新たな仲間
「今日は月末報告か」
悔しい敗戦から約1か月。とりあえずは走塁面を強化しようということで集中的に練習に取り組んできた。
下半身強化メニューで身体的成長を、走者をおいた状態での打撃練習で技術的成長を目指してきた。
バント練習も以前よりは練習頻度は上がったが、これにはまだそこまで力を入れてはいなかった。
平日は授業も再開していたので、練習時間いっぱい走っていても特に問題なかったが、休日は地獄だった。
打撃練習や守備練習の際にはある程度場所もとられるし、一度に打ったり捕ったりする人数は限られているので、合間合間に身体を休める時間があった。
それに対して走塁練習はある程度大人数が一気にできる上、全力で走るので長い時間の練習には向いていなった。
上手く下半身強化のトレーニングを間に入れたり、あまり疲労が溜まらない実践的な練習の中で走塁技術を鍛えたりと、工夫したメニュー構成にしたことでなんとか1か月乗り切ることができたのだった。
「これで特に効果が出ていなかったら神様に文句言ってやる」
俺は神様から届いていたメールを確認した。
『神様 2021/09/30
宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
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月末報告じゃ!
久しぶり、神様じゃ。元気にしとるかのぉ?今日で9月が終わるので、月末報告をするぞい。
◎個人能力値
近藤 裕太(1年) 右投げ右打ち
※各数値の最大値は100
※数値の右側は補足説明
〇ポジション
ファースト28(+3)
他0
〇打撃
・ミート力 27(+2) バットにボールを当てる能力
・スイング速度 25(+2) スイングの速さ
・パワー 27(+2) 打球速度、飛距離
〇走塁
・足の速さ 25 (+6)単純な足の速さ
・走塁技術 17 (+6)ベースランニングとスライディング
・盗塁技術 9 (+4)リード、スタート、スライディング
〇守備
・肩の強さ 19(+2) 距離
・送球の正確性 18(+1) コントロール
・握り変え 13(+1) 取ってから握り変える早さ
・捕球力 17(+2) 球際の強さ
・打球判断力 18(+1) ボールとの距離感、スタート
・守備範囲 21(+3) (足の速さ+打球判断力)÷2
〇投手
・球速 98km/時
・制球力 8
・スタミナ 11
・変化球 なし
〇その他
・体力 35(+4) 練習をする上で必要不可欠
・精神力 26(+3) 様々な場面での度胸
・サインプレー 16(+3) 理解力
・バント 16(+2) バントの技術
◎チーム評価
※最大値は10
・投手力 2(+1)
・打撃力 3
・機動力 2(+1)
・守備力 2
・指導力 2(+1)
・対外評価 2
◎アドバイス
チームの武器を作ろう。
「……とりあえず落ち着いて見ていくか」
ざっと最後まで見たのだが、いろいろと思うところがあった。
まずは9月に力を入れていた走塁面。3つの項目で、どの数値にも大幅な上昇が見られた。これについては大満足だな。今後はもう遠慮したいけど。
次はバントの項目だな。これまでは上がり幅が0か1だったが、今回は練習にある程度組み込んだことで数値が2も上がった。
監督としてはこの上がり幅で満足なのか、それとも来月から強化していくつもりなのか。その場合は重点成長能力はその他?それともバント?指定の仕方はいったいどうするんだろう。
最後にチーム評価が3項目も数値が上がっていた。機動力は理解できる。あれだけやってむしろ上がっていなかったら怒っていたところだ。
でも投手力はどうして上がったのだろう。一度も重点成長能力に設定していないし、練習量もそれほど多かったわけでもない。しかも練習してるのは投手をしている3名だけ。俺なんて、入部してから一切数値が変動していない。
そして、とうとう指導力が上がった。きっかけはなんだろう。公式戦初戦突破したからだろうか。でもそれは試合に勝った日の夜にメールが来てたし……。
とりあえずは明日山田監督に報告してから考えよう。その方が効率がいい。
俺はもう寝ようと思い、メールを閉じた。
「あれ?もう1通届いてる。2通なんて初めてだな」
今まで同じタイミングに複数送ってくることなんてなかった。何かあったのだろうか?俺はメールを開いて中身を確認することにした。
『神様 2021/09月/30
宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
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めでたいのぉ!
2通も届いて驚いておるかもしれんのぉ。このメールは指導力が上がったことを祝福するメールじゃ。めでたいのぉ。山田監督にもよろしく伝えておいてほしいのじゃ。今回、レベルアップしたことで報酬があるぞい。今後の成長も楽しみにしておるわい。では、またのぉ!
指導力レベルアップ報酬として『マネージャー入部』が与えられます。
効果は練習効率の上昇、疲労蓄積量の減少です。
次回性能アップは指導力4です。
「……もういい。明日になったら考える」
俺は思考を放棄して目を閉じるのだった。
『ちょっと待て、情報量が今回は多すぎる』
『そんなの俺に言わないでよ……』
俺は昨日の2通のメールの内容を山田監督に伝えた。最初にたくさん伝えることがあるからと断りを入れ、返答は終わるまで待ってもらうことにして一息で話したのだった。
『とりあえずは走力練習はここまでだろうな。ある程度の効果は確認できたし
『じゃあ次はバント?』
『いや、アドバイスがまたチームの武器を作るに戻っていたから打撃でいいだろう。バントもこの練習量で、十分成長が見込めるようだしな』
当初の予定では走力を鍛えたあとに、バントを徹底的に鍛えるつもりだった。ただ、バントを武器にするつもりは俺たちにはないので、1番最初の打ち勝つチーム作りに戻すことにした。
『分かりました。重点成長能力は明日の朝、変更しておきます。そういえば打撃力、守備力、走塁とやって来ましたけど投手力はいいんですか?』
『今のところは保留だな。3人の投手陣の頑張りで順調に成長しているようだし。それに野手陣にとっては効率が悪すぎるからな。人数比を見ても今は諦めるしかないだろう』
確かにそこは俺も考えていた。明のことを考え、投手力を鍛えたい気持ちもあるのだが、3人のためにチーム全体の成長を犠牲にするのは今は難しい。
いずれ重点成長能力が複数決められるようになるといいんだけど……。
『それにしてもビックリしましたね。指導力の数値が上がったこととマネージャーの件。まさかこんなすぐだなんて』
『俺なんて報告聞く前だったからもっと驚いたぞ』
部活が始まるときに珍しく監督に全員集められた。何事かと思って話を聞くと、なんと今日からマネージャーが入部したということを伝えられた。俺たちと同じ1年生の女の子だった。
『偶然ってあるもんなんですね……』
『これは偶然っていうか、明らかに意図的だと思うけどな』
俺の脳天気な発言に、山田監督は不服そうに反論した。
1年目の10月1日、俺たちのチームに新たな仲間が加わったのだった。
マネージャーはこのあとも増えます。ハーレム要素は搭載しておりません。恋愛要素は……要相談です。




