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予想外の参加者

「光先輩、もう一箱連続でいきますよ!」


 試合後の全体練習も終わり、俺たちはいつもの通り室内練習場で打撃練習をしていた。


「ふざけてないで、早く交代するっす!だいたい修も混ざるようになって、帰る時間が遅くなったんすからね!少しは遠慮してほしいっす!」


 ある日の練習終わりから、気づいたら月岡も俺たちと一緒に自主練をするようになっていた。その日はどうやら星形に用があって残っていたらしく、練習しているのを見かけて参加するようになったのだった。


「いやー、中学時代は練習後にすぐ帰ってた光先輩が残って練習してるのが面白くて………。練習頑張る光先輩は高校からですもんね」


「中学時代だって、家に帰ってからバット振ってたっす!高校では近藤先輩が…………じゃなくて!こういう立派な施設があるから利用してるだけで、練習すること自体は変わってないっす!」


 今一瞬俺の名前が聞こえた気がするけど気のせいだよな。無理矢理やらせてるわけじゃ…………ないよね?………多分。


「まぁ、そういうことにしておきますね。気を取り直して、どんどんいきましょう!」


「………分かったっす」


 星形は諦めたのか、練習を再開した。そして、俺も練習を再開しようと、目の前で打つ構えをしている人に視線を向けた。




「ところで、どうして直正がいるんだ?」


 最近は5人で練習していたが、なぜか今日は直正が参加していた。誰か誘ったのだろうか?


「いたら駄目なんですか?なら、帰りますけど」


「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだ!ほら、トス上げるぞ!」


 俺は慌てて練習を再開した。月岡が参加してからは俺と星形のペアに混ざって3人1組で代わる代わる打っていたので、人数的には1人増えてありがたいことだった。


「人数が奇数だと効率が悪くてな……。話は戻るけど、今日は誰かに誘われたのか?」


『カキーン』


「誘われたというか……、勧められました。石井先輩に」


『カキーン』


「明に?」


 俺がトスをあげながら質問すると、直正は打つ合間に器用に質問に答えてくれた。


 確か、今日の試合後の練習は野手陣が打撃、投手陣はキャッチャーを含めて試合の反省会をしていた。


 マネージャーが、バックネット裏からビデオカメラで試合を撮影してくれていたので、それとスコアブックを見ながら配球面などの話をするのだ。


 恐らく直正はそのときに、明から俺たちの練習のことを聞いて参加したのだろう。


「ちなみに、明はなんて言ってたんだ?」


『カキーン』


「話し合いに時間をとられて打撃練習が人より出来てないのが不満なら、全体練習が終わったあとに室内練習場にいけばいい。そこに行けば満足するまで打つことが出来る、と言われした」


『カキーン』


「満足するまで………ね」


 きっと投手陣と話し合いをしてるときに、打撃練習に参加できないことへの不満を顔に出していたのだろう。そして、明は俺たちを何だと思っているのだろうか。直政が、日付変わるまで打ち続けたらどうするつもりなんだ。


 その後、俺たちは黙々と打撃練習を続けていった。






「あの………まだ、みなさん終わらないんですか?」


 時刻は21時を過ぎていた。直正は途中から帰りたそうな雰囲気を出していたが、俺たちが練習を続けるのに気を遣ってか、一緒に練習を続けていた。


「ん?………あと1時間くらいかな。別に無理して残らなくてもいいぞ、俺は星形たちに混ざるから」


 俺の返答に直正は唖然としていた。そんな驚くことを言っただろうか?


「いや、どうせなら最後まで付き合いますよ。………一つ聞きたいんですけど、まさか毎日その時間まで打ってるんですか?」


「んー、日によるかな。全体練習がきつい日なんかはあまり長くやらないけど、今日みたいに試合がメインだと俺たち野手は体力的にはかなり余裕があるからな。打てるときにっておかないと」


「何言ってるんすか!練習内容関係なしに、最近はいつも終わるの遅いじゃないすか。勉強する暇がないっすよ!」


 俺たちの会話を聞いて、隣の星形が文句を言ってきた。


「月岡、星形はまだまだ余裕そうだからもう一箱追加してやってくれ」


「了解しました!」


「そんなぁーっす………」


 月岡は嬉しそうにトスを上げていた。本当に星形のことが大好きなんだろうな。


「そういえば、俺も1つ聞いていいか?」


「えぇ。答えられることであればですけど」


 俺はこの機会に今日の試合のことを聞いてみることにした。


「今日の試合のことなんだけど、今まではほぼ完璧に抑えていた真島がかなり打たれたよな?それはなんでか分かるか?」


「あぁ、それなら簡単ですよ。あれがあいつの実力だからですよ」


 俺は直正の答えに首を傾げる。あれが実力?今まで抑えてたのは実力じゃなかったのだろうか。


「ごめん、よく分からないんだけど……」


「………そうか、近藤さんは試合で投げる真島しか知らないんですもんね。そういう人からしたら確かに今日の真島の姿はかなり驚いたかもしれませんね。真島はストレートの速さだけ見れば、確かにそこらの1年生より遥かに才能はあると思います。ただそれだけです」


「それだけ?それだけあれば十分じゃないのか?」


「まぁ、打順一回りくらいならなんとかなるかもしれませんね。でも、二回り目からはバッターは目が慣れてきます。ピッチャーも球数によっては疲れが出てきます。真っ直ぐだけで抑えられるほど、高校野球は甘くないですよ」


 確かに前世の記憶を振り返ってみると、地方大会で150Km/h後半の球速を出して話題だった選手がいたが、中には甲子園に出ることなく地方予選で敗退する選手も珍しくなかった。


「なるほどなぁ。今日打たれたのはそれで分かったとして、じゃあなんで今までは打たれなかったんだ」


 ストレートの速さだけでは通用しないことは分かった。なら、今まではそうじゃなかったってことなのだろうか?


「それは俺がそうなるようにリードしたからですよ。今日の試合とこれまでの試合の違いは分かりますか?」


「んー、変化球を投げる量か?」


「半分正解です。確かに変化球を混ぜてストレートをより速く見せるための工夫は必要です。特に真島の場合は決め球となる変化球もありませんからね。それを怠った結果が、今日の試合の4回からの失点です」


「ちなみにもう半分は?」


「球数です。今日真島は7回を投げて球数は136球でした。ちなみに普段の真島の球数はどれくらいか知ってますか?」


「いや、そこまで正確には覚えてないけど………6回で100球前後か?」


「基本どの試合も70〜80球前後です。しかも真島はツーストライクと追い込んだカウントでは、いつも以上に力を込めてストレートを投げてきます。そうなるといつもより体力を使うので、自ずと投げられる球数はさらに減ります」


 思ったよりも少なかったのか。試合では抑えてるイメージが強かっただけに、球数については気にしたこともなかった。


「ちなみに今日の試合の初回から3回までの球数は29球。4回から7回は107球です。水谷先輩が最後までリードしていれば、例え打たれたとしても7回で90球程になっていたと思います」


「え!?そんなに違うのか?配球が変わるだけそこまで変わるものなのか?」


「変わります。特に俺たちキャッチャー陣はよく配球については文句…………いえ、意見交換をしていますので、投手の特徴や持ち球にあった配球について、考えを共有しています。今日の1試合目と3試合目で、バッテリーがいつもと変わっても試合が成立したのはそのためです」


 なるほど、だから真島が暴走するまでは試合が上手く進んでいたのか。………と、いうかさっき意見交換のところ文句とか言ってなかった?少なくとも文句を言っている自覚はあったのか………。


「ちなみに明の場面は、どういうふうに配球を組み立てるんだ?」


「それは内緒です。まぁ強いて言うなら………今日は最初から完投を目指してリードしてましたよ。そのために必要な配球を考えて、試してみただけです」


「それにしてはかなりピンチが、多かった気がするけど………。あれも予想通りだったの?」


「そうです。正直何点かは取られてもしかたないと思ってましたけど、石井先輩の力は想像以上でした。ちなみに『打たれた』というよりは、『打たせた』が正しいですね。早いカウントで打たせることで、球数を減らすという意図があったんですよ」


「なるほど、だからいつもよりもヒットを多く打たれていたわけか。でも、それって結構危険なんじゃないか?」


 今日はたまたまランナーを背負うことはあっても失点はなかった。だが、次はどうなるかは正直分からない。高校野球において、1点が命取りになることはよくあるのだ。


「その点は試合後に石井先輩にも言われました。強打者がいない今日みたいなチームにはこの配球でいいけど、明城の加賀みたいな選手がいるときは違う配球でいったほうがいいとアドバイスをいただきました。確かにその通りだとは自分でも思いましたね」


 確かにピンチの場面で加賀に回すことは避けたい。相手のチーム状況にあった配球が大事ってことか。


「なるほど、いろいろ分かってスッキリしたよ。じゃあそろそろ再開するか!」


「…………やっぱりそうですよね。この流れで終わるかと思いましたよ」




 その後俺たちは時間を忘れて、バットを振り続けたのだった。

木下と岩井もしっかり練習してました。だんだん人数が増えてきましたね。

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