対外試合解禁
練習試合を明日に控えた練習終わりに、俺たちは監督のもとに集められ、今後の予定について説明を受けた。
「今後の予定だが、最初の公式戦は4月8日から始まる春の県大会予選になる。ちなみに抽選会は、2月中にすでに済んでいる」
甲子園に出場するための方法の1つは、夏の千葉県大会で優勝することだ。その戦いを有利にするためには今回行われる春の県大会でベスト16に入り、シード権を獲得する必要がある。
春の県大会に出るための予選は、秋の県大会ベスト8以外の高校が8ブロックに別れて行われる。そこから勝ち上がった40校と秋の県大会ベスト8の計48高校が県大会出場となる。
ちなみにうちの高校が所属するブロックには18校いるが、今回はそのうち2校が予選免除となっている。なので、今回は16校で5つの枠を争うことになる。
限られた枠を争うライバルが2校もいないので、今回はかなりチャンスといえる。
俺たちは今回の組み合わせでは2勝すれば県大会だ。初戦は秋の大会では予選敗退している駒台高校だ。
「メンバー提出が2月だった関係で、今回の背番号は秋と同じでいく。だが、レギュラーはまだ確定してはいない。予選までに練習試合を何回か組んでいるから、そこで試合感を取り戻しつつ、この冬での成長を見せてくれ」
人数的に全員がベンチ入りできるから、背番号さえもらっていれば全員にチャンスがあるということだ。特に俺は明確なレギュラー争いをしている人たちがいるから、結果を出し続けるしかない。
今日はオフシーズンが明けて、初めての練習試合だ。相手は秋の大会で予選敗退している、杉戸高校だった。山田監督情報だと、ピッチャー中心の守備型のチームらしい。
「今日は今シーズン初の試合だから、野手はスタメン以外も全員出すからな。試合の進行具合を見ながら、いつでもいけるようにしっかり準備しておけよ。では、スタメンを発表する」
1番 レフト 北野(2年 背番号7)
2番 センター 田中(2年 背番号8)
3番 セカンド 川内(2年 背番号4)
4番 ライト 秋田(2年 背番号9)
5番 サード 斎藤(2年 背番号5)
6番 ファースト 近藤(1年 背番号3)
7番 キャッチャー 水谷(1年 背番号2)
8番 ピッチャー 石井(1年 背番号1)
9番 ショート 町村(1年 背番号13)
月末報告のアドバイスに従って、メンバーと打順を少しいじってきたみたいだ。俺もそのおかげで6番に打順が上がることができた。
練習試合の回数は、山田監督から聞いた限りだとそこまで多く予定されていない。予選が始まるまでの限られた機会の中で、今の俺たちにとって最適な打順をなんとか見つけていきたいものだ。
2回表 ノーアウト ランナーなし
打席が回ってきたけど、初回に連打で1点先制しているからここは気楽に打ちにいくことにしよう。
相手ピッチャーの持ち球はストレート、カーブ、スライダーは確認できた。ここまで初球はほぼストレートを投げている。とりあえずはそこに狙いを絞って、思い切って打ちにいこう。
『狙いの球種→ストレート
打ち方 →フルスイング
成功確率 →30%』
俺は頭の中に聞こえてくる声を確認し、マウンドの投手に改めて集中する。
初回は打たれていたが、回が変わって落ち着きを取り戻したようだ。サインを確認後、ゆったりとしたフォームから第1球が放たれた。
『カキーーン!』
「しゃぁ!」
打ったときの手応えに、思わず声が出てしまった。打球は、左中間を深々と破る当たりとなった。余裕で2塁まで達し、今シーズンの初打席から幸先の良いスタートをきることができた。
「長打なんてなかなかないからな。これもオフシーズンに頑張ってきた成果か……」
俺は塁上で、この冬の努力が実を結んでいることで、感傷に浸っていた。
これなら今年の公式戦は期待できるかもしれない。
「ゲーム」
「「ありがとうございました!」」
試合は7対1で勝利した。打線は爆発し、ほとんどの選手がヒットを打っていた。途中で交代したものの、俺自身も4打数3安打1打点と初の3安打をマークした。特に2打席目はランナー3塁の場面でしっかりとライト前に打ち返して、ランナーを返すことができた。
先発した明は9回を投げきり、完投勝利だった。三振も多く取り、それなりに球数を投げていた。しかし、冬場に投げ込みと下半身強化をしたことで、最後まで投げきる力を身につけたようだった。
今回の勝利は内容も良かったので、山田監督も満足そうな表情で試合後のミーティングで試合の講評を話していた。
「今日はお互い大活躍だったな。俺は完投で、裕太は3安打だ!」
「本当にな!こんな上手くいくとは思わなかったよ」
「何言ってんだよ!このオフシーズンに正月以外ほとんど休まず練習してきたじゃないか!俺たちならこれぐらい余裕だろ」
帰り道、俺と明のテンションは高い。それだけ、半年ぶりの試合が楽しかったのだ。
「俺たちだけじゃなく、今日はほとんど全員が残って練習してたな。そういえば2年生の先輩たちはあと夏の1回しか、甲子園にいくチャンスはないんだよな」
明は、ふと真顔になって先輩たちの話を始めた。試合後にいつもなら帰っていた2年生の先輩たちも残って練習していたのを思い出したようだ。
「甲子園いきてぇな」
「あぁ……そうだな」
俺にとっては30年という期間の中のまだ1年目だ。正直、前世の経験からしばらくは甲子園に手が届かないことは覚悟している。でも、先輩たちや明は違うのだ。
他のみんなにとっては1度しかない高校野球人生。限られたチャンスの中で甲子園にいかなければならない。隣にいる明はその2年半のうち、もう1年が終わるところなのだ。
「俺はお前と甲子園にいきてぇな」
「裕太、お前何気持ち悪いこと言ってんだよ。……まぁ、でもそうだな。俺もお前といきたいな」
今の俺たちならできる。前世のときよりも順調に進んでいる。この調子なら、明と一緒に甲子園だって……。
甲子園にいきたい
甲子園にいけらいい
甲子園にいく
甲子園にいかなければならない
甲子園への思いは人それぞれ。




