秋の大会 二次予選
『打つことだけが点を取る手段ではない……か』
『はい……どう思いますか?』
翌日の練習中、俺は山田監督に月末報告の内容を伝えていた。
『うーん……1つ思いつくのは小技かな』
『小技ですか。バントとか?』
『そうだ。後は走塁面だな。盗塁やエンドランとか、足を絡めた攻撃だと思う。実は俺も考えていたんだ』
『え!そうなんですか?』
『練習試合でバントのミスが多かったり、盗塁失敗が多かったり、公式戦で多用するにはまだ今のチームには難しいんだよ』
確かに練習試合では積極的に盗塁やエンドランを試していた。バントも成功率が決して高いとはいえなかった。
『だから大会ではほとんど使わなかったんですね』
『そうなんだ。失敗するリスクが高すぎてな。小技が安定して使えるようになれば、うちのチームの勝率も上がってくるはずなんだけどな』
『秋の大会二次予選は明後日から始まるので、日数的に効果はすぐには期待できないですけど重点成長能力を変更しておきましょうか』
『そうだな。最初は走力の方から頼む』
『分かりました。明日の朝変更しておきます』
「今日のスタメンを発表する」
あっという間に秋の大会の二次予選がやってきた。抽選の結果、初戦は坪﨑高校になっていた。夏の大会は2回戦敗退。今のうちなら、勝つ可能性は十分あり得る相手だ。
本日のスタメン
1番 セカンド 川内(2年 背番号4)
2番 センター 田中(2年 背番号8)
3番 レフト 北野(2年 背番号7)
4番 ライト 秋田(2年 背番号9)
5番 サード 斎藤(2年 背番号5)
6番 キャッチャー 水谷(1年 背番号2)
7番 ファースト 近藤(1年 背番号3)
8番 ピッチャー 石井(1年 背番号1)
9番 ショート 越後(2年 背番号6)
スタメンは一次予選のときと同じだった。一次予選敗退後も8月中は打撃練習がメインだったので、みんなの打撃力は向上しているはずだ。早めに打って、先発の明を援護出来ればいいのだけど。
1回表 ツーアウト ランナー満塁
まさかの初回から打席が回ってきた。しかも満塁。
相手ピッチャーの立ち上がりを攻め、4番の秋田先輩のタイムリーで1点先生した。
その後、相手ピッチャーは制球が定まらず連続四球で満塁となっていた。
ここは是が非でも追加点が欲しいところだ。だが、無理に打ちにいって凡退して、制球が乱れてる相手投手を助けることはしたくない。
とりあえずはファーストストライクが入るまでは様子見しかないな。
「ボール」
「ボール」
「ストライーク!」
初球はストレートがアウトコースに外れた。2球目はカーブが高めに浮いてボール。3球目にストレートがど真ん中に投げられた。
カウントワンストライクツーボール。もう1球待ちたい。だけど、今みたいにど真ん中に投げてカウントを取りに来ることも考えられる。そのボールだけは思い切って打ちにいくことにした。
『狙いの球種→ストレート
打ち方 →センター返し
成功確率 →40%』
ピッチャーはセットポジションに入り、投球動作に入った。俺はそれに合わせてタイミングを取り始める。
「ボール」
投げてきたのはカーブ。アウトコースに外れていたので手を出さなかった。
これでカウントはスリーボールワンストライク。さすがに1球様子見だな。
「ボール、フォアボール」
結局最後はストレートが明らかに高めに外れ、押し出しにより追加点が入った。打ってを点を取りたがったが仕方ないだろう。
「ゲーム!」
「「ありがとうございました!」」
その後も打線は打ち続け、6対2で公式戦で初勝利することができた。
俺は3打数1安打1打点2四球だった。ヒットは打てたがランナーがいない場面だったので、次はチャンスで1本打ちたいものだ。
「今日はよくやった!次の試合は明後日だ。今日は帰って疲れを取るように。特に先発した石井は明後日も投げてもらうから、しっかり休むんだぞ。では、解散」
明は7回 被安打4 失点1 四死球2 奪三振5と好投した。まだ投げられそうだったが、明後日に備えて7回でマウンドを降りたのだった。
その日、俺と明は今日の試合を振り返りながら意気揚々と帰宅するのだった。
「今日はそこまで疲れてないけど、もう寝よう」
1日練習したときと比べると疲労感はあまりない。だが、明後日にはまた試合だし、体力はできるだけ回復しておきたい。
「………あれ?メールだ」
携帯にはメールが届いていた。俺は開いて中身を確認した。
『神様 2021/09月/03
宛先:baseball.8989@anu.ne.jp
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レベルアップじゃ!
公式戦初勝利おめでとうなのじゃ!順調に進めているようでわしは嬉しいぞい。早速だがお知らせじゃ。条件を満たしたので、レベルアップしたぞい。それによって報酬も与えられるので、内容は下の方に書いておいたぞい。今後に生かすとよいぞい。では、またのぉ!
○チーム評価
対外評価1→2(+1)
○報酬
新入生推薦枠(県内2)獲得
「………何これ?」
俺は明日山田監督にあったときに考えようと決め、思考を放棄してベットに入り横になるのだった。
『山田監督、昨日チームの対外評価の数値が上がりました』
『そうか!公式戦で初勝利したからそのおかげかもな』
『俺もそう思います。あと、報酬として新入生推薦枠?が獲得できたんですけど』
『え!?そういうことだったのか!』
俺の報告に驚いた声が聞こえてくる。そこまで驚くようなことなのだろうか?
『えっと……そんなに驚くことですか?』
『あぁ、いきなり大声出して悪かったな。実は今日の朝校長から野球部の活躍を受けて、新入生の推薦枠を増やすという話をいただいていたんだ。もともとは枠は1つ用意してくれてたんだけど、いきなりもう1つ増えたから不思議に思っていたんだ』
なるほど、それは俺でも驚くな。新入生推薦枠がこの時期にいきなり増えたと思ったら、それが神様の仕業だったなんて。
『でも、これってかなりありがたいことですよね?』
『そうだな。有望な選手がたくさん入ってきてくれたほうが甲子園優勝の可能性が高くなるからな』
今後も数値が上がれば枠も増えるのかな。そういえば県内って書いてたけど、いずれは県外からも来るのか?その時は神様の力で引っ越しでもするのだろうか……。
4月の新入生入部が、今から楽しみになってきたのだった。
満塁でフォアボールって……。そこは打たんかい。でも、打って凡退したらと考えたら……。フォアボールしか勝たん。




