明暗
1試合目 真島、水谷バッテリー
初戦は秋に県大会に出場した、種笠高校だった。真島は立ち上がりから3イニングをパーフェクトに抑えていた。
「水谷さん、追い込んだら遊び球なんかいらないですよ。俺のストレートなら、三球で終わりなんですから」
ベンチに戻ってきた真島と水谷は、リード面に関して話しをしていた。
「さすがにストレートだけ投げてると狙われるぞ。ここまで抑えてる通り、変化球も見せながらストレートで決めていけばいいじゃないか」
「いや、中軸ならそれでもいいと面白いますよ?でもさっきは下位打線ですよ?全員三球勝負でいいじゃないですか」
「下位打線だからって舐めすぎだ。石井ならともかく、今のお前の球じゃ確実に討ち取れるとは言えないからな。1イニングのうち一人くらいは三球ストレートでもいいかもしれないが、全員は駄目だ。無謀すぎる」
水谷は特に意図して言ったわけではなかったのだろうが、明と比べられたことで真島の怒りが爆発した。
「石井先発なら良くて、俺は駄目とか本気で言ってるんすか!?俺はここまでしっかり結果だって残してるじゃないですか!現にこの試合だってここまでパーフェクトだ!」
真島のいきなりの変わり具合を見て、水谷はそこでやっと真島が言われたくないことを自分が言ってしまったのだと気がついたようだ。
「…………分かった。じゃあ、お前のやりたいようにやらせてやるよ。サインは普通通り出すけど、気に入らなかったらどんどん首を振ってくれ。それでいいか?」
「はじめからそうしてくれれば良かったんですよ!ここまで我慢して水谷先輩のリードに従ったんだから、ここからは俺のやりたいようにやらせてもらいますからね!」
怒っていたのもなんのその。水谷の言葉に満足したようで、あっという間に機嫌を直していた。話し合いが終わるとヘルメットを被り、ネクストバッターサークルへ向かっていった。
俺はベンチでため息をつく水谷をフォローしに行った。
「さっきは大変だったな。でも、あの真島をリードしてここまでパーフェクトに抑えてるなんて、意外といいコンビなんじゃないか?」
「そうは思わないけどな。…………それに恐らく次の回から荒れると思うぞ」
「なんでだ?ここまで完璧に抑えてるじゃないか。それがいきなり打たれるものなのか?」
水谷の口からは、俺が予想もしていなかった言葉が返ってきた。なんでそう思うのだろうか。
「まぁとりあえずは結果が出てから話すよ。俺としても、予想が外れてほしいと思ってるんだから。負け試合なんて面白くもなんともないからね」
俺は水谷がどうしてそう思うのか、見当もつかなかった。
4回表 ツーアウトランナー1、2塁
この試合始めてのピンチを迎えていた。打順はこの回から二回り目に入っていた。
真島はベンチで話していた通り、この回はここまで全球ストレートだった。1番、2番は討ち取ったものの、粘られてかなりの球数を投げることになっていた。変化球がないと分かれば、真島の球速くらいならカットして粘ることはそこまで難しくはなかった。
そして3番にもストレートを狙われ、あっさりレフト前に運ばれこの試合始めての出塁を許す。4番には警戒しすぎて四球を与えてしまったのだった。
現在の打順は5番で、左のバッターボックスに入っている。先程の打席はサードゴロ。ストレートに振り遅れて、凡退していた。
真島はこの回、キャッチャーのサインに何度も首を振っていた。つまり、その数だけ水谷が変化球を要求したということだった。そして、5番バッターに対する初球のサインにも真島は首を振った。
二度目のサインに頷き、マウンドからボールを投げた。
「カキーーーン!!」
完璧に捉えられた打球は右中間を深々と破っていく。結果は2点タイムリースリーベースヒット。打ったのは高めのストレートだった。低めよりも威力はあるといわれているが、軽々と外野の奥まで飛ばされてしまった。
水谷は………マウンドに駆け寄ることはなかった。明が打たれたら、きっとここでひと呼吸間をあけに行ったんだろうな。
その後も真島は失点を許す苦しい展開が続き、7回まで投げきったところで交代となった。真島は交代するまで、水谷は一度もマウンドに声をかけに行くことはなかった。
「ゲーム」
「「ありがとうございました!」」
最終的に、俺たちは9対7で敗れたのだった。先発の真島は7回8失点だった。うちのチームも後半から打線が爆発したが、あと一歩届かなかった。
2試合目 石井、直正バッテリー
途中、俺たちは昼休憩をはさみ、第3試合を迎えた。相手は花雲高校だ。春に県大会へ出場していた。
初回、俺はネクストバッターサークルに向かえるようにベンチで準備をしながら、バッターボックスの星形を見ていた。
「石井先輩本当にいいんですか?」
ふと、ベンチの奥を見ると、明と直正が何やら話をしていた。
「プルペンで投げてるときにも言っただろ?嘘だと思ってたのか?」
「嘘というか、軽い冗談かと……。本当にこの試合俺に配球任せてくれるんですか?」
「あぁ。お前が俺という投手をどうリードするのか気になってな。試すなら今日みたいな練習試合の方が実践的でいいだろ?どんなサインがでても首は振らないから、お前が思う通りにサインを出してくれ」
「はぁ……わかりました。いつもと違って、意思疎通をするためにマウンドへ行くことがなくなりそうで安心しました。…………途中で考え変えないでくださいよ」
「信用ないなぁ。まぁ、期待はしてないけど楽しみにしてるよ」
会話が終わったタイミングでちょうど星形が出塁したので、俺はネクストバッターサークルに向かっていった。さっきの話が本当だとしたら、この試合で直正がリード面で優れているという山田監督の話が本当なのか確認出来そうだった。
8回裏 ツーアウト ランナー1、2塁
この試合何度目かのピンチを迎えた。ここまで出塁はさせても、得点は許さないという要所を締めるピッチングを続けていた。
打順は5番で、右のバッターボックスに入っていた。明はここまで一度もサインに首を振ることはなかった。今回も一度目のサインに頷いて、セットポジションに入った。
「攻めるなぁ……」
俺は思わず声を漏らしていた。初球は右バッターのインコースにズバッと投げ込んでいた。バッターは避けてボールだったが、避け方が悪かったらデットボールで満塁になっていただろう。
2球目は外にスライダー。3球目も同じボールを続け、ファールとなっていた。
カウントワンボール、ツーストライク。勝負の4球目を明が投げた。
ボールは初球と同じようなコースで、バッターのインコースめがけて投げられている。バッターは初球と同じように咄嗟にボールを避けた。
「ストライーク!」
「え!?」
ボールは打者の近くで曲がり、ストライクゾーンに構えられたミットに吸い込まれていた。インコースへスライダー。バッターはもちろん手が出ず、三振となった。バッターと同じように、俺も驚いてしまった。
「ゲーム」
「「ありがとうございました!!」」
結果は4対0で勝利した。明は最後まで投げきり、完封したのだった。
「石井先輩、ありがとうございました」
試合後、練習の準備をしているところで、直正が明に話しかけていた。
「ん?何言ってんだ。お前のリードが良かったからだろ?でも、俺も配球のことで言いたいことがあるから、後で少し時間をとってくれ。とりあえずお疲れ様。また頼むな」
「ですが………。分かりました、では後ほどよろしくお願いします」
何か言いたそうな直正だったが、後で話せると知って今は我慢したようだった。
終わってみれば明は無失点だった。でも内容を見るとかなり出塁を許していたし、ピンチも多かった。これで山田監督が言うように、直正はリード面が優れているって言えるのだろうか………。
練習後の自主練のときにでも星形や岩井に聞いてみようと考え、今は切り替えて試合後の練習に取り掛かっていくのだった。
次回はほのぼの自主練回?です。
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