起こしたことはないはずだ。そんなやつらも加わって、どうしてこんな状況になっているのだろうか?


「俺たちの不満はずっと溜まっていました。明先輩に生意気だし、他の部員に対する言動も仲間にするような言葉じゃありません。最近は結果だって残しているわけじゃないのに、試合に出続けてるじゃないですか!」


「今は自分だけがたくさん出てるから、そういう言動になっていると思っていました。でも、今日同じ中学だった人の話を聞いて、このままだとその人たちと同じになると思ったんです!」


「俺たちはそんな2年半を過ごすつもりはありません。今は近藤キャプテンがいるからなんとかなってますけど、引退されたあとはどうなるかわからないじゃないですか!」


「だったら今のうちに、辞めてもらいたいと思ったんです。真島がいない方が、チームワーク良く練習が出来ます!」


 次々と1年が自分の考えを口にしだした。まさかここまで不満が溜まっているとは思わなかった。


「ちなみに直正と月岡はいないようだけど?」


「二人は真島のことを気にしていないと言っていました。でも、それは二人が試合によく出ているからです。真島は人を選んで言うことを変える最低なやつです」


 俺はその言葉に違和感を覚えた。真島のこれまでの行動とは違ったものだからだ。


「んー、それはおかしくないか?真島が1番突っかかっているのは明だし、直正だってかなり衝突するとこが多いぞ?その二人に比べたら、お前らとのトラブルはかなり少ないと思うけど………。人を選んで言うことを変えるなんて誰が言い出したんだ?」


「秀峰高校の蛇沼です!彼が真島はそういうやつだと教えてくれました!」


 蛇沼の名前が出た瞬間、真島の顔に緊張が走る。一気に顔を強張らせた。


「そんなこと言ってなかっただろ?蛇沼が話したときは俺もその場に………」


「いえ、あの場ではないんです。試合後、トイレに行ったときに蛇沼に会ってその話を聞いたんです」


 俺の話を遮ってそう言ったのは、俺がトイレに行く前に先に行っていた萩野だった。確かにトイレまでの道に蛇沼が居たから間違いないだろう。


「だとしても、それは過去の話だろう?今の真島はお前たちから見て、そう見えるのか?あんなに明や直正に突っかかっているのに?」


「それは………」


 俺の指摘に言い返せないようだった。


「とりあえず今日はもう遅いから解散にしよう。この件は俺から山田監督に伝えて、明日必ず時間をとって対応するから。その際、お前ら全員からしっかり話は聞くから。今日のところはそれでいいか?」


「お前たちがここで争ってると、夏の大会をあと少しに控えた近藤先輩がこの後練習する時間が減るっす。近藤先輩は自分より、お前たちののことを優先するに決まってるっすからね。お前たちの気持ちも分かるっすけど、そういう周り人のこともよく考えるっす!」


 俺の言葉にまだ何か言いたそうな1年たちだったが、星形に言われて渋々納得したようだった。


「じゃあ今日は解散。明日も試合だけど、試合後に時間をとってもらうように伝えるからな。明日は必ず全員来るように。分かったか?」


「「はい………」」


 1年は部室に戻っていった。残っていた真島が俺に話しかけてきた。


「近藤先輩すいません。でも俺………」


「真島、お前も言いたいことはあるだろうけど、それは明日にするっす。これ以上近藤先輩の時間をとるのはやめるっす」


「………はい、分かりました。失礼します」


 真島は申し訳なさそうな表情を浮かべ、部室に戻っていった。部室には木下もいるだろうし、さすがにまたトラブルになることはないだろう。


「星形悪かったな、言い辛いことを言わせてしまって」


「気にしなくてもいいっす。本来なら2年の俺や岩井があいつらのことをもっと見てやる必要があったっす。近藤先輩はもう十分にやってくれてるっす」


 本来なら俺や木下、明などの3年生は夏の大会に集中するべき時期だ。そして、2年が1年の指導を担当しているので、キャプテンとはいえ俺が仲裁に入るのは余程のときくらいのはずだった。


 まぁこれまでのトラブルが起きたときは、俺や木下が近くにいることが多かったし、今日に限ってはさすがに俺が出るような場面だったから仕方ないけど………。俺が知らないところで、星形や岩井もトラブルの対処をしていることには薄々気づいてはいた。


「明日大変だろうな………」


「間違いないっす………」


 俺と星形は憂鬱な気持ちになりながら、室内練習場に向かうのだった。

次回、いったいどうなってしまうのか………。

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