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初合宿

合宿初日


 朝はいつも通り集まり練習が始まった。午前はこれまでに引き続き守備練習をメインに行い、昼食を挟んで午後は打撃、走塁、バント練習をバランス良く行った。


 日が沈みボールが見えなくなったところでグラウンドから撤収し、宿泊施設に荷物を運び込んで夕食となった。


 夕食後はグループを2つに分け練習が再開された。半分は室内練習場に移動して室内でバッティング練習を行う。残り半分は真っ暗なグラウンドに行き、室内グループと交代するまでポール間をインターバル走し続けた。


 1年の何人かは食後すぐに動いたことで我慢できず、嘔吐してしまうものもいた。こういう事態を見越して全員がポケットにビニール袋を常備していた。


 交代を終え、すべての練習を終えたのは21時過ぎだった。宿泊施設に戻って軽食やプロテインを補給し、風呂に入って部屋に戻ったときには時間は22時を過ぎていた。


 そこから1年生は洗濯(2年生の分もまとめて)を行い、洗い終わったものを室内に干して部屋に戻ったときには23時だった。


 翌朝は6時から朝練が始まる。1年生は4時半には起きて昨晩干した洗濯物を回収し、自分の支度をしてグラウンドに向かう。


 グラウンドでは6時からすぐ練習が開始できるように道具の準備を行った。朝練は7時を少し過ぎたところまで行い、その後朝食、そしていつもの練習時間となっていく。


 普段の休日練習が休憩時間を抜いたらおよそ9時間前後なのに対し、合宿での1日の練習時間は食事等の休憩を抜いておよそ13時間。それがほぼ5日間続く(初日の朝練と最終日の夜練はない)。


 特に1年生にとっては洗濯や練習前の道具の準備等、練習以外のところでも時間を取られてしまうので、疲労はかなりのものだった。マネージャーが食事の準備、片付けを行ってくれるのがせめてもの救いだった。







「それで、近藤先輩は何してるんすか?」


「え?何って、洗濯物を干してるんだよ。見たら分かるでしょ?」


 俺は1年生に混ざりながら洗濯物を回収し、干すのを手伝っていた。人数分のユニフォーム以上に、汗をかいて着替えたたくさんのアンダーシャツやタオルがあってそれなりの量になっていた。


「いや、それは見たら分かるんすけど……。洗濯は1年の仕事っすよ?他の先輩は早めに部屋に引き上げて休んでるじゃないすか。近藤先輩はそうしないんすか?」


「だってこのあとも練習するだろ?お前らも少しでも早く練習できたほうがいいかと思って。俺も一人だとトス上げてくれる人がいなくて素振りだけになっちゃうからさ」


「…………」


 俺の言葉に星形はなぜか絶句していた。何か見てはいけないものを見てしまったみたいな顔をしている。


「あの………ちなみに木下先輩や岩井は………」


「木下はダウンしてる。岩井は明日誘うよ。お前も毎日だと身体壊すだろうし。1日ずつで交代だ。1年だからあまり無理はさせられないからな」


 俺なりの優しさを見せたつもりだった。なぜか星形が予想と違う表情をしているけど、なぜだろう?


「ち、ちなみに近藤先輩以外に練習しに行く2年生はいるんすかね?ほら、一人だけ練習量が多いとやっぱりケガのリスクとか心配じゃないっすか………」


「んー、どうだろ。明は部屋にいなかったから恐らく走ってると思うぞ。他はみんなダウンしてたから今日は明と俺だけかな」


 明のことを話すと、星形が何かを察したかのように大きなため息をついた。


「分かったっす。じゃあさっさとこれを終わらせて、早く行くことにするっす」


「そうだな。時間は有限だし、急ごう」


 その後俺と星形は日が変わるまで室内練習場で打ち続けるのだった。


 


 2日目よりも3日目、3日目よりも4日目と疲労の蓄積のせいか、練習はキツくなっていった。


 しかも4日目と5日目に関しては重点成長能力を走塁に変え、疲れた身体にさらにムチをうって、下半身をいじめ抜くことになったのだった。


 そして普通の練習に加え、星形は1日目と3日目の夜、岩井は2日目と4日目の夜に俺と練習を追加で行ったので他の部員よりも練習量は確実に多い。疲れはピークに達しているだろう。








「よし、今日で合宿は終わりだ。この5日間よく頑張った。明日1日は全員しっかりと身体を休めること。オーバーワークは怪我に繋がるぞ。全体練習は新年が明けて、4日から行う。室内練習場は自主トレで使っていいが、明日から1日までは使用禁止とする。俺が今日鍵を締めて持ち帰るから諦めろ。2日の8時には戻しておくから、そこからは自由に使って良いからな。では、解散」


 5日間に及ぶ合宿は、一人もケガすることなく無事に終わったのだった。全員幸せそうな表情でグラウンドから部室へ戻っていく。


 俺は星形と岩井と木下といういつもの4人で部室まで歩いていた。3人の表情もかなり晴れやかだった。


「いやー、無事に終わって良かったよ。1年は特に大変だったな」


「洗濯や準備は近藤先輩も手伝ってくれたっすから。まぁ、その分練習量は増えましたけど」


「昨夜なんか、半分寝そうになりながらトス上げてました。次は年明けですね」


「お前ら何言ってるんだ?」


 俺の言葉に3人が足を止めた。


「近藤冗談だよな?」


「近藤先輩、室内練習場は2日まで使用禁止っすよ?」


「オーバーワークは良くないって言ってた気がしますけど………」


「オーバーワークは明日1日は休めって話。使用禁止は明日から。冗談はお前の顔だけにしろよ。さ、練習するぞ!」


「「「勘弁してぇぇえええ!!!」」」


 その後2時間ほど練習したところで、山田監督がさすがにもう帰れと室内練習場に乗り込んできたので解散することになった。


 3人はその後2日間、しっかり休むことになったのだった。


これがほんとの寝正月。

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