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真島の過去

 週末となり、6月最初の練習試合の日となった。全員が時間通り集合し、無事秀峰高校に来ていたのだった。


 俺たちは初戦秀峰高校と、2試合目に県外の学校との試合になっている。


 到着した後三塁側のベンチへ荷物を運び入れ、試合前のアップが始まっていく。


 秀峰高校の選手は一塁側のベンチに入り、すでに外野の方でアップを始めていた。人数もうちと比べてかなり多いようだ。






 俺たちがキャッチボールを始めたところで、秀峰の方からボールが転がってきた。近くにいた真島が拾い、取りに来た秀峰の選手に返そうとする。しかし、真島は取りに来た選手を見て、なぜか固まってしまった。


「すいません、ボールをとっていただきありがとうございます。………あれ?お前もしかして真島?」


「え?………ひ、久しぶりだな」


 どうやら二人は顔見知りだったらしく、秀峰の選手ら驚いていた。中学のときの知りあいだろうか?


「そうか、近くの高校にいないから県外でも行ったのかと思ってたけど、まさかここにいたとはね。強豪校ばかりチェックしていたから気付かなかったよ。全然話を聞かないから、今日会うまではすでに野球はやめた可能性もあると思っていたぐらいだし」


「………あぁ、そういや言ってなかったな」


 スラスラと言葉が出てくる秀峰の選手に比べ、真島は歯切れの悪い口調だった。それに、なんだかかなり温度差があるような気がするが……。


「いやー、僕はてっきりまた自惚れて身の丈に合ってない、強いチームに行ったと思ってたんだよ。でも、学習能力だけはしっかり持っていたようだね。高校からは自分の能力に合ったチームを選んでいるなんて、成長したようで僕はとても嬉しいよ」


 自惚れ?身の丈?成長?この選手はさっきから何を言ってるんだ?俺は友達同士とは思えない二人の会話に困惑していると、星形が間に入っていった。


「あのー、口を挟んで申し訳ないっすけど、さっきから言ってることが友達に言うようなことじゃないと思うんすけど………」


「あぁ、すいません!自己紹介がまだでしたね。僕の名前は蛇沼(へびぬま) 恭平(きょうへい)といいます。ここにいる真島とは昨年までバッテリーを組んでいました。ちなみにこいつは友達ではありませんので、お気遣い無用です」


「同じチームでバッテリーを組んでたんすよね?それって友達っていうんじゃないんすか?」


「まさか。みなさんはご存知ないかもしれませんけど、こいつはエースであることをいいことに、お山の大将を気取ってチームでかなり滅茶苦茶なことをしてましたからね。こいつ一人にチームメイトたちがどれだけ迷惑をかけられたことか………。その感じだと、まだ鳴神高校さんの方では大人しくしているみたいですね」


 大人しく………はしてないけどな。たしかに、横暴なところはあったけど、まさか真島にそんな過去があったなんて…………。


「こいつをエースにしたらチームは崩壊しますよ?俺たちはそれでも運良く結果を残せましたけど、中学時代は野球を続けることにかなりの苦痛強いられました。経験者から言わせてもらうとお勧めはできませんね。」


「そ、そんな言い方しなくたっていいじゃないすか!真島はそんなやつじゃ………ないっすよね?言われっぱなしじゃなくて、真島もなんとか言い返すっす!」


 フォローしようとして一瞬戸惑ったのは、やはり普段の明への接し方のせいだろう。最上級生となり、エースとなった真島のことを考えると………今の蛇沼の話は有り得そうな話だったのだ。


「……………」


「……真島………」 


 しかし、真島は何も言い返さず、ただうつむくばかりだった。


「では、まだアップが残っているので僕は失礼しますね。みなさん、今日はお手柔らかにお願いしますね」


 そう告げると、蛇沼はチームのところへ戻っていった。残された俺達にはなんともいえない空気が漂っていた。







 準備も終わり、スタメン発表の時間となった。


「それでは本日のスタメンを発表する」



本日のスタメン(背番号は春の大会のときのもの)


1 ショート   星形(2年 背番号6)

2 セカンド   月岡(1年)

3 ファースト  近藤(3年 背番号3)

4 レフト    岩井(2年 背番号7)

5 サード    木下(3年 背番号5)

6 キャッチャー 直正(1年)

7 ライト    飯野(2年 背番号15)

8 センター   平野(2年 背番号8)

9 ピッチャー  真島(1年)



「秀峰とは夏に戦う可能性もあるから、石井は2試合目に先発してもらう。水谷も1試合目は出さない予定だから、二人はしっかりと次の試合に向けて備えてくれ」


「「はい!」」


「石井はこの試合では投げないが夏の大会と同じだと思って、しっかり勝ちにいくぞ!まずは、先取点をとってこい!」


「「はい!」」 


 先発の真島は蛇沼が去った後はいつも通りの様子でアップをしていた。少し心配だが、明をさげさせられない以上頑張ってもらうしかなかった。


 そして、試合は俺たちの先攻で始まっていった。







1回表 ワンアウト ランナー1塁

 

 最初の打席が回ってきた。先頭の星形がセカンドゴロで凡退し、2番の月岡がセンター前にヒットを打って出塁していた。


 マウンドに立っているのは左投げのピッチャーだった。持ち球はここまでストレートとカーブだけだ。他にもあるだろうが、ストレートメインの配球で、あまり変化球は多投してこなかった。


 俺は狙いを考えながら、バッターボックスに入っていく。


「よろしくお願いしますね」


「あぁ、よろしく」


 俺に声をかけてきたのは、キャッチャーの蛇沼だった。まさか、これだけの人数がいるチームなのに1年から試合に出ているとは思わなかった。


 俺は気を取り直して、改めて狙いを考える。恐らくこれまでと同じようにストレート中心で攻めてくるはずだ。先程までとは違い、ランナーを背負った状態なので盗塁を警戒する必要も増したからだ。

 

 俺はストレートに絞り、強い打球を打つことを意識することにした。この投手のストレートなら、かなりの確率で打てるはずだ。



『狙いの球種→ストレート

 打球の方向→センターからレフト方向

 打ち方  →フルスイング

 成功確率 →23%』



 思ったより成功確率が低いのが気にはなったが、俺は気にせず打ちにいくことにした。


 打席の中で相手投手の動きに集中する。サイン交換が終わり、セットポジションに入った。ランナーに一瞬視線を送り、クイックモーションから第1球が投じられた。




 ボールはインコースの高さは真ん中辺りのところに向かってきた。俺は狙い通りのボールがきたので、思い切りバットを振った。





「ガゴッ」


「うっ!?」


 ボールは手元で変化し、さらに内側に食い込んできた。ボールはバットの芯を外れ、力なくサードの前に転がっていく。


 サードは落ち着いて捕球し、セカンドベースに入ったセカンドへ送球。セカンドから流れるようにファーストへ送られた。




「アウト!」


 結果はサードゴロゲッツーだった。ストレートだと思って打ちにいったボールはカットボールだったのだ。



『【先導する者】の効果により、チームメイトの能力が試合中4%低下します』 


 結果は残念だったが、あると分かれば対策は可能なボールだった。ストレートはそこまで速くないし、攻略は時間の問題だと思われた。



星形は後輩思いの良いやつ。


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