みんな邪魔
昼休みに梓沢にした忠告は無駄に終わった。
あんな女と話し合いをしようと思った私もバカだった。
まともに話もできないような女に手を引くように伝えるより、和泉に直接話をする方が早い。
私は午後の休み時間を使って和泉と話をするために教室に向かった。
「……なに?」
「いや、こっちのセリフだし」
「上級生がなんのようですかぁ?」
私が和泉の教室に近づいてきたところで、見知らぬ女生徒たちに行く手を阻まれた。
たぶん、和泉のクラスの女子たちなのだろうが、私は面識がない、見た目はバカっぽい、梓沢に似たような女たちだ。
きっと梓沢の仲間たちなのだろう、私はため息をついて通してもらうように話をしてみる。
「このクラスにいる和泉に会いに来ただけよ、あなたたちには特に要はないから通してくれない?」
「通すわけないじゃん、小清水の事、虐めてんでしょあんた」
「小清水は体調悪いのに、無理やり働かせようとするなんてサイテー」
「……」
正直、梓沢の仲間に話が通じるとは思っていなかったけど、予想通りだった。
和泉の本心は生徒会で私と一緒に働きたいと思っているはずなのに、それもわからず梓沢にいいように利用されているんだろう。特に同情する気にもなれないけど……
結局、そのまま和泉には会えずに休み時間は終わってしまった。
まぁいい、放課後だ。帰り際の和泉を捕まえれば、教室に入れないように邪魔されることもない。
放課後になったらすぐ用意して帰る和泉を待伏せしよう。
そう考えていた私の作戦も、思わぬ形で邪魔されてしまうことになる。
「湊!私の話を聞いて!お願い!」
「……どいてよ」
放課後、すぐにでも用意をしたかった私の元に隣のクラスから姫野がやってきた。
しかも、教室で、他にまだクラスメイトたちがたくさんいる中で大声で謝罪を始める始末。
気になってやってきた野次馬も増えて、とてもすぐに教室を出れるような空気ではなくなってしまった。
「ねぇ湊、あの日の事、まだ怒ってるんでしょ?ごめんなさい」
「もうそのことはいいよ姫野」
「嘘、だってあの日からまともに話もしてくれないじゃん。私、謝るから」
「いや、だからもういいんだって、そんなことより私急いでるの!」
「……やっぱり許してくれないの?」
あぁ、なんて鬱陶しいんだろう。
私はいいって言ってるのに、なんでそうなる……
姫野は本気で謝りたいわけじゃないのかも、ただ優しくしてほしくて上っ面だけの謝罪を繰り返しているみたいに見える。本当に、私にとって不快になるようなことしかしない。
こうしている間にも時間は過ぎていく、私は急いでいるのに……
「姫野、私の言ってることがわからないなら、本当にもういいよ。私、今急いでるから、さようなら」
「あ……みな、と……」
私は姫野を置いて無理やりその場を後にした。
引き止められてしまったせいで、だいぶ時間をロスしてしまった。
急いで和泉の教室に向かった私だったが、時すでに遅く、和泉はもう帰ってしまっているようだった。
姫野のせいだ。
今回は姫野のせいで、また和泉と会うことができなかった。
ほんと最悪だ。
梓沢も、姫野も、梓沢の取り巻きも、和泉の後任をさがしているバカ教師も、何でみんな私と和泉の邪魔をするんだ。
私も和泉が好きで、和泉も私のことが大好きなのに、それなのにみんなが私たちの邪魔をする。
まるで他人はみんな敵みたいだ。
世界が私と和泉を引き裂こうとしているのかと感じてしまう。
もう、私には和泉だけなんだ。
和泉だけが私の味方で、和泉さえいてくれたら他にはなにもいらない。
明日は必ず和泉と話をしよう。
これ以上、和泉と会えない日々なんて我慢できない。
和泉と話せばすべてが変わる。和泉は私の元に戻ってくる。
そう信じて私は何の疑いもしなかった……
翌日、早朝から徐々に生徒たちが登校してくる。
私は確実に和泉に会うために、一番に来て昇降口で待機していた。
真面目な和泉のことだ。割と早い時間に登校してくるだろうと私が考えていたように、和泉は割と早い時間帯に登校してきた。
やっぱり、私と和泉は以心伝心だ。相手のことが全てわかるようで、私は嬉しかった。
が、和泉の隣に梓沢がいるのを見て、すぐに気分を害されてしまう。
あの女はどこまで、和泉に迷惑をかけるのだろうか……
私に気が付いたようで和泉と目が合う。
和泉は相変わらず、私に笑顔を向けてくれない、こわばったような表情で固まってしまった。
さらに梓沢も私に気が付いたのか、和泉を隠すように前に出てくる。
一体あの女は何様のつもりなのだろうか、まさか彼女でも気取っているのか?
それだとしたら勘違いも甚だしい、笑ってしまいそうになる。
「和泉、おはよう」
「待ち伏せですか?ずいぶん怖いことしますね」
和泉に挨拶をしたのに関係のない女が返答を返してくる。本当に邪魔な存在だ。
「私は和泉と話してるの、あなたは邪魔だから勝手に会話に入ってこないで」
「和泉に何の用ですか?」
「私の言ってることわかる?それとも日本語がわからない?」
「先輩こそ、和泉が委縮してるのがわからないんですか?」
「それはあなたが、和泉を騙しているからでしょ」
「妄想も甚だしいんですけど」
梓沢は引く気がないようで、和泉との間に立ちふさがり続けている。
だけど、関係ない、和泉には私の言葉が届いている。私が語りかけていれば必ず答えてくれるはず!
そして、私の考えは間違っていなかった。
「……先輩」
「和泉!和泉!やっと返事をしてくれた。目が覚めたんだね。ほら、こっちにきて、今までみたいに一緒にお話ししよう、ね」
私は俯く和泉に手を差し伸べた……
「ご、ごめんなさい。今はまだ先輩と話をしたくないんです。失礼します」
一瞬、目の前が真っ白になって視界がなくなった。
和泉は何を言っているのか、言葉の意味がまったく理解できない。
差し伸べた私の手をすり抜けて和泉は学校に入って行くが、私は混乱していて和泉を追いかけることができなかった。