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俺がエースだ!

 春の大会予選が終わってから数日後、とうとう1年生が本入部となる日がやってきた。


 今は練習開始前、ベンチ前に整列した1年生の自己紹介を聞いているところだ。今年は9人いて、推薦枠で入部した3人は列の最後に並んでいた。スムーズに最初の6人の自己紹介が終わった。


月岡(つきおか) (しゅう)です。里江中出身です。ポジションはセカンドやショートを守っていました。よろしくお願いします!」


 この子が星形のことを尊敬してるっていう話の選手か。出身中学が一緒だから、きっと二遊間を組んでいたんだろうなぁ。人懐っこい見た目してるし、話すのが楽しみだ。


直正(なおまさ) (たける)です。村山(むらやま)中出身です。ポジションは捕手です。よろしくお願いします」


 月岡くんの直後ということもあって、かなり対照的な自己紹介だった。他の新入部員はかなり大きめの声量で自己紹介をしていたが、彼だけは俺たち2、3年が聞こえる程度の声量で淡々と話したのだった。


真島(まじま) 宏大(こうだい)です。渋川(しぶかわ)中出身です。ポジションは投手です。よろしくお願いします」


 最後の選手はかなりにこやかな表情で、堂々と話すのが印象的だった。身体もかなり大きく、新入生の中では1番身長の高い選手だった。


 山田監督から事前に性格に難ありと聞いていたのだが、ここまでの様子を見るとそこまで心配する必要があるのか不思議に思ったのだった。


「えー、以上9名が入部となった。分からないことがあれば、先輩たちに聞くように。それでは近藤、アップから始めてくれ」


「はい!じゃあ、1年も付いてきてくれ」







 1年生は最初の全体アップまでは一緒に行動するが、アップが終わると2、3年生と別行動になる。最初の2週間は体力トレーニングや硬式球になれるために基礎的な練習メニューが組まれているのだ。


 アップが終わり、1年生は指導係の2年生に任せて次の練習に移ろうとしていた。





「なぁ、あんたがこのチームのエースなんだろ?」


 俺は声がする場所に視線を向けると明の前に、1年の真島が立ち塞がっていた。


「そうだけど。どうかした?」


「俺がエースになってマウンドに上がる。あんたの時代はもう終わりだ」


 いきなりの宣戦布告に周りがざわめき出す。俺は二人の間に割って入った。


「真島、今は練習中だぞ。そんな話は今することじゃない。それに明は先輩なんだからちゃんと敬語を使え」


「それは………すいませんでした。でも敬語って敬う相手に使うもんですよね?俺より実力のないやつになんて使いたくないですねー」


「お前なぁ……」


「裕太、もういいよ。敬語を使いたくないなら、別に俺には使わなくてもいい。ただ練習の邪魔だからそこをどいてくれるか?君の練習場所はまだ俺たちと同じところじゃないからさ」


「一年は別メニューですか。つまんねぇな。まぁ、そのうち実力を見せる機会はあるでしょうからそこまでは大人しくしておきますよ、せ、ん、ぱ、い」


 そういって、真島は別メニューの場所へ移動していった。残された俺たちは呆気に取られていた。





「お前ら!何タラタラやってんだ!アップが終わったら早く次の練習に移らないか!」


「「はい!」」


 監督室から山田監督の怒声が聞こえ、俺たちは急いで次の練習に移っていくのだった。




 





 「今日は紅白戦を行う!試合開始は1時間後だ。2チームに別れて行う。チーム分けとオーダーは俺が考えてきたから、試合開始前に発表する。では、試合開始前と同じようにアップを始めてくれ」


 1年生が本入部してから最初の土曜日、毎年恒例となった紅白戦を行うことになった。1年生たちのポテンシャルを確かめるには、絶好の機会といえるだろう。


 特に推薦枠の3人は、ある程度の活躍が見られれば山田監督ならすぐに試合で使っていく気がする。特に月岡はポジションの関係上、かなり注目されている気がした。


 俺たちはランニング、ストレッチ、キャッチボールとアップを済ませ、山田監督によるシートノックを受けて試合ができる状態に仕上げていった。





「それでは、スタメンを発表するぞ。今年はいつもと違うから、しっかりと聞くように」



○木下チーム


1番 センター   平野(2年 背番号8)

2番 ショート   町村(3年 背番号4) 

3番 ライト    飯野(2年 背番号15)

4番 サード    木下(3年 背番号5)

5番 キャッチャー 直正(1年)

6番 ファースト  米田(2年 背番号13)

7番 レフト    茂木(1年)

8番 セカンド   谷田(1年)

9番 ピッチャー  真島(1年)


控え

ピッチャー 山路(3年 背番号10)

サード   矢島(1年)


○水谷チーム


1番 ショート   星形(2年 背番号6)

2番 セカンド   月岡(1年) 

3番 キャッチャー 水谷(3年 背番号2)

4番 レフト    岩井(3年 背番号7)

5番 センター   杉山(3年 背番号9)

6番 サード    大林(2年 背番号14)

7番 ライト    鎌田(1年)

8番 ファースト  萩野(1年)

9番 ピッチャー  時任(2年 背番号11)


控え


キャッチャー 湯元(2年 背番号12)

ピッチャー  波野(1年)



審判 


主審 山田監督

1塁 近藤

2塁 二宮コーチ 

3塁 石井




 


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!なんで石井先輩が審判なんですか!俺と投げ合ってくださいよ!」


 山田監督と二宮コーチが監督室に一旦引き上げたところで、真島が明に絡んでいた。


「監督が決めたんだから、仕方ないだろ。俺だって驚いているんだから。文句があるなら直接監督に言え」


「ちっ……今日は仕方ねぇか。まぁ俺のピッチングを審判の位置から見てろ。俺がエースだって、必ず認めさせてやるからな!」


「はいはい、楽しみにしてるよ」


 そういって、真島は明から離れていった。まったく………監督たちが目を話すといつもこうなるのはなんとかならないのだろうか。


 ただ、真島だけでなく、多分選手全員が明が投げないことに驚いたのは間違いない。過去2年間、紅白戦には全員が例外なく出場していたからだ。


 実は事前に山田監督と俺で打ち合わせしていたのだ。その中で、明が投げるとほとんどの野手が抑えられてしまうので、1年生の力を正確に見ることが出来ないことが不安視されていた。


 また、俺の【先導する者】の効果でもある意味選手たちの本当の力を見ることが出来ないということで、だったら二人とも審判でいいだろうということになったのだった。


 いつもと違う状況にみんな少し浮き足立ったものの、素早く切り替えて予定通り紅白戦は始まっていった。




 そしていよいよ自分がエースだと言い張る真島の実力が披露されることになるのだった。

 

ここまで生意気なやつ、います?

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