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新たな人生

「甲子園優勝したかったな……」


 俺はその言葉を最後に目を閉じる。思えば上手くいないことばかりだった。


 山田 康夫(やまだ やすお)として生を受け、小学校から始めた野球にのめり込んだ。高校生になり、甲子園出場を目指して必死に練習した。惜しくも予選決勝で負け、あと一歩のところで甲子園を逃した。


 ならばと大学では必死に勉強して教員資格を取得し、卒業後すぐ教員試験に合格して高校野球の監督となった。


 そこから監督人生30年。一度も甲子園に行けずに、監督業を引退。その年に病気が見つかり、すでに手遅れということもあってか俺は53歳でまもなくこの生涯に幕を閉じることになる。


 好きな野球に携われてこられただけ、幸せだったと思おう。


 だか、もし生まれ変わることができたら次こそ甲子園に行きたい。いや、甲子園で優勝したい。


 最後にそんなことを思いながら、俺は意識を手放した……。








 目を開けたら知らない天井が見えた。病院の天井って、こんな感じだっただろうか……。


「ここは……どこ?」


 首を動かして辺りを見渡すと、どこかの部屋のようだった。誰かの部屋に運ばれたのだろうか。


 俺は体を起こそうとしてみる。今の俺は体を起こすことさえ満足にできないはずだが、なぜか普通に体を起こすことができた。


「どうなってるんだ……。しかも、この体はいったい……」


 ベットから出て自分の体を見る。ずっと高校野球の現場にいた俺はかなりガッチリとした体型だったが、晩年は病気のせいもあってかなり痩せてしまっていた。しかし、今の俺の体は服越しに見てもかなり健康体である。昔の俺の体型とはまったく違うのが気になるが……。  


「こいつ、誰だ?」


 俺は部屋の中にあった全面が映る程の縦長の鏡を見つけ、その前に立ってみる。そこには俺ではない、坊主頭の少年が立っていた。


「この顔は……確か近藤 裕太(こんどう ゆうた)か?」


 俺はこの顔に見覚えがあった。俺が監督になって最初に迎えた新入生で、3年生のときにキャプテンになった選手だったからだ。自分が一から育てた代の最初のキャプテンだからこそ、ギリギリ記憶の片隅にあったのだ。


 「と、いうことは……今は2021年か」


 携帯のカレンダーを見ると、2021年4月6日火曜日だった。


 30年前にタイムスリップ?いや、転生?よくわからないがそういう状況ということは段々理解してきた。


 「とりあえず学校いくか……」 


 今日は入学式だった。初日から遅刻するわけにはいかないので、とりあえずはこの状況を受け入れて学校に向かうのだった。


 





「なんで俺がいるんだ?いや、30年前ならいて当然なんだけど……」


 入学式後の新入生と保護者に対する職員紹介が行われ、そこには前世?の俺がいた。教員1年目の山田 康夫だ。


 俺はわけが分からないままその日は普通に高校生をして、帰宅するのだった。






「そういえば家に携帯忘れたんだった」


 非現実的なことの連続で家に忘れ、その後も夜になり寝る直前まで携帯の存在は忘れさられていた。


 アラームをセットしようとすると、メールが来ていることに気付いた。


「勝手に見てもいいのかな……。でも、今は俺が近藤だし、俺宛なら見ても構わないか」


 自分なりに理由をつけて納得し、届いたメールを確認する。



『神様            2021/04/06

 宛先:baseball.8989@anu.ne.jp

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 こんにちは、神様じゃ。

 無事目覚めたようで、安心したわい。はじめまして、神様じゃ。

 

 今回、君の思いに応えて甲子園で優勝するための機会を特別に与えたぞい。君が死ぬ30年後までに、甲子園優勝を達成するのじゃ。

 

 今、君が過ごしている近藤くんが卒業したら、次は翌年入ってくる1年生に体が変わるぞい。つまり3年ごとに新しい体になるというわけじゃ。この機会にお主の長年の悲願を叶えられるとよいのぉ。

 

 禁止事項は君が転生者であることを山田 康夫以外に話すことじゃ。後は普通に人としての当たり前、法律等を守ってくれればそれでよい。

 

 ちなみに甲子園優勝するまで君は成仏できんぞ。30年で達成できなければ、また近藤くんからやり直しじゃ。しかも、その際はペナルティーがある。この1回で達成することをお薦めするぞい。


 長くなったがこの辺で終わりにするわい。年寄りは話が長くなってしまって困ったもんじゃ。何かあればメールせい。できるだけ早めに返すように心掛けるわい。では、達者でのぉ。






「……何これ?」


 メールは神様からだった。俺はこれは夢だと思うことにして画面を閉じ、ベットに横になった。疲れていたのか俺の意識はすぐに遠のいていった。

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