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「応酬


次の日の朝、私は和泉を家まで迎えに行った。

メッセージを送ると、準備して待っていたようですぐに和泉が玄関から出てくる。


「おはよう、志穂さん」

「和泉、おはよう」


微笑みながら挨拶をしてくれる和泉。


あぁ、なんて幸せなんだろう。

いつか取り戻したいと思っていたものが今、私の目の前にあった。


和泉に見えないように、後ろ手に自分のお尻の肉をつねってみる。



普通に痛い、夢じゃないんだ。


朝から幸せ過ぎて、私にはいつもの風景が輝いて見えた。




学校についてからも私は和泉と常に一緒にいた。

仲のいい友達には紹介して、グループで囲み、常に一人にはしないようにもした。


職員室にも和泉に付き添っていき、教師に生徒会を辞めたいと考えていることも相談した。

体調面から無理はできないことを伝えて、少し世間の目を意識させることを言えば保身のことしか頭にない教師もすぐに納得した。


これからは休み時間も放課後も和泉の時間は私のものだ。


和泉と常に一緒にいるために、やるべきことをして少し安心した時だった。


あの女が教室に乗り込んできたのは……



「和泉!いる⁉」


大きな声を出してあの女が入って来た時、和泉は相当驚いた表情をしていた。


状況をすぐに理解できていなかったみたいだけど、次第に表情が怯えたものに変わって行く、それほど信頼していたんだろう。今はその反動でかなり臆病になっているみたいだった。


一向に動かない和泉に我慢できなくなったようで、羽月が詰め寄って来る。


「和泉!先生から聞いたよ、生徒会辞めるってどういうこと?」

「あ、それは、その……」

「冗談だよね、あの教師はバカだから本気にしてたけど」

「え?ば、バカって……」

「前から思ってたんだけどね、あいつ和泉の後任探してるよ、ほら一緒に行ってやめさせよう」

「せ、先輩!」


怯える和泉のことなんか考えていないのか、羽月は和泉を掴もうとする。


この女、和泉が生徒会からいなくなることに相当焦っているみたいだ。いつもの物静かな様子が嘘みたいなくらい別人に見える。


ただ、私にとっては都合がよかった。いい具合に私の引き立て役になってもらおう。掴もうとしている手を振り払い、和泉を庇うように前に出る。



「は?」

「失礼ですけど先輩、和泉が怖がってるんで止めてください」

「私は生徒会長の羽月。知ってるよね?あなたの名前は?」

「梓沢です」

「そう、梓沢さん。私は今生徒会関係の話で和泉に用があるの、関係のないあなたは邪魔しないでくれない?」

「関係ありますよ」

「何が?」

「私は和泉の友達なんで、和泉が嫌がってることは止めます。それに和泉はもう生徒会を辞めることになってますよ」

「それは何かの間違いなの、今からそれを正しに行く、それに和泉が私を嫌がるなんてあるわけない」



「会長は和泉のことちゃんと見てないんですか?」


そう言って挑発すると、冷静を装っていた羽月の表情が変わった。

丁寧に取り繕っていた今までの口調も変わり、怒鳴り散らしてくる。


「ふざけないで、私と和泉の仲なのよ!和泉のことは私が誰より知ってる!誰か知らないけど出しゃばらないで!」



この女も相当必死なんだ。和泉を手放さないように必死で繋ぎとめようとしている。

だからだろう、その大切な人すら、今はしっかりと見ていない。



「今の和泉を見てもそんなこと本気で言えますか?」


そう言って私は身体を少しずらし、和泉の怯えた、拒絶の色を浮かべた表情を見せてあげた。

自分に向けられている感情の変化に気付いたのだろう、次の瞬間には羽月は呆然と立ち尽くしていた。


結局、その場は授業に来た教師に羽月が教室から出されて終局した。

あんな表情をされたら、それなりにこたえただろうかとも考えたが、そこは私の認識が甘かった。


その後も何日にもわたって羽月は和泉に付きまとってきた。

生徒会室に私を呼び出したり、和泉に直接会いに来たり、今日に至っては朝から待ち伏せまでしていて、羽月はまったく和泉のことを諦めてはいなかった。


それどころか、あれは自分を見失っている。


このままいけば、こちらから何をするでもなく、あの女は自分で和泉を手放すことになるだろう。



私はただ見ているだけでいい……

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― 新着の感想 ―
[一言] このヒロイン好きになれんわ... 生徒会長も不憫やなぁ。。
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