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妬み


放課後になるとすぐ、和泉はテンション高めに教室を出ていこうとする。


和泉の嬉しそうな表情は見ていて、とても可愛らしい。

少し、見すぎてしまったようで、視線に気が付いた和泉もチラリと私の方を見た。


目があったのは一瞬で、すぐに和泉は私から目をそらす。


先ほどまでの笑顔は私には向けられない、今あの笑顔を独占しているのは、一つ年上の女、和泉の大好きな生徒会長だ。


名前は羽月湊。


羽月は私と和泉が中学に入った時、生徒会の役員をしていた。真面目そうな見た目で、大人からも信頼されているようだった。


実際に真面目で勉強もでき、しっかりしている羽月は、和泉にとって理想の人に見えたんだと思う。

あの一件以来、すっかりと元気をなくし、引っ込み思案だった和泉が自分から生徒会役員になりたいと立候補していた。


羽月と生徒会で仕事をするようになってから和泉はどんどんと昔のような元気さを取り戻していった。


私のせいで暗くなってしまった和泉が、羽月のおかげで徐々に立ち直っていき、明るさを取り戻していく、私はそんな和泉をただただ見守っていることしかできなかった。


私ができることと言えば、和泉が苦手そうな人をさりげなく近づけないようにすることくらい。


中学の三年間で私が和泉と会話できたのは、たぶん両手の指で数えられるくらいしかなかった。そんなことは自分のせいで仕方ないことだけど、私以外の女に和泉が惹かれていく姿を見るのは、拷問のような日々だった。


和泉を悲しませた私には羽月との仲をどうこうする資格なんてない、これは和泉を悲しませた罰だと必死になって耐えた。


私は和泉が求めてくれたら何でも差し出して和泉の力になりたい、けれどそれは和泉が求めてくれたらの話だ。和泉の目には今はもう羽月しか写っていない。


二人の仲を無理やり壊すなんてことをしたら、きっと成功しても私も和泉に嫌われるだろう。それを考えれば、私は黙って成り行きを見守るしかなかった。


私への救いといえば、まだ幼い和泉が自分の恋心に気が付いていないこと。真面目な羽月も色恋には疎いことだった。


二人の関係は進展することなく高校生になった今も変わらずにいる。

けれど最近の和泉の様子はこれまでと違う、羽月を見る目に浮かんでいるのは、あなたが好きだと自覚している色。

きっと和泉は気が付いたのだろう、羽月のことが好きな気持ちを……





放課後、校庭のベンチに座って時間をつぶしていた私は、昇降口からふたりで出てくる和泉と羽月を見つけた。


ふたりの間には穏やかな空気が流れていて、はたから見てもいい雰囲気なのがまるわかりだった。


少し見ていると和泉が慌てるようにしながら羽月と一緒に帰らないか誘っていた。


もし、今和泉の隣にいるのが私だったら、なんて意味のないことを考える。

ふたりのあの空気を見れば、羽月の方も和泉を意識しているのはすぐにわかる。このまま二人は一緒に帰るんだろう、と私もそう思っていたけど……


羽月は和泉の誘いを断って一人で帰って行った。

後に残されたのは少し、落ち込むようにしている和泉だけ、そんな和泉もすぐに前を向いて歩き出す。


予想外の展開だった。

都合のいい展開だけど少し驚いていた私は、あることに気が付いた。


離れていく二人の近くに何人かの男子生徒が集まっている。あれはたぶん羽月と同じ学年の男子だと思う。


そいつらが和泉と羽月について話をしているのは、視線や話声からすぐにわかった。

ついでにどんな話をしているのかも、私にはわかった。


私もやられたことがある。

あの苦い思い出、きっと和泉と羽月の仲を揶揄っているのだろう、面白おかしく他人の関係を話のネタにして笑っている。


和泉はたぶん気が付かなかった。羽月に夢中だったから、けど羽月は気が付いた。


先に歩き出していた羽月は一度立ち止まって男子たちを見ていた。その目には苛立ちが浮かんでいる。あの目は昔の私と一緒だ。


揶揄われるのが嫌で嫌で嫌で仕方なくて、すぐにでも爆発してしまいそうな、そんな目だ。


今の羽月は昔の私と同じで、だからこの後どうなるのか私にはなんとなく、見えてしまった。


もし、私の考えた通りになったとしたら……


もし、羽月も和泉を傷つけるようなことをしたら、もう遠慮はしない。

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