悪いのはあいつだ
和泉が、私を怖がってる?
和泉は、私のことを好きじゃない?
どうして?私が悪かったの?そんなわけない!
でも、それならさっきの和泉の、あの表情は?
なんであんな目で私を見たの?
なんで?なんで?なんで?なんで?
なんで?なんで?なんで?なんで?
なんで?なんで?なんで?なんで?
ねぇ、なんで?
あの休み時間の出来事からずっと、私はなにも考えられなかった。
結局、あの時はすぐに始業のチャイムが鳴り、やってきた教師に教室に戻るように指示された。それからのことはなにも頭に入ってこない、ただひたすらに和泉のことしか考えられなかった。気がつけばとっくに放課後で、まわりではすでに帰りはじめている生徒もいた。
そうだ、こんなことをしている場合ではない、早く和泉のところに行かないと、和泉を連れてあの教師に和泉は生徒会を辞める訳がないと懇切丁寧に説明してやる必要がある。
そう思って立ち上がったところで、和泉のあの表情を思い出し、足が止まる。
怯えたような表情、明確にでていた拒絶の色。
今までの和泉なら私を見た途端に嬉しそうに笑い、駆け寄ってきていた。私から見ても、周りから見ても和泉が私に好意を持っていることがはっきりと分かるくらいには和泉の態度ははっきりしていた。それが一転してあの表情、いきなり生徒会を辞めることといい、正直訳が分からなくなりそうだった。
また和泉からあんな表情をされるかと思うと怖くて仕方ない。
気が付くと私の身体は震えていた。
何かがおかしい。
私が和泉に嫌われるなんてあり得ない、まして私は和泉に何もしていない。私に原因があるとは思えなかった。
だとすると和泉がああなってしまった原因は他にある?
そこまで無理やりに思考をまとめ、何気なく窓の外を見ると、和泉が歩いているのが見えたが、見えたのは和泉だけではなかった。
和泉の横には先程、私たちの仲を邪魔してきた女生徒がいた。
確か名前は梓沢だったか、和泉と梓沢は楽しそうに談笑しながら歩いている。
男女が二人で歩いていること自体は珍しいことでもないが、私には梓沢が和泉に近づきすぎているように見えた。
和泉は笑っている。
あの優しそうな、見ていると安心する笑顔は常に私に向けられていた。
それが今や、本来私がいるべき位置にはどこの馬の骨とも知れない女がいて、和泉の笑顔を、独占している。
とても不快な光景。
その光景を見て私は気がついた。
あいつだ。
あいつがすべての元凶だ。
和泉が私を嫌いになるわけがない。
あの女が和泉を騙しているんだ。もしかしたら、和泉は脅されて望まぬままあの女と一緒にいるのかもしれない!いや、きっとそうだ!和泉はあの女にいいように騙されて、脅されているんだ!
そうでなければあの和泉が私を拒絶するなんて考えられない。
そうだったんだ。
おかしな事だけど私は少し安堵していた。
和泉が私を避けるような態度をする理由がわかった。
原因はあの女で、和泉が私を嫌いになってはいなかったと分かり心底ホッとした。
それほど私にとって和泉は大切な存在だったのだと改めて自覚する。
私はだいぶ落ち着きを取り戻した。これから私のやるべき事は一つだ。
あの女から和泉を解放してあげないといけない!
そう決意した時には、もう身体の震えは止まっていた。
もう和泉にあんな目で見られても平気だ。少しくらい我慢して、私が和泉の目を覚ましてあげるんだ。
よかった、私は嫌われてない。
私は、悪くない。
悪いのはあいつだ……