呼び出し
和泉に拒絶されてから数日。
私はあの女について調べていた。
本当はすぐにでも和泉をあの女から解放してあげたかったけど、私はあの女について何も知らない。これまでに和泉から話がでたこともなかったし、タイプ的にあまり関わらなそうに見えるが、今は確認するたび、いつも和泉の横にはあの女がいる。
あぁやって和泉を脅して自分の支配下に置いているに違いない、可哀そうな和泉。待っててね、すぐに私があの女から解放してあげる。
元々私のことが好きな和泉のことだ。私が行動を起こせば、すぐにでもあの女の元から私の所へ戻って来るだろう。
和泉を取り戻すために、あの女の情報は少しでも多い方がいい、そのために数日間、私はできるかぎりあの女と和泉を監視していた。
その結果、あの女についていくつかわかったことがある。
名前は梓沢 志穂。成績は中の上。
髪の色、制服の着崩し方を見てわかるように校則を守ろうとするような真面目な人間ではないが、その見た目から男子からの人気が高く、それでいて女子の友達も多いようだ。
つまりはただ外見がいいだけで、なんの取り柄もない女。それが梓沢だ。
交友関係は広いようだが、それに反して誰とも付き合っていないようで、色恋沙汰の噂はまったくない、それもあの女が情報を制御しているからだろう、和泉を脅していることからそんなことまるわかりだ。
きっと男もとっかえひっかえで連れまわしているに違いない。
最低な人柄ということはすぐにわかった。一刻も早く和泉を解放しなくてはいけない。
そう考えていた頃に思いもよらず、鍵となる情報を得ることができた。
実は梓沢は和泉と小学校からの知り合いだそうで、二人はお互いに避けるようにしており、仲良く話をするような間柄ではなかったそうだ。最近の二人の関係の急な変化のせいで、二人の話題はそこかしこから聞こえてきた。
なんでも梓沢は小学生の頃、自分に優しくしてくれた和泉のことを捨てたのだそうだ。それからお互い話をしていることはなかったが、仲直りでもしたのではと、その話はそこで終わっていたが、そんなはずはない。
一時期は仲良くしていたのに、周りから噂されたことで、あっさりと和泉を切り捨てたあの女だ。
そんなことをする女が今、和泉を大切にしようとしているわけがない、これが証拠になる。
この事実をたたきつければ、あの女も和泉の友達なんて建前を言うわけには行かなくなり、本心を知った和泉はすぐに私のもとに戻って来るだろう。
その日の昼休み、私は梓沢を生徒会室に呼び出した。
生徒会室で梓沢を待っていると、先に姫野がやってきた。あの日から姫野とはほとんど話をしていない。
「湊、先に来てたんだ、お弁当、食べる?」
「姫野、今から生徒会室で他の生徒の相談に乗らないといけないの、悪いけど今日は他のところに行ってくれない」
「そ、そうなんだ。ごめん。あと、この前は本当にごめん、私は本当にからかうつもりは…」
「別にいいよ、あれがあんたの本心なんでしょ、それよりここ使うって言ったよね?早く出て行ってくれない」
「っ……わかった。ごめんね」
姫野は顔を伏せて生徒会室から出て行った。
所詮、あの女も人を揶揄うような最低のヤツだったんだ。いつもは私に合わせる振りをしていて、心の中では私を馬鹿にしていたに違いない。そんな女、友達でもなんでもない、私には必要ない。
和泉だけだ。
和泉だけが私を本当に必要をしてくれる。私には和泉だけがいればそれでいい。
私は和泉を何が何でも取り返す覚悟を決めた。
「失礼します。呼び出しとか、何のようですか?生徒会長」
少し待っていると梓沢がやってきた。なんともふてぶてしい、呼び出されたことが面倒だと隠そうともしていないその態度に私はイライラを抑えるのがやっただった。
「呼び出された理由もわからないの?」
「……髪の色ですか?スカート丈ですか?」
「あなたは本当にバカなのね。和泉のことに決まってるでしょう」
「……和泉がなんです?」
「もう和泉に付きまとうのは止めて、あなたが和泉を騙すか脅していることはわかっているの」
「は?何言ってるんですか?」
梓沢は少し動揺しているようだった。いきなり真実を言い当てられたんだ。あんな反応になるのは当然。私は勝ち誇ったように話を進める。
「和泉はね、私のことが好きなんだよ」
「和泉が先輩のことを、好き?」
「そう、これは別に私だけがそう思っているわけじゃなく、他の人もそう言ってる疑いようもない事実なの。その和泉が私のことを拒絶するなんて、普通に考えてあり得ない。お前が和泉に何かしていると考えるのは自然なことでしょう」
「……」
「何も言えないようね」
「……和泉が先輩のことが好きって本気でそう思ってるの?」
「どういう意味?もしかして私をバカにしてるの?」
急に笑い始めたと思ったらすぐに真面目な表情に戻る梓沢。こいつ頭がおかしいんじゃないだろうか、いや、人を脅したりするようなヤツだ。常識で当てはめないほうがいい。
「そのままの意味です。私が和泉を騙してるわけでも、脅してるわけでもない、和泉が自分の意思で会長から離れたんですよ」
「そんなわけない!和泉は私のことが好きなの!あり得ない、お前は和泉の友達ぶってるだけの最低の人間だ。証拠もある。お前は和泉の隣にいる資格なんてない!和泉が望んでお前の元にいるはずがないんだ!いいから、和泉から離れて!」
「嫌ですね。私と和泉が仲良くすることを会長に止める権利なんてないはずです。ましてやこれは和泉本人の意思なんですから」
「こっちには証拠もあるの、小さな頃に和泉を捨てた女に和泉が自分からついていくわけない!」
「人の過去をかってに調べて最低ですね。それに私は、会長こそ和泉の隣にいる資格はないと思いますよ」
「……」
「それじゃあ、失礼します。和泉がお昼待っててくれてるんで」
そう言って、梓沢は生徒会室から出て行った。最後にこれ見よがしに和泉と昼食を食べることを嫌味のように伝えてきたあの女、相当性格悪い。
「ゴミみたいな女」
一応、警告はした。それでも止めないというなら、もう遠慮もしない。
私が、あの女から和泉を救い出すんだ。