報酬と2人目
『とりあえず9月の残り半分は走塁練習だな』
『………まぁ、仕方ないですね』
県大会で敗れた翌日、俺たちは走っていた。
8月は試合も組まれていたので、ある程度の負荷に抑えられた練習内容になっていた。しかし、試合がなくなったオフシーズンの今はその制限がなくなっていた。
ベースランニングの量が増えたのはまだ優しい方だ。タイヤをロープで引いて走るタイヤ引き、タイヤを雑巾がけのように押していくタイヤ押しが追加された。
メディシンボールを抱えて短距離や長距離を走ったり、重りを使って鍛えたい筋肉の部位に合わせてトレーニングを行ったりするなど、様々な道具も追加された。
俺が前世の30年間の監督時代に行ってきた練習を、就任2年目の山田監督に伝えて道具を用意してもらったのだった。
選手からのヘイトはすべて山田監督に受け止めもらうことにした。俺は悪くない……はずた。
そんな地獄が約2週間続き、なんとか全員無事に月末を迎えるのだった。
「月末までなんとか生き延びれた。これで、やっとあの地獄から開放されるはず……」
疲労困憊でベットに倒れ込み、携帯に目を向ける。いつものように神様から送られてきていたメールの中身を確認した。
『神様 2022/09/30
宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
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月末報告じゃ!
久しぶり、神様じゃ。元気にしとるかのぉ?今日で9月が終わるので、月末報告をするぞい。
◎個人能力値
近藤 裕太(2年) 右投げ右打ち キャプテン
※各数値の最大値は100
※数値の右側は補足説明
〇ポジション
ファースト61(+3)
他0
〇打撃
・ミート力 59(+2) バットにボールを当てる能力
・スイング速度 56(+2) スイングの速さ
・パワー 58(+2) 打球速度、飛距離
〇走塁
・足の速さ 45 (+4)単純な足の速さ
・走塁技術 34 (+2)ベースランニングとスライディング
・盗塁技術 25 (+2)リード、スタート、スライディング
〇守備
・肩の強さ 39(+2) 距離
・送球の正確性 37(+2) コントロール
・握り変え 33(+3) 取ってから握り変える早さ
・捕球力 37(+3) 球際の強さ
・打球判断力 37(+3) ボールとの距離感、スタート
・守備範囲 41(+4) (足の速さ+打球判断力)÷2
〇投手
・球速 98km/h
・制球力 8
・スタミナ 11
・変化球 なし
〇その他
・体力 63(+3) 練習をする上で必要不可欠
・精神力 47(+3) 様々な場面での度胸
・サインプレー 37(+2) 理解力
・バント 40(+2) バントの技術
◎チーム評価
※最大値は10
・投手力 4
・打撃力 4
・機動力 4(+1)
・守備力 4(+1)
・指導力 4(+1)
・対外評価 3
◎推薦枠部員情報
・星形 光(1年) 打2走5(+1)守4(+1)投1他3(+1)
・岩井 武(1年) 打4走2守3(+1)投1他3(+1)
◎アドバイス
指導力を向上させよ。
「よかった……本当によかった」
これで、またしばらくは普通の練習に戻るはずだ。……戻るよね?
「当初の予定通り指導力を4に上げることができた。ということはメールがもう一通………あ、やっぱり届いてた」
俺は届いていたもう一つのメールの中身を確認した。
『神様 2022/09/30
宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
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めでたいのぉ!
なかなか良いペースで進んでおるのぉ。このメールは指導力が上がったことを祝福するメールじゃ。めでたいのぉ。山田監督にもよろしく伝えておいてほしいのじゃ。
今回、レベルアップしたことで報酬があるぞい。選択肢を用意しておいたから、決まったらメールで教えるのじゃ。
それと、指導力4で『マネージャー』の性能がアップするからよろしくのぉ。今後の成長も楽しみにしておるわい。では、またのぉ!
指導力レベルアップ報酬として下記の中から1つが与えられますので、お選び下さい。なお、選ばれなかった項目は次回選ぶことも可能です。
①『照明設備導入』
練習時間を伸ばすことができます。
②『寮の設置』
県外からの生徒を入部させることができるようになります。
③『合宿の開催』
短期間で効果的な練習が可能です。
「選択肢が3つに増えてるな。どれを選ぶかは山田監督と相談だな」
メールを見ると、もう一つ気になる文言が目についた。
「マネージャーの性能がアップ?詳細は書いてないけど、何か効果でもアップするのかな?」
確かマネージャーの効果は練習効率の上昇、疲労蓄積量の減少だったはずだ。今以上に性能が上がるって正直予測がつかないな。
「まぁ、山田監督にも伝えて確認してみよう」
俺は安心して、夢の世界に旅立つのだった。
『山田監督、これはどういうことですか?』
『知らん。朝、急にお願いされたんだ。俺が1番驚いた』
それは先程起きた出来事が原因だった。練習が始まる前に俺たちはベンチ前に集められた。何か山田監督から連絡があるのかと、待っていると。山田監督が一人の女の子を連れてきた。
「えー、今日からマネージャーとして入部することになった緑川さんだ。自己紹介よろしく」
「はい!今日からお世話になります、1年の緑川 遥です。2年の赤羽先輩に誘っていただいて、入部することを決めました。みなさんの力になれるように頑張ります。よろしくお願いします!」
部員たちから盛大な拍手が巻き起こる。ちょっと、盛大すぎて山田監督が少しムッとしている。俺の話でそんな喜んだことないだろ、って顔をしていた。
「仕事内容は2年の赤羽に聞くように。では、お前らは練習開始!」
「「はい!」」
単純な男たちは元気にアップを開始したのだった。
『マネージャーの件はとりあえず置いといて、報酬はどれにしますか?』
『現状で1番効果が期待できそうなのは合宿かな。照明と寮はもう少し部員が増えてからでもいい気がするからな』
確かに山田監督の言うとおりだ。人数がそこまで多くないうちのチームは日が沈むまでにある程度練習メニューを消化することができている。室内練習場でも自主トレはできるし、まだ必要はないだろう。
寮も今のところを県外から入部希望者が来るレベルではないから必要ないだろう。いずれは必ずほしい設備の一つではあるが……。
『じゃあ神様にメールして合宿を選んだことを伝えておきますね』
『あぁ、そうしてくれ。その結果に応じて重点成長能力をどうするか決めよう』
『………え?と、いうことは今日の練習は……』
『マネージャーが入ってお前たちがやる気に満ち溢れているからな。今日はいい走りっぷりが見られそうだ』
『……………』
この後俺らはめちゃくちゃ走ることになったのだった。
2年のマネージャーは赤羽 真子です。名前を出す場面が特になかった……。




