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強気な男と頑固者

1回裏 ノーアウトランナーなし 


 初回の攻撃は水谷チーム先発の時任が無得点に抑えていた。そしてその裏、いよいよ1年の真島が投げるときが訪れた。


 マウンドに移動し、投球練習を開始した。身長は180cm近くあり、他の投手と比べてリリースポイントはかなり高い位置に感じられる。


 球速は1年生にしてはかなり出ている方だろう。測っていないから正確ではないが、130Km/hは出ていそうだ。


 明の自己最速は142Km/hのはずだ。来年には恐らくそこは越えてくるだろう。あと1年早く入部してたら………。本人が言うとおり、エースは真島になっていた可能性もあり得ただろうな。


 投球練習が終わり、打席にバッターが入る。迎えるバッターは星形。うちのチームのリードオフマンだ。


 初球、真島のストレートがアウトコースに決まる。星形はじっくり見て、あわよくば四球をとるというスタイルである。そのスタイルもあって、初球打ちはほとんどしない。


 2球目、真島は同じくストレートをアウトコースへ投げた。先程よりもコースが厳しく、星形が打ちにいったものの捉えきれずファールになった。


 これでカウントノーボールツーストライク。普通なら変化球で決めにくる場面だろう。ここまで2球ともストレート。ボールになる変化球を投げて、スイングが取れれば最高だろう。


 サイン交換が終わり、マウンドの真島から3球目が投げられた。






「ストライーク!」


「!?」


 投げられたボールは、インコースへのストレートだった。頭になかったのか星形は反応できず、バットを振ることすら出来なかった。しかも、ここまでの2球より少し速かった気がした。


 レギュラーをストレートだけで三球三振。完璧な立ち上がりだった。


 その後二人も打者もストレートのみで、あっという間に討ち取っていった。


 





 終わってみれば、5回 打者17人 被安打1 四死球1 失点0の完璧な投球内容だった。


 出塁を許したのは、2打席目に星形が粘ってとった四球と岩井の打ったヒットだけだった。三振の数は8個。アウトの半分を三振でとったのだった。


 試合後、一旦昼食休憩となったタイミングで真島が明に絡んでていた。


「石井せんぱーい。どうでした俺のピッチングは?潔くエースナンバー譲ってくれませんか?」 


「ナイスピッチングだったな。いい投手がチームに入ってくれて、俺も心強いよ。お互いチームの勝利のために頑張ろうな」


「ちっ、そんな余裕振ってられるのも今のうちだからな。せいぜい次の背番号発表まで、残り少ないエースとしての時間を楽しむんだな」


 そう言い残すと明の言葉も聞かず、部室に引き上げて行くのだった。残された俺たちは各々ため息をつきながら、同じよう部室に歩き出したのだった。





「光先輩!どうでしたか俺のプレーは?」


「久しぶりに実践で修のプレーを見たっすけど、去年よりもまた一段と成長してたっすね。ゲッツーも入部してからはほとんど練習してなかったすけど、いいコンビネーションだったからやりやすかったすよ」


「いやー、そうですか?時間があるときは光先輩の試合をほぼ見に行ってたので、今日までイメージトレーニングしまくっていたんですよ。おかげでぶっつけ本番でも、無事にゲッツー取れたので良かったです!」


 部室の中で星形は同中の後輩である月岡と、楽しそうに話しながら食事をしていた。月岡の成績は4打数2安打だった。真島がマウンドを降りたあと、後続のピッチャーからしっかり打っていたのだ。


 守備面でも安定したプレーを披露し、走塁面でも持ち前の足の速さを見せつけていた。


「近藤、新入生は今年も豊作揃いだな」


 俺の横で弁当を食べてる木下が話しかけてきた。


「今日の紅白戦でかなり目立っていたもんな。投げては真島、打っては月岡と直正と頼もしい限りだよ」


 真島の明に対する接し方が落ち着いてくれれば、いうことないんだけど………。


「中でも真島はすごかったな。マウンドでも、マウンド以外でも………。あいつなんで石井にあそこまで執拗に絡むんだ?」


「俺が知るかよ。まぁ、エースに対して強い思い入れでもあるんじゃないか?アキラの前ではあぁだけど、練習中はいたって真面目に取り組んでるし、明が気にしないなら放っておいてもいいだろ」


 キャプテンとして注意するつもりでいたが、明に『真島のことは俺に任せてくれ。お前はチーム全体を頼むぞ』なんて言われてしまった以上、俺から出来ることは今のところなかった。


「真島も大変だけど、直正もなかなかだったな」


「確かに、試合中タイムとりすぎて山田監督から注意されてたもんな」


 俺たちは試合中の真島と直正の姿を思い出していた。






「審判、タイムお願いします」


「またか?仕方ないな。タイム!」


 今日何度目か分からないタイムをとって、キャッチャーの直正がマウンドの真島のところに走っていった。本来なら聞こえないはずのバッテリーの声だが、イライラが頂点に達した真島は声を抑えることが出来ていなかった。


「だから!何で首振ってるのにサイン変えないんだよ!ここはどう考えてもストレートだろ!何でずっとスライダーのサインしか出さないんだよ!」


「ストレートだとさっきの打席と同じ配球だからだ。確かにお前のストレートは速いが、2巡目でバッターの目も慣れてきてる。前の打者の岩井さんだって、結局ストレートをヒットにされてるじゃないか。ここは1球変化球を挟む。別に正確にコースをつけと言ってるわけじゃない。次のストレートで確実に抑えるための布石だ。だいたいお前の…………」


 3塁審判の俺の位置からは直正が何を言ってるか聞こえてこないが、どうやらかなりの量の言葉を話してるみたいだ。それを聞いて、真島は怒りの表情でずっとプルプルと小刻みに揺れている。


「…………と、いうことだ。分かったら俺の配球通り投げろ。大丈夫、俺の考えた配球通りなら間違っても打たれることはないさ」


「だ、か、ら!俺の話を聞けよ!!」


「お前ら、もうそこまでにしろ。次タイムとったらもう二人とも変えるからな」


「っ!?………わかった。サイン通り投げるから早く戻れよ」


「最初からそういえばいいんだ。まったく」


 少しキレ気味の山田監督の言葉を聞いて、マウンドから降りたくない真島は仕方なく直正の指示を聞くことを決めたようだ。


 直正が『別に変えられても構わない』、みたいな顔をしていたのも真島が折れた要因だろう。直正は試合に対するこだわりはないのだろうか。


 その後はサイン通りに投げ始めたので、スムーズに試合が進行したのだった。





「直正は打撃も良かったけど、あの真島をコントロールしてみせたからな。そこはある意味1番目立ってたな」


「あの頑固さはある意味真島以上に厄介だけどな」


 もともと性格に難ありと言われていた二人。この紅白戦を経て、野球の実力以外の部分でも俺たちにしっかりとアピールしたのだった。


 

『これでタイム10回目か…………』


『あ、山田監督キレた』


『キャッチャーも面倒くさそうだな』


 マイペースに見守る石井1塁審なのだった。


昨日は更新できませんでした!今日からまた頑張ります!

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