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明城高校の加賀

春の大会予選一回戦


「それでは今日のスタメンを発表する!」


本日のスタメン


1 ショート   星形(2年 背番号6)

2 センター   平野(2年 背番号8)

3 ファースト  近藤(3年 背番号3)

4 レフト    岩井(2年 背番号7)

5 サード    木下(3年 背番号5)

6 ライト    飯野(2年 背番号15)

7 キャッチャー 水谷(3年 背番号2)

8 セカンド   町村(3年 背番号4)

9 ピッチャー  石井(3年 背番号1)



「試合の展開によっては積極的に選手を入れ替えるつもりだ。いつでも出られるように準備しておけよ。まずは先制点だ!どんどん攻めていくぞ!」


「「はい!!」」


 秋の県大会と比べると、1年の飯野が打順を上げていた。3月の練習試合では長打が何本か出ていたから、調子の良さを見ての判断だろう。まぁそれだけではなく、捕手の水谷があまり結果を残せていなかったことも理由の一つかもしれない。


 試合は終始優位に進み、5回終了時点で6対0とリードを広げた。6回からは2年の時任がマウンドに上がり、途中連打を浴びて失点するもなんとか4イニング投げきることができた。


 終わってみれば8対3で、無事に初戦を突破することが出来た。後半は代打など控え組の登場もあったせいか、得点がそこまで取りきれなかったことは反省点だろう。


 とはいえ、打線も明もしっかりと調子を上げた状態で明城高校との決戦に臨むことが出来そうだった。










春の大会予選二回戦


「いよいよ明城との試合だ。それでは今日のスタメンを発表する!」


本日のスタメン


1 ショート   星形(1年 背番号6)

2 センター   平野(1年 背番号8)

3 ファースト  近藤(2年 背番号3)

4 レフト    岩井(1年 背番号7)

5 サード    木下(2年 背番号5)

6 ライト    飯野(1年 背番号15)

7 キャッチャー 水谷(2年 背番号2)

8 セカンド   町村(2年 背番号4)

9 ピッチャー  石井(2年 背番号1)



「1点が勝負を分ける試合になるかもしれないな。たくさん点をとって、先発の石井を援護してやれ!」


「「はいっ!!」」


 スタメンは初戦と同じだった。全員の気合は十分。明の調子も問題なさそうだ。そしていよいよ試合が始まった。







1回表 ワンアウト ランナー2塁


 俺の初打席はチャンスの場面で回ってきた。先頭の星形が四球で出塁し、2番の平野が手堅く送りバントを決めていた。ここで先制点をとれば、先発の明はかなり楽に投げられるはずだ。


 マウンドに立っているのは昨年と同じピッチャーだった。右サイドスロー投手で持ち球はストレート、スライダー、シンカー、スローカーブだ。当たり前のことだが、球速は昨年よりも速くなっているようだ。


 ここまでの投球内容を見ると、変化球のコントロールが安定していないようだった。変化球が主体の組み立てだけに、かなり苦しんでいると予想された。


 今の状態ならば必ずストレートでカウントをとってくる。ランナーをためた状態で4番に回したくはないはずた。俺はストレートに絞り、右方向を狙うことにした。打ち損じたとしても、ランナー3塁で次に繋ぐつもりの意識でいた。


 

『狙いの球種→ストレート

 打球の方向→右方向

 打ち方  →ミート中心

 成功確率 →41%』



 俺は相手投手の動きに集中する。サイン交換が終わり、セットポジションに入った。ランナーに一瞬視線を送り、クイックモーションから第1球が投じられた。



「ボール」


 初球はスローカーブ。フワリと浮かんだ軌道は高めに外れた。狙いとは違ったので手を出すことはなかった。さて、次はどうくるか。


 マウンドから2球目が投じられる。投げられたボールはアウトコースギリギリだった。俺はしっかりと引きつけて、バットを振り抜いた。




「カキーン!」


 バットの芯で捉えた打球は勢いよく進んでいく。ランナーの影響で少しセカンドベース寄りに守っていたセカンドが急いで打球に近付き、ギリギリのタイミングで打球に飛びついた。


 グローブは僅かに届かず、打球は一ニ塁間を抜いていった。バックホームを警戒して少し前よりに守っていたライトが素早くボールを捕球し、ホームへ送球する。


 打球の勢いが強すぎたのと、ライトのボールへの寄りが早く、送球も正確だったのでキャッチャーがタッチするタイミングはかなり際どくなった。




「……セーフ!」 


「しゃあ!!」


 僅かに星形の手がホームベースを触るのが早く、先制することが出来たのだった。



『【先導する者】の効果により、チームメイトの能力が試合中6%上昇します』 


 待望の先制点をあげ、俺たちは幸先の良いスタートを切ることが出来た。








8回裏 ワンアウト 満塁 


 この試合最大のピンチが訪れた。スコアは2対1とリードしている。このピンチで打席に迎えるバッターは3番加賀。春に勝負を決める一打を打った選手だ。


 ここまで3打席は明に軍配が上がっている。しかし、討ち取ったもののかなりの球数を投げる羽目になり、現在130球をゆうに越えていた。


 その疲れからかこの回、エラー、ヒット、四球とランナーを背負ってしまいピンチを迎えたのだった。ブルペンでは時任が準備をしているが、この場面で投げるのはかなり荷が重いだろう。


 ベンチからの伝令はない。それは山田監督からアキラに対しての信頼の表れでもあった。お前に任せた、ということだろう。


 右のバッターボックスに入った加賀に向けて、マウンドの明から1球目が投じられる。


「ストライク」


 初球はアウトコース低めいっぱいのところにストレートが決まった。2球目、3球目は変化球が外れ、カウントツーボールワンストライク。バッティングカウントになった。明から4球目が投じられる。




『カキーン』


 打球はライト方向に流れていき、スタンドに入っていった。これで加賀をツーストライクと追い込んだ。


 5球目はスライダーを加賀に見切られ、カウントはフルカウントになった。先に加賀を追い込んだ明だったが、これで逆に追い詰められてしまった。ボールを投げたら押し出しで1点入り、同点になってしまう。


 加賀が打席を一度外し、スイングを確認してからバッターボックスに入り直す。マウンドに立つ明がキャッチャーのサインに頷きセットポジションに入る。キャッチャーミットをめがけて、運命の6球目が投げられた。








「ブルン」


 加賀の振ったバットは空を切った。空振り三振。明はこの場面でストライクからボールになるスライダーを正確に投げきったのだ。


「ツーアウト!!」


 この三振にグラウンド内の選手、そしてベンチが盛り上がる。ピンチはまだ終わっていないが、それだけ加賀という選手を討ち取ったことは大きなことだった。


 まだピンチは続くが次の4番バッターも明はここまで完璧に抑えていた。今の明なら乗り越えてくれるはずだ。




『カキーン』


 初球を打ち上げた。打球はフラフラとセカンド後方へ飛んでいく。


「セカン!」


 俺はセカンドに声をかけながら、ファーストという1番近い位置から打球の行方を見ていた。討ち取った当たりだったが、意外とボールは落ちてこない。


 セカンドは必死に追う。ライトも打球を追って前に来ていた。




「あっ……」


 思わず声が漏れた。打球は無情にもセカンド後方に落ちてしまったのだ。セカンド、ライト共に追いつくことが出来なかった。






「バックホーム!!」


 捕手の水谷が大声でボールを呼んでいる。視線を向けると、ツーアウトでスタートを切っていた2塁ランナーが3塁を回って、ホームに突っ込んできていた。


 捕球したライトの飯野が慌ててバックホームする。送球は少し逸れ、キャッチャーのタッチが遅れた。




「セーフ!」


 逆転2点タイムリーヒット。討ち取った当たりだったものの、8回裏に逆転を許してしまった。









「ゲーム」


「「ありがとうございました!!」」


 スコアはそのまま2対3で動かず、俺たちは負けたのだった。9回表はツーアウト2、3塁と同点、逆転のチャンスまで作り出したが、あと一本が出なかった。


「非常に惜しかった。それだけに悔しさは去年以上だな。次はいよいよ夏だ。3年生は残りの3か月を後悔のないように過ごしていこう」


「「はい………」」


 返事にいつもの元気はない。無理もない。加賀を抑えた瞬間、ほとんどの選手が勝ちを確信しただろう。4番打者が打ち上げた瞬間、誰もがアウトを確信しただろう。それだけに、負けたというこの現実をなかなか受け入れることが出来ないでいた。野球に絶対などないと思わされる試合だった。




 そしてこの瞬間、俺たちの最後の夏はこれまで同様ノーシードで戦うことが決まったのだった。



勝負に勝って、試合に負ける。野球に絶対はない。

次回は新入生登場!

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